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【REVIEW】NOT WONK 『dimen』

北海道苫小牧市を本拠地にし、2010年に結成してから11年目、今年2021年に入り、4枚目『dimen』(ダイメン)を発表した。

2015年に『Laughing Nerds And A Wallflower』を銀杏BOYZのアビコシンヤがチーフ・プロデューサーとして運営していたKiliKiliVillaから発表、彼らはその知名度を大きく広げていった。

2015年というとKiliKiliVillaが発足してすぐの頃、レーベル初のCDとして発表されたのが、後にレーベルとも関わり深くなっていくバンドらが一堂に介したコンピレーションアルバム『While We’re Dead.: The First Year』。その1曲目を飾ったのがNOT WONKの「Laughing Nerds And A Wallflower」だ。

コンピレーションアルバムは4月20日に、NOT WONKのアルバムは1か月後の2015年5月20日に、それぞれ発売されることを考えると、切っても切れない関係を想像してしまう。

KiliKiliVilla | KKV-004FN RELEASE - 2015.4.22『While We’re Dead.: The First Year』

NOT WONK - Laughing Nerds And A Wallflower (ALBUM ver) 

ちなみにNOT WONKは自身らでデモ音源を制作し、前年にあたる2014年には京都の主体にしたインディ・レーベル生き埋めレコーズから発表されたコンピレーションアルバム『生き埋めVA』にも楽曲を提供している。

littlekidsの杖野真太郎、sprintklubの菅沼祐太、THE FULL TEENZの伊藤祐樹の当時20歳の3人によってできたレーベルで、当のコンピレーションアルバムは『"20代前後"で"もちろんかっこいい"、"ルーツのある音楽をやってて上っ面だけじゃない"バンドを集めた』というチョイス基準で各バンドを選んだ。NOT WONKは「Guess What I'm Thinking」を提供しており、参加しているバンドも上述の3組以外にも、And Summer Club、MILK、odd eyes、メシアと人人など、全国津々浦々から集まったメンバーだった。

この2枚に収録されたバンドらは今でも活動しているバンドが多く、NOT WONKとも深い関係をもったバンドばかり。その後、2010年代におけるアンダーグラウンドなインディーシーン、パンクロックやハードコアシーンのつながりを考えれば、KiliKiliVillaとNOT WONK周辺のバンドがもたらしてきた影響力を無視はできないだろう。

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『Laughing Nerds And A Wallflower』を最初に聴いたときは、かなり驚いたし、戸惑ったことを覚えている。00年代を通過した日本のロックバンドのおおよそは、大型ロックフェスへと目を向けていたり、音楽的にもポストハードコア/メロコア、下北沢を中心にしたギターロックやポストロック/マスロックなどで、そういったタイプのバンドが多くの者に知られていたタイミングだった。

こう書くと怒られそうだが、ギターリフの置き所、オブリガード(オカズ)の置き方やパターン、ブレイクの置き所や置き方、ギターサウンドのエフェクトや音色に至るまで、「映える」や「飾り気」が求められがちで、どうしても派手さやサウンドが求められていた。

彼らのファーストアルバムは、そういった飾り気や派手さとは無縁のように感じる。ギターサウンドやエフェクトは数種類しかないのか?と思えてしまうくらいで、多彩に変わっていくわけではない。曲中ではクリーントーンを使って単音フレーズを弾いていくこともあるし、ギターサウンドを数多く、効果的に重ねているわけでもない。そもそも彼らは3人組バンドで、ライブとなるとよりギターサウンドは薄く聞こえてしまう、はずだ。

はずなのだが、今作の魅力はギターサウンドだけを追いかけていると分からないはずだ。イントロ→Aメロ→Bメロ→サビのような分かりやすい構造をした楽曲が少ない、もしくは定番であったり、お手本ともいえようコード進行であったり、「ここでサビ!」と思えるところでスルっと違う展開にいってしまうし、「ここで大声で歌うパートがくる!」と思えるところをバッサリとカットしてしまう。ミドルテンポで抑えめに始まり、どこで盛り上がるのか?と待っていると「ここで?!」と思えるタイミングで盛り上がっていく。

