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杉本博司 Fraenkel Gallery in San Francisco

10月26日から12月22日までの間、サンフランシスコのFraenkel Galleryで写真家・現代美術作家である杉本博司氏の展示が行われています。10月28日に早速見に行ってきたので、今回はその時の様子をレポートしたいと思います。

Fraenkel Galleryとは

Fraenkel Galleryは、サンフランシスコのユニオンスクエアのすぐ近くにある写真専門のギャラリーです。個展を開くためのギャラリーではなく、ここは写真を販売するのが主な目的なので画廊と捉えるのがいいかと思います。

契約している写真作家は現在30人いて、杉本博司以外にも、Bernd & Hilla Becher、Alec Soth、Diane Arbus、Garry Winogrand、Lee Friedlander、Robert Adams、Richard Misrachなど世界的に超有名な写真作家がずらり。

これらの写真作家の展示を定期的に行っているので、超有名な写真作家の作品を間近にみることができる貴重な場所になっています。アメリカ全体で見ても写真専門のギャラリーとしてはトップレベルではないでしょうか。

今回の杉本博司の展示について

今回はFraenkel Galleryで展示されたのは杉本博司の新作である写真による図屏風とbrush impressionです。

渋谷の松濤美術館で9月16日から11月12日まで杉本博司の「本歌取り 東下り」と題した大々的な展示が行われていました。ここでもこの新作の図屏風とbrush impressionが展示されていて、同じシリーズの一部だけがFraenkel Galleryでも見れたということになります。

この松濤美術館での「本歌取り 東下り」は見逃したくない展示で、このためだけに日本に帰国できないかと一時考えたのですが、流石にそれはできなくて残念に思っていました。ごくごく限られたものになりますがサンフランシスコでも同じシリーズのものが見れてとても嬉しかったです。

最初の部屋には「春日大社藤棚図屏風」がどんと置かれていました。通常の写真作品はフレームに入っているわけで、図屏風で見せるというのは日本文化を感じさせるものでユニークですね。ギャラリー側も相当興味津々だったのでしょう、インスタにインストールの状況の動画を投稿してました。

ちなみにこの「春日大社藤棚図屏風」は2022年12月から2023年3月まで奈良の春日大社国宝殿で開催された「杉本博司―春日神霊の御生(みあれ) 御蓋山そして江之浦」で展示されていたものです。昨年の年末年始の日本帰国の際にこの展示に行くのを計画していたのですが、残念ながら体調を崩して断念した経緯があり、今回サンフランシスコで見ることができて感慨深いです。

"Wisteria of Kasuga Grand Shrine"

図屏風の作品はこれ以外にも「立岩図屏風」がありました。見ていたら近くにいた人から「これはどこで撮ったものかわかるか?」と聞かれました。「タイトルが”Tateiwa"なので日本のどこかだと思う」と答えたのですが「カリフォルニアの西海岸だと思った」とのこと。確かに私も最初見た時には西海岸のMorro Bayで撮ったのかと思いました。実際には京都のようです。

この2点を見てしまうと、ここには展示されていなかった「富士山図屏風」も見たくなります。あと「本歌取り」というコンテクストでちゃんと理解したいという興味も出てきました。

"Tateiwa"

Brush Impressionは、筆に現像液や定着液に染み込ませて期限切れとなった印画紙に文字を書いた書のシリーズです。ここでは「いろは歌」と「炎」、「火」(2点)、「石」、「月」が展示されていました。

「いろは歌」は大型な作品作品で圧巻でした。この「いろは歌」は日本の松濤美術館で前半に展示されていたものを持ち込んだとギャラリーの人は言ってました。松濤美術館では壁一面に展示されていたけど、ここでは展示スペースの関係で壁二面になったとのこと。

Brush Impressionについては銀座のギャリー小柳のサイトに詳細な解説があり、そこから杉本博司がスタジオでどのように作品を作ったかがわかる動画へのリンクがあります。ぜひ一度ご覧になってみてください。Brush Impressionを理解するサポートになると思います。

"Brush Impression (Iroha Song)"


"Brush Impression (Fire)"


「海景」の写真集

Fraenkel Galleryでは、その時展示している写真家の写真集を販売していて、実際手に取ってみて買うことができるようになっています。シリコンバレーに住んでいると写真集はネット購入が一般的で、実際に手に取ってみる機会はまずないのでなかなか貴重な機会です。毎回ここに来るたびに何かしらかって買って帰ります。

ギャラリーの受付の人に今回の展示に関わる写真集や図録はあるか聞いてみたのですが、今回は新作なので無いとのこと。なるほどと思って、写真集の棚を眺めていたら、あの有名な「海景」の写真集(新品)が置いてあるのを発見!

おお、これは買わねばと思って「じゃああの海景の写真集ください」と言ったら、彼はもごもごしながら「これ実はレア物で$300(4万5千円)するけど大丈夫?」「でもeBayで古本を買うと$600はするよ」「残り10冊しかないよ」とのこと。

即決で購入してしまいました。確かに、以前にネット調べた時に古本での相場が$400-600だったので、新品で$300はかなりお買い得だし、そもそも新品が手に入るチャンスなんてまずないので、良い写真集散財だったと思います。

まだ包装してあるフィルムを剥がす勇気がないので、以下の写真にはいろんな光が入り込んでしまってるけど、タイトルとか何もないこのシンプルな表紙はたまらないですね。心が落ち着いた時に開封して、杉本博司の「海景」の世界を楽しもうと思っています。


Photobook "Seascapes"

こんな感じでサンフランシスコでも杉本博司の作品を堪能することができました。世界で彼の作品が高く評価されていることがわかります。

そしてこのFraenkel Galleryは、シリコンバレーで私の写真に対する知的好奇心を満たしてくれる唯一の場所になっています。


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