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読まれなかった手紙

ねぇ、キミ。
ボクはキミのことが気になっているんだ。
あれからずっと、キミは独りぼっちだったんじゃないかって。


この部屋で生まれて、赤い四角い箱の細い隙間にポンと放り込まれ、それから知らない人達に運ばれて、ガチャンとスタンプを押され、あの人のポストにコトリと落とされてからも、キミは独りぼっちだったかい?
独りぼっちのまま、数日間テーブルの上に放り投げられて、封を解かれることもなく、束ねられて、トラックに乱暴に積まれてしまったかい?


そしてキミは、ゴラムと共にモルドールの溶岩の中に落ちていったあの指輪みたいにあっけなくこの世から消えちゃったんだろうね。
指輪はゴラムに愛されていたけど、キミは工場のベルトコンベアに乗せられて、ただ右から左へと流れていき、誰にも知られないまま、燃え尽きてしまったかもしれないね。

コロンビアの人は、それを100年の孤独だと言ったよ。
日本の人は、それを20億光年の孤独だと言ったよ。
キミの孤独は6日間くらいだったかい?
それとも300臆光年くらい続いているのかい?

いつか、ボクがキミのところへ行ったとき、小さなウソをついてほしいな。
誰にでもわかるような、小さなウソを。
桜の花びらみたいなボクの優しい気持ちを、あの人はちゃんと受け取っていたよと。
300臆光年のうちの、ほんの0.001の100臆乗くらいの時間、あの人はボクのことを大切に想っていたよと。

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