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1-24という香り

一番最初に制作に取り掛かり、一番最後に出来上がった香り。完成までに一年ほどかかった。今のところ、一番人気がないと想定される香水だ。

とても不思議な香りである。

インスピレーションは、夏の終わりに一瞬だけ駆け抜ける、秋の気配を含んだ風。

フランスにいると、真夏でも秋のように涼しい日がよくあるので、夏が終わる瞬間を感じることができない。そういう“曖昧な”夏もそれはそれで素敵だが、私は日本のどこまでも果てしなく続くように感じられる夏と、それが終わる瞬間がとても好きだ。

うだるような暑さと湿った空気、蝉の鳴き声があたりを包み込む中、一瞬、ほんの一瞬だけ、乾いた、冷たい風が吹く。“夏の死”を悟る瞬間。

ポイントは「コントラスト」だ。暑さと寒さ、湿気と乾燥。この2つの相反するものを、どのように香りに閉じ込めるか…

調香はウッディ・アンバー・スパイシー・アロマティック。

シダーウッド、サンダルウッドのしっかりとしたウッディに、アンバー系の香料をたっぷり追加した。スパイシーはサフランが中心になり暖かさを出しており、またカルダモンが冷たい風をうまく表現している。そこに少しだけアニスが効いた構成となっている。

調香の中には記載しなかったが、トップノートはベルガモットを中心としたシトラスが気持ちよく香る。

ブランドを始めるにあたって、まず一番最初に表現したかったのがこの香りだった。この“夏が死ぬ”瞬間を香水にしたら、一体どのようになるのだろうか…全く想像がつかなかったが、とにかくやってみたかった。

24回の試作品を重ねたが、大まかな構成はかなり最初の方で固まっていた。6番目の試作品で、今の香水からそこまで遠くないものが出来上がっていたように記憶している。

しかし、いくつかの問題が残っていた。なんとなく全体としてのっぺりした印象があったこと、そして、グリーンな側面がかなり強く出てしまっていたことが、2つの主要な問題だった。

それを解決するために、最終的に一年近くを費やすことになるとは思っていなかった。24回の試作品を経てようやく完成した1-24という香水については、そのプロセスもさることながら、最終的な完成形に大変満足している。

この香水は、作っていて一番ワクワクした香水かもしれない。どの香水よりも、試作品が出来上がってくるのが楽しみだった。毎回何かしらの驚きと、何かしらの問題が見出された。

この香水を日本人に紹介すると、多くの人から「どこか懐かしい感じがする」というフィードバックをもらう。

私も大方それに同意なのだが、その懐かしさがどこから来るのかが正直よくわからない。これについてわかる人がいたら、ぜひ教えていただきたい。

最初にも記載したが、この香水は今回リリースする4本の中で一番売れない香水だと思う。日本人に紹介した時も、フランス人に紹介した時も、面白いとは感じてもらえるが、他の香水の方が明らかに人気なのだ。

一方で、この香水こそ、私が作りたかった香水である。新しい提案があり、ニッチ過ぎず、テクニカルにも非常に良くできていて面白い。

実は先日書いた記事(かなり人気が出た記事だ)で言及したのはこの1−24だ。

私はこの香水を、夏の暑い日につけるのが好きだ。もしかしたらそれは、もう何年も日本の夏を経験していないことから、せめて香りだけでも、という思いがどこかにあるのかもしれない。


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