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タイさんの取材ヨレヨレ日記② 足取り重い大晦日の歳末警戒

前回、夜討ち朝駆けの話を書きました。昼間になかなか会えない人を捕まえるための手法ですが、実は「成功」の確率はそれほど高くありません。政治家や経済人など取材慣れしている人々は、「来そうだな」と予感したら、記者たちが張り込んでいる自宅には帰らず、職場近くのホテルなどに避難してしまうからです。

せっかく夜討ちを仕掛けたのに、「留守です。今日は帰りません」と言われたときのむなしさ。眠い目をこすりながら朝駆けした取材先で、「家にはしばらく戻らないはずです」と突き放された時のみじめさ。AD(アシスタント・ディレクター)がアポ入れから質問作成まですべて取り仕切ってくれる女子アナの「取材」とは異次元の苦労が、現場を駆けずり回る記者たちにはつきものです。

来る日も来る日も空振りを繰り返していると、「やみくもに突撃するのは費用対効果が低い。取材先が自宅にいる確率が高い日時を選んで、夜討ち朝駆けした方がいいのでは」という考えが浮かんできます。

私が金融担当の記者だった90年代のことです。ある年の大晦日。キャップが数十人の後輩記者を呼び集めて、「全員で歳末警戒するぞ」と言い出しました。

いつもは多忙な金融機関幹部たちも、大晦日の夜くらいは自宅でのんびり紅白歌合戦でも見ながら、家族団らんの時間を過ごしているはず。「そこに突撃すれば、必ず取材先がつかまるぞ」というキャップの指示です。

確かに、大晦日に夜討ちを仕掛ければ、空振りに終わる確率は低いでしょう。でも、せっかくくつろいでいたところへ記者が押しかけてきたのでは、取材される側はとんでもなく迷惑に思うはず。上司の命令には逆らえず、私たちはぞろぞろと「歳末警戒」に向かいましたが、皆の足取りがいつも以上に重かったことを記憶しています。


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