【小説】曇天らいふ3

(ホームレス生活2日目)自販機

昨晩、学習した。この季節でも寒さは最大の敵だ。甘くみていた。さて今日はどうする。そう自分に問いかける。時間はたっぷりある。タバコは昨日の深夜散歩である程度、確保した。まる一日、水しか摂っていない。とりあえず飯か・・・。といっても、もちろんあてはない。

俺はもう一度、魚ロードに行くことにした。普段はあまり気にならなかったが、自動販売機が結構な数ある。俺はつり銭口に目をやった。俺も経験があるが、1000円札や500円玉を入れ、ジュースだけ取ってお釣りを忘れたことが、何度かある。もしかしたら取り忘れがあるかも・・・。そんな思いで手を伸ばそうとしたが、止めた。人の目が気になるのだ。いきなり自販機に近づいてお金を入れずにつり銭口に手を伸ばす。やはり不自然だ。(あいつ何やってんだ。ホームレスか?)そう思われるのが怖かった。まだプライドが残っているのだ。100メートル程、歩くと次の自販機を見つけた。俺はその前に立ち財布を取り出した。そして小銭を出すふりをして、お金を入れるふりをして、ジュースを取り出すふりをして、最後につり銭口に手を伸ばす。
しかし・・・予想どおり空だ。そんなに甘くはない。
歩きながらそれを何度か繰り返す。もちろん収穫はない。(へたな鉄砲、数打ちゃ当たる)その言葉を座右の銘に、また歩き出す。しかし、10台ほど仕事をするとすぐに心が折れた。あまりにも時間がかかりすぎる。費用対効果が悪すぎる。(費用はかかってないが・・・)労働対効果というべきか。
やはり、ある程度プライドを捨てなければ。そう決心し次の自販機ではいきなり、つり銭口に手を伸ばす。そして、路上、パチンコ店、ゲームセンターの自販機に勝負を挑むが連戦連敗。そんな中、俺は、また一つ学習をした。よく見ると自販機によっては、つり銭口が透明のものがある。そのタイプは手を入れなくても当たりかハズレかが分かる。これはかなりの発見だ。ロスも防げるし、時間も節約できる。
そうして魚ロードを回っていると、もう夕方になってしまった。(ふぅ~今日はよく働いた)しかし給料はゼロだ。少し、半笑いになった。今日はもう自宅に帰ろう。といっても公園のベンチだが・・・。その帰り道も仕事をしながら帰った。もう慣れた手つきで伸ばした、つり銭口に違う感覚があった。何かある。俺は高鳴る鼓動を抑え、素早くポッケットに手を戻す。そして歩きながら、その感触を確かめると3枚。1円、5円、50円、500円でないことは分かる。残るは10円か100円。30円なのか?300円なのか?ポケットから手を出し確認すると・・・30円だった。しかし落胆はなかった。嬉しかった。30円でこんなに喜んだのはいつ以来だろう。というか小さいころでもそんな経験はないような気がする。俺はその30円を手に自宅へと戻った。しかしそこにはカップルが座っていた。バカでかい公園なので、ベンチは20以上ある。今日は引っ越しだ。ベンチに座り、大きな腹音を聞きながら30円と相談をする。これをどう使うべきか?選択肢は2つ。何も食べずに貯金するか。うまい棒を3本買うか。夕日をバックにしばらく考えた。
よし、今日は頑張った、自分へのご褒美だ。近くのコンビニへ行き、めんたい味、サラダ味、たこ焼き味をレジの店員に差し出した。だいの大人がうまい棒3本。途方もなく恥ずかしかった。
自宅へ帰り美味しく頂いた。久しぶりのうまい棒(その名のとおりうまい!)・・・堪能した。
しかし腹の減りは収まるどころか、倍増した。またひとつ学習した。次は貯金だ。そう決心した。2、3日であれば、水だけで生き延びられる。

そして、恐怖の夜がやってくる。

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