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テイクアウト事業で注意したい6つの衛生ポイント

新しくテイクアウト営業を始めようとしている飲食店等の皆様へのご提案です。

最近、街のレストランで「テイクアウト始めました」の看板やSNSでの宣伝投稿をよく見かけるようになりました。
普段通りの店舗での営業が難しくなり、今すぐこの状況を何とかしたい!という飲食店の皆さまの気持ちを考えるだけで心がギュッとなります。でも、勢いだけで始めてしまう前に、ちょっとだけ立ち止まって考えて欲しいことがあります。

それは、
【 テイクアウトには飲食店での食事の提供時に想定されないようなリスクが存在し、一歩間違えれば人の命に関わる重大な事故に繋がる 】
ということです。

自分が食品の販売に関わってきた経験から、テイクアウト事業で注意すべきポイントは大きく以下6つと考えています。それぞれ簡単に解説を書いていくので、参考になれば幸いです。

※注1:ここでお話しする内容は私個人もしくは今回の企画に協力してくれた方々の経験に基づいた話であり、衛生専門機関としての見解ではありません。
テイクアウト事業を始めるにあたって、「こんな注意をしなきゃいけないんだ」「うちってこのポイント大丈夫かな?」と考える”きっかけ” として、この記事を活用して欲しいです。ご自身で事業を始められる際に少しでも何か疑問や不安がある場合は、必ず所轄の保健所等にご確認ください。

1. 商品の提供から食べられるまでのタイムラグを意識する

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食品に付着する食中毒の原因菌は時間の経過と共にどんどん増え、特に常温では更に増殖するとされています。

テイクアウトは「お店で調理されたものをお客さまが家(もしくは家に準ずる場所)まで持ち帰り、その後食べる」ことになります。

ランチ用を想定して販売していたものが、冷蔵庫に入れられず、日の当たるところに出しっ放しにされ、結局夜食べられる、もしくは次の日に食べられる、、なんていう本来飲食店では起こり得ない状況も発生します。

商品お渡しの際に、「なるべく早くお召し上がりください」と伝える。そして可能であればパッケージに同様の文言のシールを貼る・案内の紙を挟む、など見える化するのも効果的です。(買いに来た人=食べる人とは限らないため)

なお、正確な消費期限の設定のためには菌数検査や時間の経過による劣化の度合いを調べる必要がありますので、検査機関に依頼されることをおすすめします。(「消費期限 検査」などで検索すると分析試験サービスが簡単に見つかりますが、コロナウイルスの影響で結果が出るまで通常よりも時間がかかっているようです)

2. 菌が増える原因「出来立てホカホカ」のまま詰めてはいけない

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冷めた料理をお出しするのは飲食店ではご法度だと思います。
しかし、むしろテイクアウトでは出来るだけ食材は急速に冷やし、冷めた状態で販売するべきです。

1のポイントとも密接に関わってきますが、室温程度の温度帯で菌はどんどん増殖します。

特に気をつけたいのはご飯もの。
土の中などどこにでもいる食中毒菌セレウス菌はご飯・スパゲッティなどの穀物類から検出されることが多く、冷めていく過程で活発に増えていきます(30度前後)。しかも、高温での加熱にも耐える"芽胞"を一度作ってしまうと、レンジで温めなおすなどしても死滅しません。召し上がっていただくまでに2時間以上の長い時間耐えられることを前提に商品を開発するのであれば、必ず調理した後できるだけ早く冷まして容器に積めるようにしましょう。

また、熱いものと冷たいものを同時に詰めないこともとても大事なポイントです。
温かいご飯ものと冷たい刺身やサラダ等を同じ容器に詰めた場合、冷たいものに付いた菌が温まり一気に増殖します。容器の蓋を閉めようものなら、中が蒸れて更に状況は悪化します。

とにかく「テイクアウトにするなら温度は低く、そしてその状態を保つ。」が大切です。
気温が上がるこれからの季節には、お渡しの際に保冷剤をつけることも効果的です。

※注2:生鮮野菜・フルーツには大腸菌群など食中毒を引き起こす菌がたくさん付いています。温かいものと一緒にしない場合でも次亜塩素酸ナトリウム等を使用して洗浄消毒をしてください。(それがどうしてもお店の理念と合わない場合は、無理に生野菜を使わない、というのも手だと思います。)野菜を洗剤で洗う!?って最初は私も正直ビックリしましたが、生野菜を使用した持ち帰り商品には必要な工程です。 野菜の洗い方ご参考:日本食品洗浄剤衛生協会
※注3:卵や肉・魚はサルモネラ菌やノロウイルス等の危険もあります。しっかり中心まで加熱(85℃ に1分以上達温)してから冷ますことが重要です。

3. 「一気に大量」に作るときは、異物混入により一層注意する

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テイクアウトではライン生産で一気に何十個ものお弁当をつくるような機会が多くなります。
そのため、特に異物混入にはより一層の注意が必要です。

