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コーポレート・ガバナンス関連ニュース(2019/12/17)

悪役か賢者か、ヘッジファンドがESG企業を空売り

【注目ポイント】環境や社会問題、コーポレートガバナンスへの取り組みに対して積極的な「ESG企業」に対して、ヘッジファンドが空売りを仕掛ける機会をうかがっているとのこと。背景には、ESG投資の過熱とともに、ESG企業に対するあいまいな株価の評価がなされており、本来の価値よりも高く評価されている可能性を指摘。空売りによって利ザヤの確保の可能性を探っているとのこと。ESG投資が全世界的に広がっている中で、企業の過度の自己PRにより、株価が本来よりもかさ上げされていたり、事業の展望を損ないかねないリスクが覆い隠されているケースも少なくないとされている。情報ギャップを利用した空売りの動きは、ESGに積極的な企業の持続可能性をどこまで信用できるのか、正確に見極める方法はないのか、という投資家が直面する複雑さを浮き彫りにしているといえる。

【コメント】この記事に書かれていることには概ね賛同する。確かにESG投資が盛り上がる中で、実態としての取組み内容よりも、アピールが上手いだけの企業の株価が上昇しているのは事実だ。特に、ESGのGについては、本来経営者の立場からすると執行とのしての自身の自由度を制限する取組でもあるので、形式上コーポレートガバナンスに積極的とされている企業でも中身を見ると大したことはないというケースは非常に多い。


脱・株主至上主義の行方(上) 企業も環境・格差に配慮必須

【注目ポイント】世界の主要企業の間で企業の目的を見直す動きが広がっている。従来は利益と株主価値の最大化が企業の目的と考えられてきたが、2019年8月に米主要企業の経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルが、株主至上主義を見直すと発表したことは、いわゆる「ステークホルダー(利害関係者)資本主義」(公益資本主義)への動きを象徴するものといえる。グローバル企業は投資家へのリターンの提供と、従業員、顧客、地域、環境にとって望ましい結果の実現との適切なバランスを探る必要に迫られている。日本では、投資家の利益が軽視されがちであったことが、低い生産性やガバナンス不全を招いてきた。一方米国では、従業員や地域などのステークホルダーを軽んじてきたことが社会の不平等の深刻化を招くなど、国によっても置かれている状況は異なる。

【コメント】現在、多くの企業で企業の存在目的に注目が集まっているのは、利益の創出や株価の向上以上に、社会にとってその企業が存在し、活動する意味を積極的に明示することが要求されているからだ。それは、当初の想定以上に企業の果たすべき役割や活動範囲が広がり、与える影響力が大きくなっていることも意味する。恐らくこの流れは不可逆であり、仮にリーマンショック級の不況が訪れたとしても、大きな影響はないだろう。


役員報酬に「ESG」反映の動き広がる

【注目ポイント】ESG(環境・社会・企業統治)の達成度合いを役員報酬の評価に反映させる動きが広がっている。投資家らがESGの取り組みを投資の評価基準として重視している中で、役員報酬に反映させることで企業としても本気で取り組む姿勢を示すとともに、実効性を高める狙いがある。中長期的視点でサステナブルな経営のためにも、採用する企業は増えていきそうだ。

【コメント】役員報酬に対してESG評価を反映させる動きが広がっているとのこと。役員報酬に関しては、先日の会社法改正などもあり今後益々報酬決定のプロセスや判断基準、役員報酬のKPI設定等の詳細を情報開示することが求められるだろう。記事の中で名前が挙がっているアサヒグループHD、戸田建設、オムロン、コニカミノルタだけでなく、先日はソニーも導入すると発表があった。ESGへの取組みの本気度を示す意味で、今後のトレンドとしてはESG評価指標を役員報酬のKPIに導入する企業も増えるはずである。


