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うくうく

うくうく。

私の姉が幼い頃、腕毛のことをこう呼んでいた。2歳差で私も小さかったのでちゃんと覚えていないけど、何か不安になったりさみしいときに、うくうくって言って腕をペロペロしてたように思う。(ペロペロというよりは、かぷって甘噛だったかも)
お姉ちゃんのことは何でもかっこよくみえて、全部真似したい妹。特別な儀式をしててかっこいい!と思った3歳も必死にうくうく。特別な何かが起こると思ってワクワクした数分後、腕に残ったのは唾液の匂いだけだった。3歳、初めて時間がたったら唾は臭くなると知った日である。

こんな風にその家でしか通じない言葉って、どこにでもあると思う。 

幼い頃スクランブルエッグのことを、祖母や母はくちゅくちゅと呼んでいた。
姉達は目玉焼きをよく食べてたので、よく私にだけくちゅくちゅ作ったろか?と聞いてくれた。
あとは何だろうと考えてみるけど、あんまり思い出せなかった。

このことを考えたきっかけは宇佐見りん先生のかかを読んだから。

かか/宇佐見りん
壊れてしまった母(かか)を救うため、19歳の浪人生うーちゃんはある祈りを抱え熊野へ旅に出る。20歳の野性味あふれる感性で描き出す、痛切な愛と自立の物語。 
https://www.kawade.co.jp/sp/isbn/9784309028453/

この本のすごいところは、ずっとうーちゃん(=主人公)の話を方言や、うーちゃんの家でしか通じない言葉で話されているところ。うーちゃんの母、かかはエセ関西弁や九州弁が混ざったような独特な言葉をつかう。この言葉をうーちゃんはかか弁と呼んでいて、この本もかか弁混じりの言葉で綴られていく。
この読みにくさで賛否両論がある本だと思うけど、私はうーちゃんの気持ちがすごくリアルに伝わってくるからすごいなぁと思う。
こっちの心も痛くなるくらい、うーちゃんの複雑な気持ちや悲しい気持ちが伝わてくる。

○○○

夫と結婚し、生まれ育った家族から新しい家族になったとき、引き継がれた言葉もある。

まがん。
この言葉は、4歳上の兄が小さい時何かねだったときに我慢しなさい!と怒られて、数分後兄を見ると重たい布団の下にもぐりこんでて、何してるん?と言われ、
まがんしてる(=我慢してる)と答えたらしい。
多分私は生まれてないけど、繰り返し母が語っていたエピソードなのでその場にいたかのように覚えている。
兄のいじらしさがいいなぁと思って、ときどきこの言葉を使ってる。夜にアイス食べたいなぁと思ったり、買い物したときに衝動買いしたくなったとき、もう一本ビール缶をあけたいとき。
まがん、まがんと呟いてると夫にも使われるようになった。 

また新しく使われるようになった言葉もある。
かれは。
お正月はじめて夫の実家に二泊三日した。
たくさんおもてなしされて、嫌なこともないのだけど。やっぱり気を遣う。
帰る日の前日の夜、夫の部屋でようやくふたりきりになったとき、
もう、枯れ葉になっちゃったから明日から甘やかしてって言ってみると
枯れ葉になっちゃったの~~とよしよしされた(笑)
夫にとって実家なのに、直接的に早く家に帰りたいというと悪いので、気疲れしたことをそう表現してみた。
それから疲れたときはお互いこの言葉を使っている。

いつか、家族が増えたときこの言葉が我が家だけの言葉になるのかな。また、これからも新しく言葉が生まれてくるかな。とわくわくしている。


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