コーポレート・ガバナンス関連ニュース(2019/11/12)
WeWork、Tモバイル・レジャー氏にCEO要請
【注目ポイント】米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、WeWorkを運営する米ウィーカンパニーが、米携帯3位TモバイルUSのジョン・レジャー最高経営責任者(CEO、61)にCEO就任を要請していると報じた。筆頭株主であるソフトバンクグループの強い意向に基づくものとのこと。レジャーCEOは2012年からTモバイルのCEOを務めており、携帯電話の中途解約時に解約金を課す「2年縛り」を廃止するなど、業界の商慣行を壊すなどして、契約者数を大幅に伸ばすなど、過去の経営実績は十分とみられる。
【コメント】流石というべきか、ソフトバンクからすると過去にスプリントと苛烈な競争を行ってきたライバル携帯会社TモバイルのCEOに、WeWorkの再建の舵取りを任せるというのは大胆な人事案だ。実現するかどうかはまだ不透明だろうが、これだけダイナミックな外部CEO招聘もそうそうないだろう。単にコスト削減だけでなく、思い切ったビジネスモデルの変革が求められるということを見越して、Tモバイルで様々な改革を成し遂げてきたレジャー氏が最適と判断したのではないかと思う。
ESGマネー3400兆円 世界の証取、取り込み競う
【注目ポイント】カタールやフィリピンの証券取引所が上場企業へのESG情報の開示を義務付けるなど、世界の株式取引所が相次いでESG(環境・社会・企業統治)投資マネーの取り込みに積極的になっている。既に、ESGマネーは、世界の運用資産の3割にあたる約31兆ドル(3400兆円)にまで膨張し、今後の取引所の収益力をを左右する存在となっている。世界の90の取引所が参加する「持続可能な証券取引所(SSE)イニシアチブ」によると、現時点で、ESG報告書の提出を求める取引所は45、上場ルールに組み込んでいる取引所も24にのぼるとのこと。
【コメント】日本企業のコーポレート・ガバナンス改革が進んだ背景は2015年に適用が開始されたコーポレート・ガバナンスコードとスチュワードシップコードの存在が大きいが、両コードが出来た元をたどるとESGへの関心ンの高まりがあるし、それを遡るとSDGsにつながる。どうしてもガバナンスをコンプライアンスと勘違いする向きも一部には根強いが、ガバナンスは企業の成長の必要条件であり、これなくしては持続的な成長は望めないというのが世界の投資家・企業経営者の常識といってよい。単に必要最低限のガバナンスを整えるということ以上に、自社にとってふさわしいガバナンスの在り方はどのようなもので、何が競争力にプラスになるかを考えることがより重要である。
キリン、物言う株主からビール事業専念要求
【注目ポイント】英投資運用会社のインデペンデント・フランチャイズ・パートナーズ(FP)は、キリンに複合企業化の野心を捨てて、ビール作りに専念するよう求めているとのこと。キリンは、日本国内需要の減少への対応の一つとして、事業の多角化を進めてきた。その過程では、海外M&Aも積極的に行っているが、ブラジルのビール会社の買収など失敗に終わったものも決して少なくない。そのため、今回の大株主である機関投資家からの要求のように、事業ポートフォリオの見直しを迫られるのは当然といえば当然の結果ともいえる。
【コメント】日本企業だけでなく、多角化を進めている企業は専業企業に比べると株価が割り引かれる傾向があり、このことを「コングロマリット・ディスカウント」とよばれたりする。株主からすると、割安に据え置かれているのであればその現状を変えようとアクションを起こることは普通のことであるが、企業側からすると特に構造的な需要減少が明らかな場合は、多角化せざるをえないというのも実情だろう。つまり、いずれにしても業績を上向かせる以外に株主を納得させる方法はないのだが、事業の投資と撤退の基準を明確に定め、モニタリング機能が有効に働いていることがその前提となることは言うまでもない。そして、これはまさにガバナンスの強化である。
米運用会社が中小型株ファンド 投資先企業と積極対話
【注目ポイント】独立系の米運用会社のニューバーガー・バーマンは新たに日本株の運用チームを新設した。主に時価総額5000送円以下の中小型株に特化した投資を行い、投資先企業の経営改善に積極的にかかわるエンゲージメント(対話)型のファンドを目指すとのこと。投資先企業との対話を通じてESG要素の改善を提案し、ボトムアップの企業調査に基づいて20~30銘柄に集中投資することを見込む。
【コメント】時価総額1兆円を超える大企業を中心に、コーポレートガバナンス改革は進んできたが、今回の記事にあるように時価総額数千億円規模以下は正直なところまだまだだろう。今後は、おそらくスタートアップ企業が東証マザーズに上場するときにも一定のガバナンス要件が求められ、今以上に厳しく審査されるはずだ。その意味で上場前から、コーポレートガバナンスを自社の競争力にどのように結び付けるかを検討し、体制を整備していくことが今後は求められるだろう。
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