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終わりのない、学びへの楽しさ ──彼女が障がい者雇用事業のトリコになった理由とは

始まりは中学時代、身近な環境に解決できない問題があると気が付いた

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▲学生時代は、家庭環境で苦しむ子どもたちへの学習支援や居場所支援に
取り組む

東京・御茶ノ水にあるゼネラルパートナーズ(以下、GP)リドアーズ・ベネファイお茶の水は、統合失調症の方と難病の方が通う就労移行支援です。私は、2019年6月から日本唯一の統合失調症の方専門の就労支援サービスであるリドアーズで、副施設長を勤めています。(2020年4月1日より同施設長に就任)

就労移行支援施設では、就職を目指す方々のためのトレーニングを行っています。私は個々人との個別の面談や研修、卒業生との面談や、関係機関との連携など、さまざまな業務を担当しています。

業務の幅は広く忙しいですが、私はこの仕事が好きですし、日々楽しんでいます。でも、まさかこんなにこの仕事を好きになるとは思っていませんでした。

もともと興味があったのは、子ども、教育、家族。きっかけは中学生の時のできごとまでさかのぼります。

自分が通った中学校は陰湿ないじめが蔓延し、すごく荒れていました。私の所属していた部活でも蔓延していて、あるひとりの部員を中心に、いじめたり、いじめられたりのループが回っていたんです。

その子と私は、家が近所で一緒に帰宅していたことがあって。ある日の帰り道、その子がさらっと話してくれたのが「昨日の夜、お姉ちゃんがお風呂で手首を切って、救急車で運ばれたんだ」という話でした。

私も、部活内でいじめられたり、いじめたりのループの中でとても苦しんでいて、誰か助けてほしいという気持ちでいたんです。でもその子の話を聞いて、この子がいじめをしてしまう理由には、こういう家庭での背景があるからだと知ったのと同時に、「あれ、誰も解決できないじゃん」と感じたのです。

小さいころから育った家庭という環境があって、今いじめという行動をしてしまっているとしたら、解決しようがないと考えたんですよね。そこから家庭で苦しむ子どもにすごく興味を持ち始めました。

それ以来、「家庭環境が子どもに与える影響」がメインテーマとなった私は、さまざまな活動に関わってきました。

大学生のころはNPOの活動を通じて、家庭環境が複雑であったり、学習遅滞があったりする子ども達への学習支援や居場所支援を行っていました。

中学2年生で、算数は九九までしか解けなかったり、母親に包丁を突き付けられたという話をしてくれる子がいたり、日本語がまったく話せなかったり、ネグレクトを受けていて髪がべたべただったり、いろんな子に出会いました。

子ども達と接する中で思ったのが、「この子たち、どうやって食べていくんだろう」という疑問でした。そこで、そんな彼らが働く現場を見てみたいという気持ちが湧き上がり、働いている人と働く環境との両方を見られる人材会社に新卒で入りました。


学生時代の興味とつながった障がい者雇用、営業の立場から社会を変えていく

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▲障がい者雇用と出会った前職時代。尊敬する上司である、森田(右上)の在籍するGPへの異動を決断する

1年目には人材派遣の業務、2年目からは新規事業の業務に携わりました。いくつかの新規事業に携わる中で、2年目の終わりから、精神障がいの方向けの人材紹介を行う事業部に異動になりました。この部署は今、GPで一緒に働いている森田 健太郎が立ち上げたサービスだったんですね。

ただ、これまでは障がいという文脈で出会う人はいなくて、障がい者雇用、障がい者についても何も知りませんでした。また、複数の新規事業に関わって新しいことを覚えることに疲れてもいたので、実は最初は「嫌です」と断っていました。

断ったとはいえ、異動は避けられません。異動することになったからには、まじめに取り組みました。精神障がいや障がい者雇用についてもまったくの無知でしたが、勉強してみるとすごくおもしろい。森田さん初め先輩方もとても魅力的で、仕事も楽しかったです。

また業務を行っていく中で、育った家庭環境やいじめなどがひとつのきっかけとなって精神障がいを発症した方や、子どものころから学習遅滞を抱えていた方など、学生時代に「この子たちどうやって食べていくんだろう」と思った子たちが大人になった姿として浮かび上がってきたのです。

そのとき、「あ、これがやりたかったことだ!」と自分の中でつながりました。

それに営業という立場で、ダイレクトに企業へアプローチして、「障がい者雇用全然興味ありません」「精神障がい者を雇うことはリスクがある」と思っている会社の方と対話をしながら、企業側の認識がどんどん深まっていくのがおもしろかったんですよね。

ひとりの障がい者の、ひとつの会社の小さな変化ではあるけれども、少し社会がよくなったなと思える瞬間を増やしていく。

1年程をかけて、企業と一緒に精神障がいの方が働ける場をつくろう、と目標に向かって取り組んでいくことが楽しくて、はまっちゃったという感じでした。

私の所属していた事業部は少人数の部署だからこそ、その部署内でいろいろな意思決定をして動けることも多かったです。

しかし、その一方でお客さんとしていらっしゃるのは精神障がいの手帳を持っている方のみで、サービスを提供できるのも、この事業の中でできるものしかありませんでした。

新卒で入社して3年が経ち、お客さんの課題の声を聞いてこういう手を打ちたいなと思っていても、リソースがないことを感じる日々。

障がい者雇用を専門にしている会社への転職を考えるようになり、前職時代から尊敬している森田を追いかけ、いくらでもある障がい者雇用をしている会社の中から迷いなく、GPに転職することにしました。

