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ドサクサ日記 2/7~13 2022

7日
メトロノームやコンピュータとの同期演奏について考える。テンポが一定であるということは、ある意味では正しい。そうしたガイド音を聞きながらの演奏だとしても、自分らしさとしての揺らぎは消せず、人間味を失ったりはしない。もっとも、もはや生活の隅々にまでコンピュータは入り込んでいて、人間の一部だと考えてもいいくらいだ。ただ、アウトソーシングなんだよなと思う側面もあって、悩む。

8日。
続く。仲間との空気をそっちのけにして、コンピュータの音ばかりを追いかけることも可能だ。しかし、それがアンサンブルなのか、あるいはアンサンブル風の何かなのかには、決定的な違いがあるように思う。それはほとんど信仰に近いのかもしれない。あなたが聞きたい音とは何か。美しさはどこに宿るのか。産業や自己保身を投げ捨てて、考えなければいけない。達成したいことは何か。

9日。
シンギングボウルにマイクホルダーのナットが落ちて割れてしまった。また、API1608のファンタム電源のランプが1ch点灯しなくなってしまった。何台か持っているBOSSのDD20のディレイのBPMを変更するノブも調子がおかしい。何年かに一度、こうして身の回りのモノが一斉に壊れるタイミングがある。そういうときは何かの知らせかもしれないと、少しだけ緊張して暮らすようにしている。

10日。
私設音楽賞、アップルヴィネガー賞のノミネート作品を発表した。毎年、選ぶことに対する重圧で胃が痛い。ただ、この賞はそれとは別の責任を感じて企画した賞でもある。それは未来の世代に対する責任。何らかの富を独占するために音楽をしているわけではない。機会も金銭も循環させるべきだと思う。あらゆる場所の血の巡りが良くなることを願う。その先では、素晴らしい作品たちが待っているはず。

11日。
10枚目のアルバム『プラネットフォークス』の収録曲が発表になった。全部で14曲。アルバムの半分くらいのネタをベースの山ちゃんが作ってくれた。また、本当に多くの仲間たちが参加してくれた作品でもある。やればやるほど、音楽とは関係性だと思う。人と人の関係もそうだし、音と音の関係も同じく。無数の関係を束ねて、美しい瞬間を記録する。たったひとりではできないし、喜べようもない。

12日。
アルバムのマスタリング音源に対する要望を返信。今回はアメリカはオースティンのエンジニア、クリス・アセンズにマスタリングをお願いした。トランジェントやサスティーンを台無しにするほどインプットゲインを上げていくことに意味があるのか。一番大事なのは響きだと思う。会ったことはないが、クリスのマスタリングはいつも誠実だと感じる。ユーモアがあるようにも感じる。想像だけど。

13日。
2000年には未だiTunesがなかった。そもそも友達でMacを持っている人すらほとんどいなくて、当時のアジカンのギタリストの告君と俺だけだったように記憶している。興味さえあれば何にだって辿り着けるような時代ではなかった。3分の楽曲をDLするだけで、どれだけの時間がかかったか。電話回線でネットに接続していたような時代だ。音楽を聴く幅が広がったのは、明らかにKi/oonと契約してからだった。当時のディレクターの影響が大きい。資料としてCDを買えるようになったことも大きかった。その後、インターネットが発達し、MacBookをメンバー全員が持つようになり、スマートフォンが登場した。ストリーミングサービスも始まった。奨学金の返済とカツカツの生活費からCD代を捻出することの難しさ。ただ、その時期に買ったものは、骨身に染み込むまで聞いた。