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セッションA パブリックアフェアーズが企業に標準装備されるためには?

こんにちは!日本GR協会の佐々木です。今回は、今年4月に開催した日本GRサミット2024のセッションA「パブリックアフェアーズが企業に標準装備されるためには?」の報告です。

セッションの目的

昔から日本では補助金獲得や既得権益の保護を目的に、企業人が政治家や総会屋対策を担ってきました。第4次産業革命が起こるとソフトウェアや知識が経済活動の中心的な役割となり、規律より創造性が求められるようになります。創造性の高い事業を社会実装するために新たな法令との向き合い方が議論され、ここ数年、政府や議員等の公共・非営利分野に働きかける「パブリックアフェアーズ(PA)」が日本社会に浸透しつつあります。本セッションではPA黎明期から実践してきたトップランナーが登壇し、経験とナレッジ、今後のPA業界の展望について語っていただきました。

パブリックアフェアーズ(PA)のトップランナーである4人

登壇者

  • 藤井宏一郎 マカイラ 代表取締役CEO

文部科学省から国際PR 会社を経てGoogle 株式会社執行役員に就任後、マカイラを起業


  • 宮田洋輔 株式会社ポリフレクト代表取締役社長/プロトタイプ政策研究所有識者メンバー

経済産業省、ヤフー株式会社を経て政策提言や官民連携を担う株式会社ポリフレクトを創設
  • 吉川徳明 株式会社メルカリ 執行役員 VP of Public Policy 兼 Public Relations

経済産業省、ヤフー株式会社を経てメルカリでeコマースやフィンテックを中心に、政策提言、ステークホルダーとの対話等に従事
  • モデレーター:朝比奈一郎 青山社中株式会社 筆頭代表 CEO/福井県立大学 客員教授

経済産業省退官後に青山社中株式会社を設立。政策支援・シンクタンク、コンサルティング、教育・リーダー育成を行う

セッション概要

※敬称略

パブリックアフェアーズが必要だと感じた原体験

  • 2000年代当時はNPOを含めて国民や市民の間合意形成を作る手法が誰も持っていなかった。欧米がやっているNGOのリーダーマーケティングやPR手法を公共政策部門に応用したかった(藤井宏一郎)

  • 2013-14年になると、WebやSNSをはじめとするシリコンバレーの大型プラットフォーム型ビジネスの限界が見えてきた。テックラッシュの時代において今後はリアルワールドの社会課題を解決する動きが必要となる。社会課題解決のためのルールメイキングを実装するべくマカイラを設立した(藤井宏一郎)

  • 経済産業省時代に原子力安全・保安院に就き、原子力に関する法令の運用を担った。原子力事故対処に関する行為のほとんどが違法であり、社会状況に合わせてルール自体を変えていく必要性を強く感じた(宮田洋輔)

  • 経済産業省時代に東日本大震災直後に行われた計画停電に対応するべく、Yahoo!と連携して電力需要の予測を行った。公共的な役割を果たすのは政府の専売特許だけでなく、民間も担えるものだと感じた(吉川徳明)

パブリックアフェアーズには意味があるのか?

  • パブリックアフェアーズをやらなければあらゆる外部要因に全てを任せる状況になる。弊社の場合は7〜8割が何となく上手くいく。時間さえかければ全ての政策を"いつか"実現することができると思っているが、ビジネス戦略の制約上、取捨選択が必要である(宮田洋輔)

  • 比較的簡易に変更することができ不合理な規制の場合は政策当局に伝えることで規制改革につなげることができる。しかし制度の根本に関わる規制はなかなか変えることができていない(宮田洋輔)

  • 毎年度予算と人員に関する厳しい議論が社内で行われている中、メルカリではパブリックポリシーに関わる人を10数名設置している。年間2億〜3億の人件費をかけることができている事実がパブリックアフェアーズの意味を物語っている(吉川徳明)

  • メルカリのビジネスモデルの性質上、ロビイングだけでなく警察庁や各都道府県警をはじめ政策当局との関係構築活動が必要になる。社内ではそこにも価値を見出してもらっている(吉川徳明)

  • パブリックアフェアーズは「法律を改正できる/できない」だけの仕事ではない。ビジネスのレベルによってガイドラインの制定や自治体とのパイロットプロジェクトの実施等対策が様々存在する。公益に照らして「無理なものは無理」と判断することもある。(藤井宏一郎)

「良心の呵責」はあるか?

  • 個社の利害を主張して物事が通ることはそもそもない。議員や役所からは業界としての意見をまとめるよう促される。社会全体の利益を主張した方が成果や出やすい。例えば電動キックボードについて「警察とうまくやっておかしくない?」と言われることもあるが、警察はうまくやれるほど簡単な組織ではない。日本社会はそこまでクローズドではなく、自由・民主主義が整っている社会である(吉川徳明)

  • お互い思うところを主張して、決めるべき人が決めてくれれば良い。自分たちの主張が100%採用されると思っていないし採用されるべきとも思ってない(吉川徳明)

  • 「社会が賛同しない法律は成立しない」という楽観論もあるが、現実は特定の業界団体や声の大きい人、省庁の利益が反映されており完全にニュートラルに法律が作られているわけではない。ロビイスト自身が自制するかロビイング規制法や業界ガイドラインの制定などの対策も必要となると思う(藤井宏一郎)

  • 「妻や子供に"俺は今こんな案件をやっている"と胸を張って言える案件かどうか」を基準に社内で案件を受けるか意思決定している。実際にタバコやカジノのロビイングはお断りした(宮田洋輔)

セッションでは高校生から質問も


次回はパブリックアフェアーズのスペシャリスト達のセッション報告!

いかがだったでしょうか?筆者は以下の4つが重要であると感じました。

  1. パブリックアフェアーズをやらなければ、経営判断に深く影響する外部要因をただ受け入れるしかなくなる(宮田洋輔)

  2. パブリックアフェアーズは法律を変えるだけでなく、ビジネスに深く関わる政策当局との関係構築活動も含まれており、社内外から価値を見出されている(吉川徳明)

  3. 日本は自由で民主主義な社会であり、個社の利害・主張がそのまま通ることはない。政策当局は個社と「うまくやれる」存在ではない(吉川徳明)

  4. 一方、特定の業界団体や声の大きい人の意見が政策に反映されるなど政策決定過程が歪んでいる側面もある(藤井宏一郎)

次回は、ソーシャルセクターで起業した「社会起業家」のスペシャリスト達が登壇したセッションについてお伝えします。お楽しみに!

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