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あなたも意図せず使っているかもしれない"dumb quotes"とは?

こんにちは。最近はチャットなどで、反射的に文字で会話する機会が多くなってきていて、その分1文字1文字を吟味する時間って以前より短くなってきているように感じています。かといって「言葉」ひとつが軽くなったかといえば、そういうわけでもなく、TwitterやnoteなどのSNSで日々目ににする文字量が増えているからこそ、「言葉」の輝きはむしろ増してきているのでは?とも感じています。アートディレクターの市川です。

今回は言葉そのものではないけれど、欧文組版で使ってしまっていると少し恥ずかしい「記号」について紹介します。日常のチャットでは「流れて」で終わるものでも、企業の広報物や著作物でやってしまうと「ずっと残ってしまう」恐れがあるので、自身の襟を正す意味でもここに記しておこうと思います。

欧文組版の記号のミスで一番多いケースが英文原稿をwordからレイアウトへコピペする際に、意図せず正しくない記号でペーストされてしまう場合です。その代表的なものが今回紹介する「引用符」です。

引用符とは、日本語の「」と同じように、文中でほかの文章や言葉を引用したりするもので、英語の文章では引用符(クォーテーションマーク) を使います。

今も使われ続けるタイプライター時代の代用記号

画像の左の垂直になっているクォーテーションマークは、タイプライターの時代にできたもので、タイプライターに搭載できるキーの数が限られていたため、引用符を左右同じ記号として代用されていたのです。初期のコンピューターでも表示できる文字数が少なかったことから、この記号が用いられ続け現在に至るようです。
この記号はマヌケ引用符(dumb quotes)とも呼ばれ、組版したものや印刷物では使ってはいけない記号です。(英国では"Straight quotes"と呼ぶのが主流との見解もあるそうです)

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例えば、"Stay hungry, Stay foolish."というスティーブ・ジョブスの言葉を引用するとして、引用符が正しく使われていないだけで、せっかくの引用も「おなかをすかせて、おバカでいよう」みたいなちょっと残念な印象になってしまう恐れがあります。記号ひとつ間違えるだけで「マヌケ」に見られてしまうなんて、もったいないですよね。ちなみにTDC(東京タイプディレクターズクラブ) の審査でも正しい引用符が使われているかが「クリアすべき最低限の条件」とされているようです。つまりマヌケ引用符が使われている欧文組版はプロとして失格ということになります。(例外としてプログラミングやコーディングではこの"ストレート引用符"が使われます)

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環境設定でマヌケ引用符は自動でスマートに

欧文組版でマヌケ引用符が表示されないように、環境設定で設定することができます。InDesignでは以下の3つの設定を確認してください。

1.環境設定→欧文辞書を「英語:米国」(英国英語の場合は英国へ)に変更

アートボード 11

2.環境設定→テキストの文字オプション[英文引用符の使用]にチェック

アートボード 11 のコピー

3.新規にテキスト読み込み時には[英文引用符の使用]にもチェック

アートボード 11 のコピー 2

これでマヌケ引用符が表示されないように防ぐことができます。
Macを使っている場合は、デフォルトの環境設定でスマート引用符が入力されるように設定されています。ただし「入力」に関してだけなのでコピペする際には注意が必要です。

環境設定については以下の2つの記事も参考になります。

基準とする組版ルールによって記号の表記が変わる

欧文組版には使用される背景によって、基準となる組版マニュアルが異なります。例えば、イギリス英語圏では「オックスフォードマニュアル」、アメリカ英語圏の場合は「シカゴスタイルオブマニュアル」を参考にするのが一般的とされています。そのマニュアルに準拠するとイギリスではクォーテーションマークはシングル、アメリカではダブルが一般的となります。
しかし、マニュアルに絶対はありませんし、その時代や使われる背景などによって日々更新され変わってきます。大切なのは、クライアントや著者と組版方式についてしっかり基準を決めて継続して運用していくことが大切です。

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欧文組版の基本的なマナーや知識をもっと知りたい方は以下の書籍がおすすめです。私はいまだにルールや基本を覚えきれていないところがあったりするので、「あれ?これってどうだったんだっけ?」って立ち止まることが多く、欧文組版で迷ったらまずこの2冊を開いて読み返して確認しています。

時代とともにタイポグラフィが使われる背景はどんどん移り変わってきていて、ひとつの「絶対的なルール」なんて世の中には無いと思いますが、どんな場面でも柔軟に対応できるように、まずは基本的なルールを知っておきたいですね。

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