今作は、曲の展開や構造のサブライズ性をとても多く含んだ一作だったし、それらにはこれみよがしな「飾り気」「映え」を気にして、ムリヤリに詰め込まれた緊張感がほとんど感じられない。形や飾り気を一切知らず、純朴なまま、剥き出しのパンクサウンドとして登場したのだ。しかも、2015年というタイミングでだ。

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そこからの彼らの変化と成長は、パンクであるというイメージや型をどう抜け出し、あるいは受け継いでいくかか、という部分が大きくなっていく。

『This Ordinary』『Down the Valley』と経ていくことに、様々な要素が彼らに加わっていく。

例えば『This Ordinary』はパンクらしいファストなスピード感から急減速してスローにもっていく、あるいはその逆をいくような曲展開とアンサンブルが耳をつく、前作よりもソリッドかつ効果的に使われた「On This Avenue」「Older Odor」の2曲。「Golden Age」ではベースのフジによるハイフレットに留まってのフレージングがあり、「Boycott」などではドラムスのアキムによるドラム・パターンも面白い。

アンサンブルがブレイクすること(メロディーやリズムの流れを一時的に停止すること)を多用して、それまでの展開を無視するような急展開をもった曲が増え、前作よりも歪んだギターサウンドによるグラデーションが大きく彩ることになったといえよう

サードアルバム『Down the Valley』はKiliKiliVillaからのリリースではなく、エイベックス・エンタテインメントにあるレーベルcutting edgeに所属してからのメジャーデビューのファーストアルバムとなった。

NOT WONK / Of Reality

いくつかのインタビューで答えているが、この作品は転機作であろう。メジャーデビューだからポップス化したということもなく、分かりやすい曲構造になったわけでもない。今作においても、彼らの変化と驚きははやはりバンドアンサンブルにある。

「Subtle Flicker」「Of Reality」「Shattered」などの序盤の曲では、優しくタッチされて生まれる音色と、より複雑になったバンドアンサンブルをこなしているのがわかる。

各楽器のフレージングやリズムへの意識が変わったことで、ガツっと音をぶつけ合うだけではなく、楽器それぞれの合間や行間を読み、スムーズかつ丁寧に演奏していこうとしている。特に「Of Reality」「Shattered」にそれがよく表れているだろう。

もう一つ大きな変化というと、加藤のボーカルだ。

ファルセットが今作ではかなり多く使われていて、発声や発音も胸声をうまく使ってグっと男らしさが出て、大人らしい風格がある。いくつかのインタビューで答えているように、ソウルミュージックやシンガーソングライターからの影響をはっきりと口に出している。

「2017年以降にハマったのは、ファーザー・ジョン・ミスティ。彼の曲は縫い目がすごく綺麗じゃないですか。あとはエルヴィス・コステロとバート・バカラックの共演盤もかな。ソウルもよく聴くようになりました。だから……パンクをほとんど聴かなくなったんですよね」

https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/21872

「女性シンガー・ソングライターもよく聴いていて、サンディ・デニーやジョニ・ミッチェル、キャロル・キング……なかでもハマったのがジュディ・シルでした。曲のなかでの縫い目の綺麗さと歌の神々しさ――そのふたつがキーだったように思います。ジェフ・バックリーはその二点を上手く融合している感じがして、彼の音楽はヒントになっていましたね」

https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/21872


ぼくが「Of Reality」を聴いたのは、2017年5月20日に新代田Feverで行なわれた「Real Good Time Together 2017」だった。緩やかなムードのなかにロマンティックなムードが漂うソウルミュージックらしい一面と、汗臭くぶつかりあうようなパンクロックらしさが同居した、かなり奇妙で、それでいて心地よい1曲だったことをよく覚えている。

穏やかな時にはグッドメロディにグッドボーカルで聴くものを魅了し、一気呵成に3つの楽器がぶつかりあって、狂乱の音波を生み出していく。その揺らぎは最新作『dimen』へと繋がっているわけだが、この曲はいまのかれらを生み出した定礎となった1曲だといえよう。

