【短編小説】弟のぼくからみたお姉ちゃんのこと
お姉ちゃんがほめられているすがたをあまり見たことがない。
ぼくは、すごいんだっ!
みんなから、いいこだねってよくほめられる。
そんなとき、お姉ちゃんは部屋の隅で外を見ている。
でもお姉ちゃんだって、いけないと思うよ?
だってお姉ちゃんは、ママの言うことを聞かないんだ。
ぼくは、とってきてって言われたら、すぐにとりにいってママに渡してあげるし、
しゅーちゅーしてても、おいでって呼ばれたらすぐにママのところにいくんだよ。
そうするとママはいつも喜んでくれるから、うれしいんだ!
お姉ちゃんは、あんまり動かない。
おひさまがお空にいる間は、ずーっと、ずーっと寝てる。
そのくせ、オヤツの時は、オヤツの棚がひらく音を聞いただけで、駆けつける。
・・・まぁ、それはぼくもなんだけどね。
ぼくもお姉ちゃんも、耳がいいんだよ。すごいでしょ?
だからぼくはいいこいいこって言われるけど、お姉ちゃんはそんなに言われない。
そんなお姉ちゃんを、ぼくはちょっとだけかわいそうって思っていたんだ。
でも、お姉ちゃんには直接言わないよ。
言ったらすぐぶつんだもん。こわいよ。
でもね、お姉ちゃんをうらやましく思うときもあるんだ。
ぼくのママは毎朝いなくなるんだ。
そうするとぼくはとってもさみしいの。
だから、いやだよって言っても、いつも優しくしてくれるママは困った顔で、いいこだねって言ってぼくを部屋に閉じ込めてから、どっか行っちゃうんだ。
いつもならうれしい言葉なのに、言われてもはんぶん悲しい気持ちになっちゃう。
どうして、ママ、会いたいよ。ママ。
って泣いていたら、お姉ちゃんが呆れた顔で、部屋の扉の前からぼくを見てるんだ。
ママはお姉ちゃんのことを、しんらいしてるから、部屋にいれなくてもいいんだって、ママが誰かに話してるのを聞いたことがある。
ぼくはまだこどもだから、いたずらしちゃうから危ないんだって。
ぼくがお姉ちゃんのように自由になれたら、いますぐにママのところに行けるのに!
そう思うと、お姉ちゃんをうらやましく思う気持ちとママに会えない悲しい気持ちが、まぜまぜになってきちゃう。
ママ!なんでぼくもつれていってくれないの!
ママ!どこにいるの!
ママ!そばにいてよ!
がまんしたいけど、気持ちが心からあふれかえって、勝手に口から出ていっちゃう。
そんなぼくを見て、やれやれとお姉ちゃんがため息をつく。
ママが、おしごとということをしないと、僕らのゴハンがもらえなくなるから、我慢しなってお姉ちゃんは教えてくれた。
そして扉ごしだけど、ぼくの側にいてくれたんだ。
そうすると安心してきて、いつのまにかクッションでうとうと寝てしまう。
目を開けるとお姉ちゃんはもういないけど、悲しい気持ちはなくなってて、安心した思い出があるから大丈夫なんだ!
それをおひさまとおつきさまが交互に出てくるのをくり返すうちに、ぼくはもういいこにお留守番ができるようになったよ!
ママがうれしそうだから、ぼくもうれしい!
◯◯◯
お姉ちゃんは、ひらひらしたもので遊んでもらうことがよくある。
そんなときのお姉ちゃんは、いつもと違ってなんだかかっこいい。
真剣な目をしているんだ。
でも、お姉ちゃんばっかり遊んでもらってずるいよ。
だってぼくはいつも、なにかをとってきてーって言われてもってきてあげたり、ママとひっぱりあいっこばっかりだもん。
そうお姉ちゃんに言うと、それがぼくの"おしごと"なんだって。
おしごと?
それってママと同じじゃん!うれしい!うれしい!
ぼくがうれしい気持ちだと、ママはにこにこして、かわいいって言ってくれるんだ。
かわいいばっかり言われるから、かわいいって言葉は、ぼくだけのものだと思っていたんだ。
だからママとお出かけしてるとき、かわいいって聞こえると、ぼくのこと?って振り向いちゃう。
その話をお姉ちゃんにしたら、バカだねっていう目で見られてしまった。
なんでだろう?
あと、もういっこよく分からないのが、つんでれっていう言葉。
ママがよくお姉ちゃんに、このこはつんでれなんだからって言ってお姉ちゃんをなでなでする。
ママは困った声をしてるのに、顔を見ると、ぼくにかわいいって言うときと同じ顔をしてるんだ。
つんでれって言われるとき、お姉ちゃんはよくママの手をひっかいたりする。
それでもお姉ちゃんを見るママの顔はうれしそう。
なんでなの?
ぼくもかわいいって褒められたい!
ていうか、
ぼくもなでなでしてよ!
そうやってお姉ちゃんとママの間に無理やり体を突っこんだら、ママはふたりとも何でこんなにかわいいのっ!って大きい声で叫ぶんだ。
お姉ちゃんはやれやれって言う顔で、お部屋で一番あたたかい場所に座りにいった。
いいな、ぼくもお姉ちゃんのとこにいこうっと。
てくてくって近づいたらお姉ちゃんはちょっと嫌そうな顔をしたけど、となりに座ることをゆるしてくれた。
うれしいっ!うれしいな!
この気持ちを伝えたいけど、さわがしくすると、お姉ちゃんにぺしんってされるからガマン。
だけどウキウキしちゃったのかちょっとお姉ちゃんにぶつさっちゃった!
ぺしんってされる〜って思ったけど、お姉ちゃんは怒らないでぼくにくっついてくれた。
うれしい!やさしい!
あっ、これがつんでれってこと?
どうなんだろう?って考えてるといつの間にか寝ちゃっていた。
お姉ちゃんもぼくにくっついて寝ている。
そんなぼくらを、おひさまが優しくつつみこんでいた。
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