お客さまのオーダーが入ってから1品1品作る時には目視で気をつけていたはずのことが、うっかり抜けてしまったりします。

ライン製造の際にはこれまで以上に、調理環境で異物混入の原因となり得るものや菌が付着する要因を出来るだけ取り除く努力をしましょう。
マスク・ヘアキャップ・手袋をするのはもちろん、ラップ・アルミホイル・タワシ・画鋲・食材のパッケージのビニール片等、調理中に使われるものと厨房周辺にあるものをリストアップしてみてください。作業手順上でリストアップしたものの混入を防ぐためにどんな対策ができるのかを考えてみるだけでも大きな違いとなります。

また、ライン上に調理で使わないものは持ち込まない、というのも対策のひとつです。(前職の時には花粉症の錠剤のパッケージ片がなぜかコロッケの中に入っていた、なんて事例もありました。)

4.調理に使用した食材の情報は全て控えておく 

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使用した食材の情報に対し、広範囲で問い合わせがくることを想定してください。

飲食店であれば、お客さまからアレルギーのご相談があればその場でメニュー内容を変更できます。しかしテイクアウトの場合は対面での会話も短く、全てを確認できないまま購入して家に帰ってから心配になったお客さまから電話が入る、なんてことも多々あります。

特にアレルギー(28品目)やコンタミネーションの状況、使用した調味料の情報などは出来るだけ台帳化しましょう。
調味料のラベルは剥がして台帳に貼っておくと便利で、添加物までしっかりと表記されていますので、あまり馴染みのないカタカナ表記の言葉も、それを読み上げれば対応ができます。
または原材料を紙に書き出したものを印刷し商品と一緒にお渡しする、あとはお客様の判断に委ねる、でも良いと思います。

面倒だと思うかもしれませんが、
「正確な情報提供はお客さまに安心・安全を与え、結果その行動がリピーター獲得にも繋がる」
とメリットとして捉えていただきたいです。

5. 飲食店営業許可だけでテイクアウト販売できるのか確認する

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ちょっとここは難しい話になるのと、許可基準が各都道府県によって異なるため、全国一律ではない場合があります。必ず所管の保健所へ確認を取ってください。
ここでは例として東京の場合をお話します。
東京都福祉保健局によれば、飲食店営業とは

一般食堂、料理店、すし屋、そば屋、旅館、仕出し屋、弁当屋、レストラン、カフェー、バー、キャバレーその他食品を調理し、又は設備を設けて客に飲食させる営業のこと。

とのことです。つまり、この範疇を越えるとみなされる場合には別途許可が必要な場合があります。

例えば1:自家製プリンをテイクアウトとして出したい場合
店内で提供する分には「食品を調理」し「設備内で食べさせる」ため飲食店営業許可で問題ありません。しかし持ち帰ってもらうとなるとお菓子を「販売する」という商売に該当するので菓子製造業の許可が必要です。

例えば2:カレーをパウチにして冷凍でパッケージ販売したい
「店内用として作ったものを持ち帰る」テイクアウトではなく、カレーという「そうざい加工品を製造し完全包装して販売」する商売に該当します。そのためそうざい製造業の許可が必要です。しかも、それを直接の対面ではなくインターネット等で販売、または別の所へ卸して販売するには賞味期限等、食品表示法に定められた様々な義務表示項目を明記しなければならないなど、かなりハードルが高いです。製造業と分類される事業は、テイクアウト事業よりも更に説明責任・衛生面の安全担保の責任・ルールが増える、と理解することが大切です。

その他にも提供されるメニューによって様々な許可がありますので、繰り返しになりますが、これって大丈夫かな?と思ったら調べて保健所に相談、が一番の近道だと思います。

※注4:コロナウイルスの影響を加味して飲食店でのお酒のテイクアウト販売が「期限付酒類小売業免許」として規制緩和されたことが話題となっていますが、酒類の販売は厚労省ではなく国税庁管轄です。
例えばおつまみセットを作りたいと思ったら
お酒→所轄の税務署
おつまみ→所轄の所管保健所
にそれぞれ確認・申請が必要となります。
そしてなんにせよ「許可は許可」です。都道府県を越える宅配は禁止されていたり、仕入れたお酒をあらかじめ別の容器に分けて販売する詰め替え行為は別途手続きが必要だったりと細かい部分もありますので、見聞きしたことを鵜呑みにせず、自分でしっかりと調べ、申請を行い免許を取得してから販売するようにしてください。

6. 「何か事故が起きても、その現場を目撃することができない」を前提とする

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お客さまが食べる瞬間、その場に居合わせることはほぼできません。

異物混入が発覚しても、それがどんな状況で、どのように混ざってしまったのかをすぐ確認することができない。食中毒が疑われる場合も、購入者が不特定多数のため、追うことができない。これは原因究明ができないという点で大きなリスクです。