このような曲をやれそうなバンドというと、例えるならばArctic Monkeysになるだろう。とはいえ知っての通り、Arctic Monkeysはこういう手合いのパンクさからはいまは手を引いている。

ソウルミュージックらしさとパンクらしさが同居してるマジック、しかもこの2つのサウンドスケープから伺える定型的な範疇から、彼らの音楽はどんどんと外れていく。それがNOT WONKのコアになったのだ。

この日ライブ見た僕は、「うーーーーーーーーーわこれヤベーー曲作ったな・・・やべぇーーーになるぞ・・・」と勝手に盛り上がっていた。この時のライブが2017年で、アルバム収録までにはまるっと2年かかっていることを考えると、セカンドアルバムから本作に至るまでの制作は、バンド内での意識やアンサンブルそのものの変化に相応の時間が必要だったことを教えてくれるところだ。

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そんな大変化作となった『Down the Valley』からわずか1年で、本作『dimen』が発売された。

NOTWONKのように、全国を飛び回ってライブをこなすバンドにとって、コロナ禍の影響は計り知れない。それまで数年に渡っていたライブ活動を大きく縮小していくことになる。

生活の距離感、サイクルが大きく変わったことは、加藤本人に大きな影響を及ぼすことになる。

「正直な話をすると、僕は2019年にパニック発作が起きるようになっちゃってて、それが怖くて電車に乗れなくなったりご飯が食べられなくなったりしてたんですね。でも東京に来るために飛行機に乗らなきゃいけなくて、それがだいぶストレスになってたみたいなんです。だけど2020年は強制的に外出できない事態になった。そしたら急にスッキリしたんですよ。無人の渋谷が映るテレビの傍ら、窓の外には何も変わらない山があって……そうして故郷の景色を見ていると、きっとこれが俺の財産なんだなって思えて、気が楽になったんです。」

https://kompass.cinra.net/article/202103-notwonk_kswmn

「男は男であるだけでとんでもない特権を持ってしまっていると今さら実感してしまって。そのことに喰らって、考えていたのがここ最近なんです。男として生きている時点で不公平に加担しているんだけど、その構造から抜け出す方法も思いつかない。」

https://kompass.cinra.net/article/202103-notwonk_kswmn

「そもそも僕は「男らしい」とされているものがずっと苦手だったんですよ。男だからいっぱい食べなさいとか、男だからしゃんとしなさいとか、今考えたら意味がわからないじゃないですか。」

https://kompass.cinra.net/article/202103-notwonk_kswmn


インディーレーベルからメジャーレーベルへと移籍して活動規模・スタッフが増え、それまでの活動環境と異なっていったこと。社会情勢から浮かび上がってきた差別や分断をうけ、自己反省とリファレンスを意識しはじめた加藤。

「こうあるべきである」という定型・束縛・パターン・習慣・お決まり・様式から、自分たちを解放するということ。『Down the Valley』発売前後から感じてきた様々なストレスや葛藤が、2020年でいくぶんかスッキリとした状況になっていった。その結実が、本作にはハッキリと見て取れるといえよう。

『Down the Valley』でサウンドエンジニアを柏井日向を当初起用し、途中からillicit tsuboiを起用し、今作は完成をみた。コロナ禍の影響でスケジュール変更などをうけたなかで、2018年にodd eyesの名作『SELF PORTRAIT』のミックス/マスタリングを担当したことを知っていた加藤が、今作制作途中でツボイ氏に声をかけたという。

「『dimen』はデモを作るにあたって、DTMソフトを使用したのも大きいです。『Down the Valley』の時は、ギター1本弾き語りで作っていたんですけど、それとは作り方が全然違います。だからDTMのトレーニングを合わせると、『dimen』の制作には2年くらいかかっているかもしれません(笑)。」

https://tokion.jp/2021/03/28/not-wonk-shuhei-kato-interview-part1/

作曲のほとんどを加藤が務めており、おそらく初期段階では各楽器のフレーズもある程度彼が作っていると思われ、各作品ごとによって彼個人の変化が、メンバー2人にも影響を与えているのだろう。

