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カタチのない波動 (佐野元春& The Coyote Band 6th Album)

Now&Here #28    
佐野元春&TheCoyoteBand
6th アルバム「今、何処」>>>
感じた事への言葉の羅列

夜明け前、玄関の引き戸を
そっと開けると、
そこには見覚えのない素朴な道がつづき、
姿の見えない小鳥や虫の声、
そして水の流れる川のせせらぎが
聞こえてくる。
ほんのつかの間の清らかな
情景の中から鐘の音のようなピアノの
鍵盤のコードが、
不穏な入り組んだ世界へと誘う......。

その世界に引き込まれそうな
その瞬間、目の前の靄を
拭い去るかのように
でっかいシャッフル・ビートが
全身に降り注いで来る!

コヨーテバンドの計り知れない
スキルとセンスが
命を燃やして魂に火を焚べる。
誰にも確かに捕らえられない言葉、
メロディ、アンサンブルが
この今の世界の空気を震わせて、
しょんぼりとした魂に彩りを添えるんだ。

魂、希望、明日、真実、
嘘、水、夢、生命、永遠。
時、イマジネーション、恋、
愛、自由、誰かの落書き。

儚い世界に沈んでいきそうな
心に畳み込むパワーコード。

ワンピースをまとった自由と希望。
2拍のブレイクの瞬間に浮かぶ
誰かのロマンス。
いつも彼女を見つめていた。
今頃、何処で何をしてるの?
幸せになってる?
あの頃そばにいたあの人は今では、
まぼろし。

ビルディングの壁に映る踊る影、
気高く優雅な心を映したサウンドが
ぼくをここに引き留める。

見せかけのきらめきで覆われた凸凹の
荒れ地に響くガレージロック、
そこに絡むグラマラスなブギーの、
のけ反りそうなギターカッティング。

ぼくが好きな作家の作品と
同じタイトルの曲。
小説のストーリーは、
やるせなく退廃的だが、
悲しくもひたむきなたくましい
力強さを感じる。
そして、繊細で流暢に移り行く
美しい文章の表現力に引き込まれていく。

この楽曲は昨年のライヴで
初めて披露された。
その際にこのタイトルに
引きずられたのかもしれないが、
とてもディープでスローな
ソウルミュージックのような
印象があったけど、
実際にアルバムに収められた
この楽曲は驚くほどにポップで
軽やかでいて心地のいい
仕上がりが魅力的です。

高層ビルの大群が雨に霞んでる。
華麗なバラッドの旋律に潜む
弱さと強さと凶暴な情熱。
言葉の頭に韻を踏む。
泣きそうな気分だよ。
雨上がりの街の片隅。
雑踏に紛れて途方に暮れた
空の向こうに虹がかかってる。

秘められた苦悩、隠された貧困、
「どうにもならない現実」

見えない音に、揺れる空気の波の中に
生き延びるための一歩を
踏み出すかけがえのない力が宿る。
奇をてらったアクロバティックな
言葉ではなく佐野元春ならではの
自然で生きた言葉。
加工の少ない生々しい唄声。
その言葉と唄に気高いセンスと
技術で呼応して築くコヨーテバンド
ならではのアンサンブルに自然と、
じぶんの心が開いていく感じがする。

かつて佐野元春はまだ誰も
聴いたことないスマートで
粋な日本語によるロックンロール
サウンドを築き上げ、
そしてスポークンワーズでは
ヒトの生と死の狭間にある
LIFEの断片をメロディに
縛られることなくジャズ指向の
サウンドに乗せたBEATとして
日本語をより高い
可能性へと導きだしたと思う。

そして、2005年に結成された
コヨーテバンドと佐野元春は
彼等ならではの粋で緻密な
ロックンロールサウンドと
日本語の組み合わせでヒトビトの
複雑な情感を繊細に、ダイナミックに
編み上げ続け、2022年夏、
魅力的で力強い
コンセプトアルバムとして
アルバム「今、何処」を、
ぶち上げてみせた。

比べるものは何もない
これまでのすべてのアルバムは、
それぞれの季節に収穫された
最高のサウンド。

だけど、ここに届けられたアルバム
「今、何処」は、途方もない災害、
パンデミック、いつまでも途絶える
ことのない殺し合い、
高みを目指す人たちの絶望、
その中をくぐり抜けた言葉、
詩、唄声はコヨーテバンドの
サウンドと共にさらに鍛え抜かれ、
このバラバラに散らかった
不確かな道のりの上、
確かな足取りで形のない波動を
ぼくらの胸の奥底へと
響かせてる気がする。

「大人のくせに」の、おおらかで
何処かへ飛んで行ってしまいそうな
最高のロックンロールサウンドから
カントリーミュージック?と
思わせる素朴なアコースティックギターと
フィドルの音色で立ち上がる
「明日の誓い」きらびやかで
どっしりとしたフォークロックサウンド!
明日のいい匂いがする。

不確かな「今、ここ」
まだ夜が明けない薄暗い闇の中、
誰もが 今、ここが何処なのか? 
明日がどっちなのか?
見極められずにさまよってる。

4G、5G、Wi-Fi、サブスク、
つぶやき、人工知能、
メタバース、日々のノイズの中に
紛れた見過ごして
しまいそうな宙の波動。
そしてこのアルバム「今、何処」の
中に紛れた黄金色の波動を拾い集めて、
いまだに解けるあてのない
日々の謎を解く呪文や幸せのカタチに
気がつく時が来るかもしれません。




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