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タンゴ・葉山・遊散歩(11)

茜色に空が染まって
天空に描かれた影絵のように薄墨色の富士が浮かびあがり
離島の燈台が橙色の灯火を瞬かせる頃に
老いた漁師が港に帰ってくる

ゆっくりと進む黒いシルエットの孤舟から
般若心経を唱える響きが海風にのって聞こえてくる
・・・ああ、今日も不漁だったに違いない

幻の景色 幻の聲を聞いているのさ 
と喝でも入れるようにタンゴが一声吠え
空からいくつぶかの水滴が落ちてきた
見上げると
じっと動かないトンビの目が老人を見つめていた

老人とはこのわたしのことだ
「老人と海」を初めて読んでから半世紀以上を経て
自分のことのように思い出してきた
晩年の落胆とともに
閉ざされかけた未来への勇気を

さあ、もう帰ろう
たった一人の相棒 タンゴよ
帰って今夜はライオンの夢でも見るとしよう

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