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70mmだョ!

同志Aからのお題:私の原点といえる旅


情報としては知っているが、実際に見たことはない。それが70mmフィルムの映画だった。

デジタルのパッケージにその座を譲ったが、かつては映画=フィルム。中でも通常の35mmフィルムに比べ横幅2倍の70mmフィルムは、ドンのような存在だ。テレビに対抗し、スクリーンのワイド化が進んだ1950年代に誕生した。大迫力かつ高画質、立体音響が売りだった。35mmからのブローアップを含め、大作といえば大劇場は70mm版でという祭りのような時代がしばらく続いたが、次第に下火に。

日本では92年公開の「遥かなる大地へ」が、久々の純正70mm作として話題になったのが最後のきらめきだろうか。当時私は大学生で、地元の映画館で見たが、残念ながら35mm版での封切りだった。県内唯一の70mm映写機のある大劇場だったが、同館では86年正月「コーラスライン」が最後の70mm上映だったらしい。

70mmはもう見られないのか…と半ば諦めていたが、チャンスは2003年にやって来た。渋谷・東急文化会館の閉館イベントの一つとして、パンテオンで「プレイタイム」〈新世紀修復版〉70mmプレミア上映会が催されるというのだ。万難を排して行かねば! 地元から東京へ70mmを見るための旅に出た。

1100席超を誇った都内屈指の旗艦劇場パンテオンで見た70mmの印象は「スクリーンが縦にもでかい」。湾曲した左右はもちろん、上下にもみっちり。隅から隅までずずずいとスクリーンだった。これぞ尻尾まで餡。

ありがたや、大願成就なり。しかし「ベン・ハー」や「アラビアのロレンス」など70mmといえばコレという超大作ではなく、淡々と進むフランスの風刺コメディ。それはそれで味わい深いはずだが、旅の疲れもあって、不覚にも途中でうとうと…嗚呼、YOUは何しに東京へ?

時は流れて2018年。映写まわりがすっかりデジタル化された時代に、70mmフィルムと再び相まみえる日が訪れるとは! 国立映画アーカイブで「2001年宇宙の旅」70mm版ニュープリントの特別上映があったのだ。

パンテオンのような迫力ドーン!を期待したが、スクリーンは本編用と日本語字幕用の上下2段組みで、本編用はそう大きくない(構造上目いっぱい頑張ったサイズと思うが、シネコンの中規模スクリーンぐらい)。

とはいえ、画質や音響は非常に素晴らしく、果敢にも70mmフィルムのニュープリント(クリストファー・ノーラン協力、あえてデジタル修復せず)を取り寄せ、上映する取り組みに拍手。サイズが満腹にならなかった分は、蕎麦大盛りで補完することにしよう。

日本で70mmフィルムが上映できるのは、今や国立映画アーカイブだけ。海外ではしぶとく生き残り、新作の公開や70mm専門の映画祭もあるとか。果たして70mmフィルムとの三度目の邂逅はあるやいなや。83年公開の「宇宙戦艦ヤマト完結編」70mm・6ch版を、いつか大スクリーンで見られる日が来ますように。

そんなことを思いながら、映画を見るための小さな“旅”は続く。千葉のキネマ旬報シアターで「約束」を、横浜のシネマ・ジャック&ベティで「リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス」を、墨田区の新館Strangerで「沖縄やくざ戦争」を…。



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