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《読書メモ》『夜が明ける』/西 加奈子著

「・・・苦しいときに、我慢する必要なんてないんです。それって誰が得するんだろう?それに我慢を続けてたら、きっと声を上げた人を恨むようになっちゃうと思う。先輩が私のことを嫌いなのは、私が先に声を上げたからじゃないですか?…(中略)・・・自分はずっと我慢してきたのに、なんであいつだけって。でも、それって違いますよね。私は、私のために声を上げたんです。それは当然の権利だからなんです。・・・」

「夜が明ける」P369、370

頑張り屋さんに読んでほしい一冊でした。
ぼくみたいに、真面目で責任感の強い…といったら冷めてしまいますよね。
ただ、真面目で、勤勉で、責任感が強くて、自分さえ我慢すれば…と頑張ってしまう人ほど、読んでほしい一冊のように思います。

頼っていいんです。声を上げ、頼りましょう。
でもこれ、わかってても難しいんですよね。

「本当に自分は辛いのか?」「甘えじゃないのか?」「周りも忙しそうだ。」「頼ったら迷惑をかけてしまうんじゃないか?」そう考えてしまうんです。

この世界には、誰にも知られていない不幸がある。

「夜が明ける」P109

鬱が手の届く場所にある。あまりに近い。少々のことでは、心が動かなくなっている。

「夜が明ける」P136

でも、頼っていいんです。頼るべきなんです。

自分より不幸な人間がいる、そんな気遣いしなくていいんです。

あなたを不幸にする何かが、もうそこまで近づいているんです。
手遅れになる前に、頼るべきなんです。

ぼく自身も思い知らされました。
辛いは相対的に考えるものではなく、誰かと比較する者でもないと。
自分が辛いと思ったとき、それは“絶対に”“辛い”なんです。

でもこれ、わかってても難しいんですよね。
この段階まできても、難しいんです。

仲良い人に対してはなおさら、という方もいると思います。
ぼく、10年以上付き合いのある友人に対しても、気を遣って接する癖が抜けないんですから(笑)

だから、ここでは「自分の基準で頼っても良いということ」を覚えておきましょう。
自分を大切にしていきましょう。

さて、ここからは自分の考察です。
世の中では既出の内容かもしれませんが、思ったことをつらつら書いていこうと思います。

概ね、前述した内容だと思っているのですが、登場人物が特徴的であると思いました。
高校の同級生アキ、自分のことを支え続けてくれた弁護士・中島さん、アキの最期を見届けたロッテン・ニエミ、みんな同性愛者だと解釈しました。
ここではあえてマイノリティと表現させていただきますが、ご容赦ください。

また社会的地位の低い、弱い立場にある人間として女性を描いているような気がしました。
公園で漫才をしているのが女性であることも、男社会で活躍できていないような、そんな感じを臭わせるような。
主観ですが、全体的に女性の描写が多くあったのは、女性の弱さを際立たせるためだったのかなあ、と。

というのも、この描き方をすることで、「俺」の見方も変わってくるように感じました。

誰にも頼らず頑張ってきた「俺」は、最終的には動けないような体になってしまいました。
そして、冒頭で引用した内容は、後輩である女性から言われたセリフの一部です。

男社会で闘ってきた男が、最終的には、女性に救われる展開となりました。

一方でアキは、マイノリティであろうロッテンに救われていました。
途中の描写も含めて、アキもマイノリティである可能性が高いと思っているのですが、そこはさておき、アキも女性同様に立場の弱いマイノリティである人間に救われています。

知識も文章力も未熟な部分があるので、これ以上の記述は避けたいと思いますが、あくまでも本作の描き方として「立場の弱い人間が、立場の強い人間を救う」という構成になってる気がしました。

だからこそ「俺」の見方は変わりますし、「俺」は少し愚かに描かれているようにも映りました。
そして、自分の心の支えだった弁護士・中島さんも、マイノリティであると考えると…実は昔からマイノリティに支えられていたというような皮肉のような構成になるのかな、とも思いました。

だからなんだということなんですが、女性の描写を多く描き、強者を愚かに描き、男だって所詮は弱い生き物だという風ではなく、「誰だって、誰にだって頼っていい」という、光を感じさせるようなメッセージを感じました。

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