『Down the Valley』で見れたバンドアンサンブルの変化は、今作でリズムの多彩化と曲構造の複雑化となっていよいよ形になった。6分以上の曲が3曲、5分台の曲が2曲、この5曲だけ今作の半分以上の時間を費やしている。

1曲目「spirit in the sun」はオペラのように3つ4つにまたがって展開していく組曲のような曲構成。4曲目「shell」はアコースティックギターも持ち寄って、ゆっくりと柔らかく包み込むようなシューゲイザーサウンドを広げている。

最終曲「your name」は、彼らが研鑽をつづけてきたバンドアンサンブルがネクストフェーズに行きついたことを示すような曲だろう。コードバッキングやパワーコードなどは一切なく、7分54秒のあいだほとんどアルペジオのみで構成され、かなり抑えめながらもコード感がしっかりと伝わる。

変化を顕著に感じるのはドラミング。ハットの淡々とした叩き方、シンバルを叩いたときに生まれるサステインも曲にマッチするようにコントロールしており、ソウルミュージックから得てきたエッセンスをうかがい知ることができる。

曲の途中からアンサンブルのスピード感がほんの少しだけ増し、バックボーカルとパーカッションが加わり、バンドアンサンブルが終われば、気づかぬうちにピアノの伴奏が入っていることに気づく。

あまりにもさりげなく加わっているのでちょっと驚くほどだ。「your name」でのアンサンブルは、彼ら史上でもとんでもなく優しく、ロマンティックなムードを生み出す。

your name has a shape in the mirror if I call.
I’m feeling so high.
When I call your name, you know your own name.
I guess nobody gets a name before they’re called.
To make a shape of your body, The water mirrors brightly.
I say it clear. I gotta new rose, I got it good, your name.
僕が声をかけると、鏡のなかで君の名前は形になっている
とても心地が良い、君の名前を呼ぶとき、君は君の名前を知るんだ
だれかが声をかける前なら、誰も名前を知らないままだろう
自分の形を作るときには、水は明るく鏡に映りこむ
クリアにしてみよう、新しいバラを得たら、君の名前をよぶ

ラブソングのように見えるが、先に挙げたような様々なストレスや葛藤を通過した加藤が、新しい自分を見つけ出したような言葉にも読み解けるだろう。

バンドアンサンブルの巧みさはこういった長めの曲だけでない。今作のいくつもの楽曲で、スキルと熟成を遂げたバンドアンサンブルを見つけることができるだろう。

特に「slow burning」でのオカズの入れ方やブレイクの仕方、ブレイクした後に音を再度重ねていくときには、ギター・ベース・ドラムスが様々な合わせ方を聴かせてくれる。

ガっと合わせる、エフェクトをかけて歪みと残響を残す、リムショットや単音フレーズを細やかに奏でたりなど、その手つきは明らかに「パンクバンド」のものではない。

2:30くらいからのボーカルとピアノから始まり、音を重ねていくさまはまさにソウルバンドやジャズバンドの手つきだろう。ソプラノサックスが加わることで、サウンドがグッと違って響いてくる。

ロックバンドがジャズをしているかのよう、ギクシャクとしたアンサンブルと興奮の狭間を感じるたびに、そんなことを思ってしまう。

とはいえ間違っていけないのは、NOT WONKがジャズバンドやソウルバンドになろうとしているわけではないことだ。

パンクも、ジャズも、ソウルも踏まえつつ、彼ら3人は新しい「NOT WONK」を求め続けている。加藤が自身のアイデンティティに疑問をもち、時に混乱してしまったように、NOT WONKはNOT WONKを疑い続け、常に新しい姿を魅せ続けているのだ。

その姿を、ネガティブにではなくあくまでポジティブに、しかも明らかな快楽性を持った音楽として今作を閉じ込めた。これほどに逞しくも頼もしい、変幻自在なバンドミュージックが生まれたこと。それが大きな影響を与えていくことを願っている。

「もとからNOT WONKはバンドでジャムって作ることを一切しないので。」

https://tokion.jp/2021/03/28/not-wonk-shuhei-kato-interview-part1/

・・・・・こういう曲を作るのに、ジャムって作るってことを一切しないって、マジなのか・・・・?

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