【創作小説】キンセンカが咲いている 第三話
noteバレンタイン企画の忘れられない恋の企画に、14日まで4夜連続でお話を投稿します。
とあるOLが打ち上げの席で言われた、ある一言をきっかけに自身の恋を振り返ります。
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自立しようと考えたきっかけが、成人式だ。私は成人式に両親と参加し、そしてそのまま両親と帰ってきた。友達と久しぶりにはしゃいでるあの子たちはバカで、両親と一緒に成長を祝う私たち家族がえらいらしい。大学は学びの場なんだから、孤高に努力するあなたが一番だと高校までしか卒業してない両親が笑ってた。その反面、あの赤い振袖をきた結子ちゃんは卒業後ホテルで立派に働いているや、あの緑色の振袖の菜々子ちゃんはお子さんがいてお姑さんと仲良く暮らしているなどと、私が名字さえ覚えていないあの子達を固有名詞で判別していた。
ねぇ、あなたたちが見栄でお金をかけたこの振袖を家族内だけで消費するこの光景をどう思ってるのですか。とのんきに笑っている二人に投げかけようとしたがふと、昔からの教えを思い出した。成人したということは大人になったということ。大人になったということは、自己責任で何をしてもいいということ。もう、この人達の言いなりにならず、違う世界に一歩踏み出そう。
宅建の勉強で閉館まで図書館に残っていると言うと、どれだけ帰宅が遅くなっても怪しまれなかった。本当は全く講義には出ずに、昼から繁華街に繰り出していようとも。
駅の改札口で待っていたのは、いつもスーツをきた男だった。昼間から会社を抜けだすことができ、ホテルのランチを食べさせてご満悦な男。甘いケーキの気分なのというと途端に張りきる男。自分の自慢しかできない男。従順な女しか求めていない男。最後に欲を吐き出して先にシャワーして帰る男。
顔なんて覚えていないから毎日違う男に会っても、日替わりでスーツが変わっていくだけという印象だった。どんなに会っても、どの男も最初から最後まで何もかも一緒で、とても退屈な暇つぶしだった。ただ大人がしている子供には出来ない行為がどんなものかを知りたかっただけだった。あの頃はアプリなんてなかったから、いつも掲示板を眺めていた。テキトーに女であることを書き込めば毎日簡単に誰かしらが引っかかった。
ある晩いつものパターンと違い、食事の後とあるバーに連れて行かれた。そこは、L字のカウンターに八席しかないのに男どもで満席だった。店長は私と年が近いツインテールの女の子だった。
今日は女の子も来てくれたんだーうれしーとギュッと手を握られ微笑まれる。
あ、この人の泣きぼくろ、高校の時のあの子と同じ位置。私本当はあなたとずっと友達になりたかった。
そう思うともう止まらなかった。私は連日このバーに通い詰めた。あの子の大学は東京なはずだし、話を聞いたら私より2歳上だし、絶対あの子とは違う。なのに、私は叶わない幻想を追いかけた。
バイトは禁止されていたので、どんどんお金は尽きていった。研究のため専門書を買うと、普段の本よりお金はかかると説得し、怪しまれるくらいお小遣いを要求した。それでも足りなかった。ついに男にお金をせびることにした。ネットで調べたら誰だってしてるし、二十歳の女子大学生というブランドは貴重だから利用しないともったいないと考えた。
店長のことはお姉様と呼ぶことにした。え、ださーと笑っていたお姉様も、私が毎日大量に高いお酒を注文すると目の色が変わっていった。そのうち私を信頼してくれて身の上話までもしてくれた。お姉様はずいぶん家計に苦労されていて、弟の進学費を稼ぐためにこの仕事をやっているらしい。私も過去の罪を懺悔した。お姉様は涙を流し耳を傾けてくれた。その姿は聖母のようで、愛読書の外国の本のワンシーンと重なり、さらにお姉様に心惹かれていった。私達はお互いの恥を分かち合ったことで、絆が強くなっていった。私はお姉様のために働き、お姉様はご家族のためにがんばる。私が店に顔を出すことでお互いの苦労が癒やされる。意を決して愛を告白すると、私もだいすきと受け止めてくれた。お姉様は恥ずかしがりやなので、一度も店の外で会ってくれようとはしなかった。だけど十分だった。私達は崇高な愛を育んでいるのだから。
お姉様との仲が深まるにつれ、男が汚らわしく見えるようになり、どうしても体を重ねることに抵抗を感じるようになった。男達は私から去っていった。困っていると、お姉様がここなら今より稼げるよと、働き先を教えてくれた。お慕いしているお姉様のご紹介なので、稼ぐ方法が私が嫌だと相談した仕事であっても頑張るようにした。一度弱音をはいたときは絶対できるよ、私ここでずっと待ってるからと応援してくれた。その言葉を信じて耐えることにした。
だけどお金を稼げるようになるにつれて、日に日にお姉様の私への態度は冷たくなっていった。前より私の席に来てくれなくなりお酒を頼んでも飲みすぎと言って取り合ってくれない。席の一番端に座っている男ばかり気をかけていた。
もしかして、あの男に脅されているのではないかという答えにたどり着いたのは、無理やり注いでもらった焼酎が何杯めか分からないほどまで胃に流れていったときだった。
ねぇ大丈夫?と困り顔のお姉様のお顔はとても愛おしいものだった。本当は今すぐにでもトイレに駆け込みたい気持ちを隠してお会計をし、店を出た。
帰るふりをして路地裏に身を潜める。お姉様の家は教えてもらってないけど、私とお姉様は以心伝心。言葉にされなくても分かってしまうのだ。
続
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