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シルクロードを旅する鈴虫 ~サノマ1-24~

外国人と接すると、我々日本人はとにかくよく天気の話をすることに気づく。

「おはよう、朝から雨で嫌だねぇ」
「元気?今日はすごいいい天気だね」

もちろん外国人だって天気の話はするのだが、その頻度たるや圧倒的に日本人の方が多いように思う。

当然ながら日本人は季節の移ろいをも五感で感じている。特に季節が次の季節へと変わる時、風の匂いや空気の温度・湿度、日照時間の変化、店頭に並ぶ旬の食べ物や服の色などでそれを感じている。
とは言え、それが日常生活で言語化される時、その複雑な自然現象は「残暑ですね」「秋ですね」というように単純化されることが多い。

1-24鈴虫(以下「1」)は、サノマのcollectionのうち、この言語化しにくく、しかし我々日本人が確実に肌感覚で知っている季節の狭間の風景を、最も鮮やかに描き出した作品である。

3-17が次の季節への予感といったものが描かれているのに対し、こちらは季節と季節のど真ん中に位置している。
1の香りには"鈴虫"というサブタイトル(のようなもの)がついていて、鈴虫の音が聴こえる頃の夏の終わりから秋に移ろいゆくその物悲しさが表現されている。ただ、物悲しさはあるが儚さは感じられず、香りの印象は力強い。
ムエットに出すと、夏の湿った暑さイメージと秋の乾燥した冷たさのイメージが表現されているものの、そのように嗅ぎ分けてやろうなどという欲張ったことをしなければ、相反する2つの要素はきちんと統一感をもって姿を現す。

このように両極にあるものをバランスを取りながら両立させるという方法はサノマが得意とする表現である。

渡辺氏はこのように述べている。

本来両立するのが難しい2つのものが、ちゃんと両立しているところにあるものっていうのが良いモノだと思うんですね。
渡辺裕太「サノマクリエイターの渡辺氏が語る香水【çanoma】の魅力とは!」
 https://www.youtube.com/watch?v=qmZYrCq8eMY&t=1037s

1が一番初めに創られ一番最後に完成したというエピソードも、そして

ブランドを始めるにあたって、まず一番最初に表現したかったのがこの香りだった。
Yuta Watanabe note「1-24という香り」

というのも、この1の香りがサノマのクリエーションの出発点、つまりクリエーター渡辺氏の創作の原点を象徴しているように思える。

この作品は「寺のような」「お香のような」と表現されることが比較的多いように感じる。いわゆるウッディ系と呼ばれる香木の香りが、我々日本人が生きているうちに、必ずどこかの時点で体験している香りを想起させているのは全く不自然なことではない。

しかし、1の香りを単純に「寺」「お香」と表現してしまうのは実にもったいない。

この香りを俯瞰したときにもっと大きな風景が目に浮かぶのだ。

渡辺氏の、そして私たちの国日本は湿潤な国である。一方これを調香したJean-Michel Duriez氏の国フランスは乾燥した地である。
この2人が手を組むことで描き出されるのは、東西を結ぶシルクロードの壮大な風景だ。東と西の国を結ぶその中間において、異なる空気感はスパイスでまとめられ、湿度と乾燥という全く異なる質感をそれらが調和させている。
行き着く先は東大寺の宝物殿かもしれない。またはローマを通じて、更に遠く、モン・サン・ミシェルの地下深くに潜り込むかもしれない。
道中見えてくる様々な景色を心に刻みながらながら、その長い長い道のりを1-24の香りを背負った鈴虫がキャラバンと共に行き交っているのである。
そして西の人たちは嫉妬するのだ。このエキゾチックな極東の香りに内在する日本人のDNAに強烈に刻まれた"季節と共にある心"に。

香りに含まれる香料名をできるだけ使わずに1-24を説明してみた。この試みが成功しているかはわからない。
鈴虫が西方へ出発してしまう前に、あなた自身の嗅覚で実際に試してみることをお勧めします。

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