そのため、事故等のご連絡・相談があった時には、お客さま、そして自分を守るためにも客観的な証拠を残しておくことはとても重要です。

証拠として残すべき項目の例
・製造数/販売数の把握(○月○日に何個売れて、何個残っているか)
・調理工程の把握(菌を減らすために必要な作業(製造ラインの掃除・手洗い・野菜の洗浄などなど)は、慣れないうちはチェックリストにして毎日確認すると安心です)
・検体の確保(作ったものを日付を書いて日々冷凍しておく、がベストです。電話でご連絡があった場合は、全部食べていないなら捨てずに冷凍して保管してもらうようお願いしましょう。)

特に食中毒が疑われる場合は自分で解決しようとせず、お客さまには必ず病院の受診をお願いしましょう。
また、何かあったときのために、PL保険(賠償責任保険)への加入もおすすめします。

最後に

私は、社会人人生の90%ぐらい、食に関わるお仕事に携わってきました。
美味しいものを大切な人たちと囲む時間が大好きで、いただいているお給料の大半は美味しいものへと昇華(not消化)されていっている気がします。

そんな中起きたコロナウイルスの大流行。

世界中で普段通りの生活がままならない事態となり、日本でも遂に全国規模での緊急事態宣言が発令。大好きなレストランに行けない、家族や友達と食卓を囲んで他愛もない会話をすることができない、、、こんな時に私にできることは何だろうと日々考えを巡らせた結果、「もし私が少しでも役に立てるとしたら、唯一これなのでは」と思い、拙いですが長々と文章にしてみました。

もちろん、皆さんが衛生管理をしっかりされていて、こんな心配が杞憂に終わることが一番です。

ただ、
食に関わる事故は人を死に追いやる
可能性があります。

もし集団食中毒などが起きれば、医療従事者の方々の負担も更に増えてしまいます。
こんな時でも「食」を通して人々に幸せを提供したいと行動される皆様のその素晴らしい想いが、悲しい結果を招くことだけは避けたいと個人的に強く願っています。

テイクアウトという新しい形でお店を継続されようとしている、飲食店のみなさまのお役に少しでも立てれば幸いです。

美味しいご飯を素敵なレストランで幸せに食べられる日が、1日でも早く戻ってきますように。

Illustrations by Tako YAMAMOTO


役に立つ情報まとめ

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
もっと詳しく知りたい!と思った方へのご紹介を、まとめましたのでよろしければご覧ください。

アネモスさんのテイクアウト調理注意チラシ(転載許可をいただきました、浅井様ありがとうございます!)
私がここまでダラダラと書いてきたことが、とっても完結に見やすく・分かりやすくまとまっています。ダウンロードも可能です。

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佰食屋さんの成分表示カード(転載許可をいただきました、株式会社minitts の中村様ありがとうございます!)
京都で人気のステーキ丼専門店佰食屋さんでは、ウーバーイーツでの販売時にこのような成分表示のカードを入れてお渡ししているそうです。
栄養成分表示や美味しい食べ方など、とても分かりやすく表記されています。その他にも中村さんのFacebook投稿ではトラブル防止のためのポイントが分かりやすくご紹介されています。※繰り返しになりますが、地域によって異なる点もあるため、確実な情報はご自身で再度お調べください。

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・同じく情報を発信している方々のnote ※4/27 追記しました

築地で働く弁護マンさん (転載許可をいただきました。ありがとうございます!)
弁護士のご視点から、許可・免許について詳しく解説されています。

ヤマシタ マサトシさん (転載許可をいただきました。ありがとうございます!)
チェックリストという形で、衛生面の注意事項を確認することをご提案されています。見える化、とても大事だと思います。

NODさん (転載許可をいただきました、ありがとうございます!)
オンラインでの食品販売をするためのプロセス(主に製造業の許可を取る部分)を分かりやすいイラストと詳しい解説でご紹介されています。文中にも書きましたが、飲食店営業の許可とは違う部分も多くあるので、新しい業態にチャレンジしたい方は必見です。

厚生労働省のページ
更に詳しい食中毒の原因や対応を調べたい方へ。
下の方にある海外のお客様へ向けた多言語対応の「すぐに食べてね」の案内リーフレットも便利です。

・花王ご贔屓ナビの店頭ツール
台帳管理の大切さをお伝えしましたが、何から始めれば、、、という方に。
衛生管理のチェックシートをはじめとした店頭ツールが全て無料でダウンロードできます。マスク着用お知らせPOPなんかもあるようです。

くらし科学研究所の調査レポート
食品事故の原因となる様々な事象を、実際の実験データと共に紹介しています。私も読んでみて知らなかったことが沢山ありました。


<お礼>
この記事を公開するにあたり、相談したらすぐアイデア出しに協力してくれた前職同僚の皆さま、可愛くて分かりやすいイラストをつけてくださったTakoさん、ご自身の豊富な経験を基に的確なアドバイスをくださった元スープストックの倉重 晋一朗さん、書ききれませんが記事のプレビューを快く引き受けてくださった多くの皆さまに心から感謝いたします。



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