見出し画像

「ソワレ」は”ソワレ”ではない

「ソワレ」とは、舞台興業における夜公演のことである。
フランス語には「夜」を表す言葉が2つある。
ひとつはsoir(ソワール)と言い、もうひとつはsoirée(ソワレ)という。soiréeは”夜が続いている間”の意味があるので、そこから夜公演や夜会といった意味になる。
soirとsoiréeの違いはさておき、この「ソワレ」という語、実は”ソワレ”とは発音しない。フランス語独特のR音が入っているために、どちらかというと”ソワヘ”に近い。soirもソワールとは書いたが、ソワーの方がより忠実な表記のように思う。

こういった例は他にもある。
日本人は、bonjourをボンジュール、merciをメルシーと発音するが、あえてカタカナで書くなら、それぞれボンジュー、メッシーの方が近い。


何が言いたいかと言うと、日本語と全く異なる発音をどう日本語に近い言葉で発音するかということと、日本語化された外国語をどうやって本来の発音に認識し直すか、そのせめぎあいの面白さである。
外国語を日本に取り入れる際にはいかに日本語に近づけるかを考えるはずだし、外国語を学ぶ側はその言葉をいかに忠実に発音するかに注視するのだから、両者は真逆の発想なのだ。
もし先のsoiréeを”ソワヘ”として覚えていたなら、あるいはbonjourやmerciをもっと聞こえたままに表記し、発音する言語文化であったなら、フランス語の発音のハードルがもう少し低かっただろうにと思う。


ところで、メリケン粉は小麦粉の別名であるが、明治時代に小麦粉の輸入が盛んになり、当時の人は「アメリカ製の」を指すamericanを”メリケン”と聞いたのだそうだ。アメリカ人のこともメリケン人と呼んでいたそうである。
カタカナで表すと奇妙な感じがするけれども、こちらの方が発音に忠実なのではないか。
外国語教材などない時代、”聞こえたまま発音する”ことに関しては、今の人よりも優れていたかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?