日本で物言う株主が活発化-日本企業は国内他社に敵対的買収提案

【注目ポイント】2019年は日本企業に対するアクティビスト(物言う株主)の提案件数が過去最多となった。また、数は少ないが敵対的買収提案も増えている。最近では、HOYAが13日、半導体製造装置を手掛けるニューフレアテクノロジー株を公開買い付け(TOB)で取得すると発表。ニューフレアには、グループ会社の東芝がTOBを行っており、対抗する形となる。ニューフレア株については、物言う株主として知られる村上世彰氏と関係のある南青山不動産が今月に入り買い増している。また、不動産会社ユニゾホールディングスを巡っては、旅行会社のエイチ・アイ・エスが敵対的TOBに踏み切ったことで争奪戦が起き、ブラックストーン・グループやフォートレス・インベストメント・グループも対抗して買収提案を行っている。アイ・アールジャパンホールディングスのデータによると、6月の年次株主総会で株主提案が行われた企業の数は前年から14社増加し、過去最多の54社となったとのこと。

【コメント】アクティビストによる株主提案も敵対的買収も、健全な市場メカニズムが存在する状態であれば、当然のように起こる。逆に、2000年代中盤~後半にかけては、ブルドックソース事件に代表されるように、既存の経営陣と敵対するような株主提案やM&Aは全く受け入れられず、日本の金融市場自体も非常に冷え込んでいた時期である。温室状態で強い企業が育つはずもなく、ルールを守ったうえで弱肉強食の世界が成り立つことが、健全な金融市場の必要条件でもある。


レオパレスが村上世彰氏と攻防、全役員解任の瀬戸際に

【注目ポイント】レオパレス21は12月16日、2020年6月の定時株主総会で取締役の過半数を社外取締役にする議案の提出方針を決定した、と発表。唐突な発表ではあったが、背景には宮尾文也社長以下10人の全取締役が臨時株主総会で解任されそうであったという事情があった。全役員解任の準備を進めていたのは、大株主の村上世彰氏。村上世彰氏は12月16日までにコーポレートガバナンスの改善策がレオパレス側から示されなかった場合、同17日に全取締役の解任を求める臨時株主総会の開催を請求すると通知していたとされる。村上氏はレオパレスについて「ビジネスモデルは素晴らしいし、もはや社会インフラの一部。施工不良の問題が片付けばすぐに回復する」と言い、「透明性のある積極的な情報開示と建築不備問題を終結させることがレオパレスの信頼回復のカギ」と主張してきた。だが会社側は村上氏の要求にこたえることがなかった。建築不備問題を終結させるどころか、施工不良問題に対応するスケジュールを当初計画から1年以上先延ばしにして村上氏を怒らせた。さらに今夏からは宮尾社長との面会も断られるようになり、執行役員などとしか面会させてもらえなくなったことに「経営トップが株主との会話を回避するのは間違っている」という不満も募ったとのこと。また施工不良問題の責任を追及すると言いながら、実態はなかなか責任追及とその対応策が進んでいないことから、社外取締役もその職責を全うしていないとして、社内外あわせた10人すべての取締役の解任を請求するという筋書きだったとされる。村上氏から通告された期限の最終日に出したA4の紙1枚のリリースで、ひとまず17日の臨時株主総会請求は回避されたが、「形ではなく実際に会社が変わるかどうかを見ている」という村上氏を満足させることができるかどうかは不透明だ。村上氏の持論は「社外取締役に名のある人を呼べばいいというわけではない。何のリスクも取っていない人に正確な判断はしにくい。社外取締役に一番ふさわしいのは、実際にリスクを取っている株主から出すことだ」というものである。実際、村上氏は「過半数を大株主から推薦を受けた社外取締役とする」ことを求めている。16日の回答で首の皮こそつながったが、村上氏を満足させることができたとは思えない。

【コメント】株主主導のガバナンスの典型的な動きであり、レオパレスの経営陣だけでなく5名の社外取締役も猛省した方が良い。大株主からNOを突き付けられているのだから。ところで、過半数を大株主から推薦を受けた社外取締役とするという村上氏の要求は、一般の少数株主保護の観点で疑問が残る。基本的には、いずれの株主や企業からも独立性が担保された人物が社外取締役に就任すべきであり、特定の株主との結び付きが強い人物は避けた方が良い。


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