GPは障がい者の就労支援をワンストップで提供しているので、紹介事業だけでなく、就労移行支援やA型事業所もある。会社が人材紹介と福祉的なサービスを一気通貫してやっているというのは、お客さんから相談を受けたときにさまざまな提案をすることができます。まさに私が求めていたことを実現できる環境でした。

2018年7月にGPに入社して、本社で対企業への営業として勤務していましたが、同時期に、省庁による障がい者雇用の水増し問題が発覚したのです。


批判ではなく解決を、省庁の水増し問題から気がついた障がい者雇用の魅力

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障害者雇用促進法という法律をもとに、企業が工夫を凝らしながら障がい者雇用を進めていく、という形はよくできていると感じていたので、国のつくったしくみ・制度を一定信頼していました。

しかし、その制度を作っている国家が障がい者雇用のやったふりをしていて、虚偽の報告をしていたと知り、手の中で踊らされていたような気持ちになりました。

障がいを抱えながら働く人の雇用を生み出すためには、ハード面・ソフト面のたくさんの調整が必要で、人事担当の方々がたくさんの努力をされていることを知っていたので、初めに感じた感情は怒りでした。

でも、起きてしまった事象についてそれは問題だと遠くから指差し批判をしていても、何も解決されません。現状をよくしたいのであれば、解決の主体者になる人や、そのサポートになる人が必要だと思っていました。

それに、障がい者雇用支援事業を行っていると掲げている私たちGPが何もせずにいるのは嫌だなと思い、何かできないかと模索することにしました。

社内のたくさんの方と協力し、結果として複数の省庁の方とお話しさせていただきましたが、ある省庁の人事の方との会話が印象的でした。

初めてお会いする際には、こんな水増しをするなんて、どんな人が現れるのかと身構えていたのですが、お会いした方は非常に信頼のおける方だったんです。

水増し問題を機に障がい者雇用の担当になり、業務のために障がいについての勉強を始めたそうですが、非常に勉強熱心で。

そして、あるとき「自分は障がい者と出会わずに生きてきてしまったのですよね」ということを、言葉にしてくださいました。

この視点、この言葉こそが、社会が変わる第一歩で、私が感じている障がい者雇用事業の魅力だと思っています。

私たちが受ける教育では、障がい者健常者と分けられています。また、画一的な教育の中で、他者への想像力が育まれないまま大人になってしまうことも多いと感じます。

他者への想像力の足りないまま大人になってからあらためて他者への理解・想像力を育むきっかけをくれるのが、障がい者雇用で、この取り組みの魅力だと思っています。

もちろん、こういった人ばかりではなく、差別的・他者への想像力が足りない人もたくさんいると思います。今省庁の中で働いている人からは、「全然仕事がなくて...」という相談を受けることもあり、やるせない気持ちにもなります。

でも、この失敗は多くの企業でも起きていることです。当事者からしたらたまったものではないですが、だからこそ、一緒に解決していく。指差しで批判していても、何も解決しない。嫌だと思う状態があるのであれば、自らが解決のための一歩を行えばいいと思っています。


新しい発見ばかりの毎日、障がい者雇用への終わりなき好奇心

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今勤務するリドアーズには、障がいのある方と日常的に関わりたい、どういう求人が本人たちにとって良いものなのか一緒に考えたいという想いが強く芽生えた、1年前に異動しました。

リドアーズのような就労移行支援は就職を目指す場所なので、就職が決まって卒業される方はいますし、新しく入所される方も毎月のようにいます。

たくさんの出会いに加えて、一人ひとりとしっかり向き合っていると、新しい発見がもう出てくる、出てくる。

精神障がいについて向き合うのは、めちゃくちゃおもしろいです。人間ってこういうことがあるんだと気が付くことができる、人間への洞察力が深まる、学びあるカテゴリーだなと思っています。

たくさん勉強していても知らないことが多くて、今でもわかったとは全然言うことはできません。でも利用者さん個々人のこと、障がいのこと、障がい者雇用のことを毎日考えることができ、終わりのない勉強に楽しみを感じています。

休日は本ばかりを読んでいる活字中毒の人間ですが、やっぱり人が新しいものを一番教えてくれるんですよね。「私、それ知らない!」という経験を他の人たちはたくさんしているので。だから今、この瞬間でたくさんのことを教えてもらえるのがすごく楽しいんです。

家庭環境が子どもに与える影響について考えるために社会人になったはずなのに、今ではすっかり障がい者雇用に夢中になってしまいましたね。笑

副施設長という立場で勤務をしていますが、私は何かを教えているとか、支援しているということはあまり考えたことがありません。障がい者雇用の世界や、企業での勤務、報連相・体調管理遵守の大切さなどを伝えてはいますが、それはあくまで役割であるだけなので。

利用者さんは自分で自分の人生を歩んでいて、人生において助けが必要なときだけそれを解決するためのサポートをする、ということを仕事としてやっているイメージです。

なので、その人の人生に深く関与することは考えていないですし、やりたいとも思っていません。「ありがとう」と言われる支援は好きではないんです。

やっぱり、その人が自分でできるようになった、自分で考えてこうした、という方が嬉しいんですしね。

もちろん、なるべく傷つかず、平和で元気に幸せを感じて生きてほしいなという気持ちはあります。でもすごく傷ついてどーんと落ちている姿を見て、人生豊かだなと思いますし、それも自分の人生なんだから、自分でしっかり生きてほしいという想いで見守っています。

日常的に障がいのあるいろいろな人が、いろいろなことを感じて、たくさんの人と関わって、おのおのの人生を歩んでいる姿を見ていますが、これからもそんな姿を近くで見守っている人であり続けたいなと思っています。

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