ネットフリックス「思いやりのススメ」 ネトフリ的ロードムービーのネタバレ感想・分析
こんにちは。グルメピエロ@ホームです。
NY在住、映像の仕事をしています。おうち時間が増えたので、家で見た映画について感想を書く第2弾!!
今回はネットフリックス映画の「思いやりのススメ 」、原題は「The Fundamentals of Caring」。
「アメリカ映画と言えばどんな映画?」と聞けば僕は旅の映画=ロードムービーだと答える。圧倒的な国土の広さや開拓の歴史と合間って育まれたこのジャンルはアメリカの伝統芸と言ってもいい。「真夜中のカーボーイ」「スケアクロウ」「イージーライダー」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」「パリ・テキサス」「断絶」などなど、アメリカの有名なロードムービーは挙げればキリが無い。こうした伝説的映画の文脈に乗りつつも、ネットフリックス的に作っていったのが今回の作品。違いは何なのか、往年の映画ファンであれば悪手にも感じられるシーンもいくつか見られたが、それがネットフリックス的ロードムービーなのだと後に理解した。その理由も解き明かしていこうと思う。
あらすじ(オフィシャルより)
心に傷を負い、作家から介護士になった男と車椅子生活を送る少年。生きる希望をさがして、ふたりの旅が始まる。『アントマン』ポール・ラッド主演、道中で出会う可愛くも生意気なヒッチハイカーの少女を全米ティーンに絶大な人気を誇るセレーナ・ゴメスが演じます。
予告編
なぜネットフリックス的ロードムービーなのか(以下ネタバレ含む)
「息子の死や離婚協議、心に傷を抱えた新米介護士を、筋萎縮と筋力低下が進行していく病を抱えた車椅子の少年が出会い、旅を通じて互いが抱えている問題と向き合い変化する」というのが一言で語るこの映画だ。
この映画では、観客の目線を主人公たちの「変化」に向かせることに力を入れていた。分かりやすく「変化」を表現することを目指したのだ。その理由は、ネットフリックスの作品だからだと思う。ネットフリックスは体を拘束される映画館と違い、自分で簡単に見るのを止めたり違う作品に変えたり出来る。そのため「映画への入り込みやすさ」と「ルールの明確化」が必要なのだと思う。その一例が冒頭のシーン介護学校の先生の言葉から始まる。キャラの置かれている状況を学校の先生の言葉で説明、そこへ主人公が置かれている離婚協議についての映像が説明的に載ってくる。この演出は状況を理解しやすくさせるが、数々のロードムービーで感じた冒頭のワクワクは感じない。その部分を捨てても分かりやすさを選んだのだと思う。この「分かりやすさ」を演出した2つの要素がある。
ネトフリ的要素①時間
まず、この映画はサクッと観れる。上映時間は1時間半で時間的にもとても観やすい。ロードムービーはめちゃくちゃ長いものが多い。僕の大好きなヴィム・ベンダースの「さすらい」は3時間もあるし、「パリ・テキサス」も2時間半ほどある。ロードムービーが長くなるのは、旅の中で景色の移ろいを描くことによる時間の変化、人の気持ちの変化を描くからだ。ロードームービーの主人公は基本的に何か問題を抱えている。その問題を解決するのは一度の出来事ではなく「時間」だったりする。この映画は旅というよりも「変化」に焦点を当てているので時間の移ろいを重要視していない。そのため上映時間が思いっきりギュッとコンパクトになっている。
ネトフリ的要素②景色は重要じゃない
ロードムービーの醍醐味の一つが「移り変わる景色」だ。時に大自然を前にすることで人は自分のちっぽけさを知り、抱えている問題の小ささに気付いたりする。沈みゆく太陽、雲の流れ、木々が揺れる様子が心の状況を表す装置として機能する。僕はロードームービーで自然から主人公の心の様子が観て取れる瞬間がとても好きだし、ロードームービーにはそれを求めている。
車椅子の青年が旅に出ると予告編で観た瞬間に、景色との対話をとても期待していた。車椅子という移動に制限がある人物が出会う新たな景色との対話は、きっと美しいものになるだろうと。ただ、この映画にはそれがあまりなかった。さらに、この映画にはロングショット=被写体とカメラの距離が非常に遠く景色が見渡せるようなカットが極端に少なかった。ロングショットを減らすことで、あくまでもパーソナルな旅を演出していたのだと思う。あくまでも向き合うのは人と人。車という同じ空間を共有する装置で前に進む=同じ方向に進むことで気持ちが寄り添うという演出上の機能を使って、2人が向き合うことに焦点を当てたのだ。
素晴らしいシーン
物足りなさも感じた一方で、素晴らしいシーンもあった。映画を通じていくつかの筋の通った同じテーマが繰り返されることでキャラクターの成長が描かれていたいシーンだ。個人的に好きだったのが「ガラス越し」のシーンだ。この映画において「ガラス」は非常に大事な要素として登場し、車椅子の主人公=トレバーの成長を描いている。
「ガラス」がキーワードとなるシーン
①テレビを観るトレバー
②レストランの窓越しに道路脇に立つヒッチハイカーの女性を見るトレバー
③ホテルの部屋の窓ガラス越しに外でタバコを吸う女性を見るトレバー
④レストラン内で食事をしているトレバーと女性を店外から見るベン
トレバーは車椅子の生活ということもあり、外の世界のことを知るのはテレビを通じてだ。自分の殻に篭っているため外の人に対しては自分を表現できない。これは旅を始めてからも同じで、②のヒッチハイカーの女性に声をかけるシーンも窓越しに見ているところをベンから「このままだとテレビ越しに見ているのと同じだ」と言われ、変わろうと行動に移す。この時はまだ変われないが兆しが見える。③ホテルの窓越しに女性を見るシーン。この時は横顔をひたすら見つめるのだ。これにはトレバーの決意が観て取れる。このシーンまでもそうだが、トレバーと女性は目を見て正面からあまり話していない。車の車内でも助手席と後部座席という位置にすることでいつも会話は同じ方向を見ての会話になる。それが一気に変わるのが④レストランへ出かけるシーンだ。トレバーは女性を人生初のデートへ誘う。そしてガラスの向こう側へ行き、面と向かって話をする。ベンが初めに言った「テレビ越し」の先の世界へ向かった大きな変化のシーンだ。とても美しい構成だと思う。こうした丁寧な表現がもっと観たかった。
感想
この映画を観て思ったのは、「観やすい長さ≠感情が入る長さ」ということだ。ネットフリックスの契約がどういうものなのかは知らないし、本当に僕が気にした部分は的外れかもしれない。ただ、観やすさを重視するあまりメッセージが弱くなるというのは惜しい気もする。いいシーンも沢山あったので、もっとこの映画を観たかった。
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