チキンな私が十五夜に体験した、ちょっぴりドッキリ小話
10月1日、十五夜。まんまるなお月様が空にぽっかりと浮かぶ、美しい夜。
会社帰りの私は自転車をのんびりと漕ぎながら、駅から自宅までの道のりを軽快に走っていました。
一応首都圏なので大きな道路にはコンビニがいくつか立ち並んでいますが、ひとつ脇道に逸れると、真っ暗闇が広がっています。
そして私の家があるのは、真っ暗闇のその先。
そう、それはもう家まであと500メートルというところで起こりました。
やたらに背の高い雑草ばかりが群生している雑木林。(正直この道じゃなくてもいいのだけど、この雑木林を抜ける方がちょっぴり早く家につけるのです)
林の中を縫うようにして敷かれているコンクリートの道を、通り抜けようとした、その時です。
それは不意に聞こえてきました。
──カシャン。
一瞬、自転車のチェーンでも外れてしまったのか?そう思いました。
でも、自転車は今も軽快に、なんの問題もなく漕げています。
気のせいかと思い直し、家までの距離を縮めようとしたとき。
──カシャン、カシャン、カシャン!カシャン!カシャン!カシャン!
咄嗟にハンドルを握る指先に、緊張が走るのが分かりました。
──刃物を研ぐときにする、硬いものが擦り合うような、乾いた音。
それがまるで自転車を漕ぐ私の背後に、ぴったりとくっつくようにして追いかけてきています。
ふいに頭を過ったのは、四月一日くんが夜中に爪を切っていたときに出現したアレ。※×××HoLiC第21話「ツメキリ」参照
(こ、こわい…とりあえず頭を屈めておこう)
そして次いで思い至ったのが、半年ほど前にあった不審者騒ぎ。
目撃者は私。
まさに通り過ぎたばかりの雑木林の影で、恥部を晒しながら「作業」していたという、第一発見者である私がすぐさま110番通報をしたアレ。
警察が到着する前に姿を眩ましたため、今もどこかで暮らしているはずです。
(こ、こわい…こわすぎる!!)
もしそうだったとしたらこのまま家に連れ帰って、身バレしてしまうのは絶対的に避けたい!
実家住まいのため家に人はいますが、防犯のため鍵を閉めておくように習慣付けています。このまま自転車を乗り捨てて家に逃げ込もうにも、鍵を開けるのに手こずってジ・エンド。そんなのは嫌だ!
そう思い、自宅を目前にしてさらに500メートルほど先にある、大通りに面したコンビニを目指しました。
近道をしたことを後悔しつつ、それはもう5年ぶりぐらいに全力で自転車を漕ぎました。
もちろん、その間にも背後の何者かは着いてきています。
──カシャン、カシャン…
一定のリズムを刻みながら、不気味な音が夜道を這いずり回っている感覚。
正体の分からない何かに追われる恐怖からか、はたまた自転車を全力で漕いでいるからなのか、首筋にじんわりと滲む汗が夜風に当たって冷えていくのを感じました。
コンビニの白色灯が見える頃には、下着が背中にべっとりと張り付いていました。
出入口付近に学生の風貌をした男女が数人たむろしていましたが、こちらに一瞥くれただけで、特にこれといったリアクションはありません。
(と、とりあえず不審者ではなさそうだ……よかった…)
とはいえコンビニに乗り入れるまで謎の異音は続いていたため、確実に、いま。私の背後には何かいる…。
そう思って、未だ緊張したままの指先にさらに力を込め、決死の覚悟で背後を振り返りました。
い、いない……
いない?
なにも、いない。
(いや、こういうパッと見いないときって大概足元とかに…………………)
「……っひ!」
ただの枯れ枝でした。笑
恐らく道路に落ちていたものを、意図せずして自転車で絡めとってしまったのでしょう。
あー。こわかった!
枯れ枝でよかった。本当に。
近道よりも安心安全を優先しようと、改めて心に刻んだ出来事でした。
息を吸って、吐きます。