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10月の読書感想文:七夜物語(上)(下)/川上弘美先生

この本と出会ったのは偶然だった。

図書館で返却待ちの列に並んでいたとき、ふと隣のスペースの本棚をみたら、目があった。そして、恋に落ちた。
と、言っても過言ではないほど、突然でそして強烈な出会いだった。

普段は素通りしていたけど、川上先生の本が児童書にあるの?!と驚いて、手に取ったのだ。
そしてそれは正解だった。

この本は、小学四年生のさよと、クラスメイトの仄田(ほのだ)くんの冒険の物語だ。

叶うなら10歳に戻ってこの本を読み、大人になってまた読み返したい!


児童書でしょ?と侮ることなかれ。
そのくらい良い本なのだ。
この本をリアルタイムで読める、今の子どもたちが心底羨ましい!

どんな本なの?と気になったら、冒険はもう始まっている。
ぜひこのnoteを読んで、触りだけでも知ってほしい。
そしてこれを読み終わってから、今度はさよ達と一緒に冒険をしてみてほしい。
温かい紅茶かココアをお供にどうぞ。

※ここから先は少しネタバレします※

   ○○○

1.本のあらすじ紹介
2.私の好きな冒険の章
3.読後の全体的な感想

◇1


主人公のさよは読書が好きな小学四年生。
この年齢っていうのが、冒険心をくすぐってくる。

四年生は、もう下級生ではない。もちろん、五年生や六年生にはかなわないけど、一年坊主や二年三年のひよひよした子供たちとは、はっきりと違うもの。それが四年生だ。

P26「七夜物語(上)」

高学年にはなっていないけど、三年生のときより自分自身の気持ちも周りからの目も、大人になってきたねと感じられる年齢。
ちょっと一人で行ける範囲が広がったり、色んなことを考えるようになったり、交友関係が変わってきたり、色々と変化が始まってくる年齢だと思う。

さよも四年生になり、お母さんからもう少し遠くまで行ってもいいと許しを得た。
さよは本が好きなので学校の図書館にもよく通っているけど、許可がでたことで、家から歩いて二十分ほどの図書館にもときどき行くようになった。

図書館だけではなく、少しずつ色んなところに冒険をしているところだ。
そのなかのひとつに、高校がある。
お姉さんやお兄さんがいるなぁと、遠くから静かに観察しているつもりだったけど、
さよのことを観察している高校生の二人組もいたのだ。
(この二人もまたいい人なので、さよとの交流も微笑ましいのでぜひ本文を読んでほしい!)

二人は口ぶえが大変上手で、さよが憧れの目線を送っていると、あなたも口ぶえ部に入る?と誘ってくれた。

メンバーはこの二人+さよ。
いつでも思いついた時、というのがこの部活のルール。だけど、さよが入ったことで決まった時間に集まって練習をすることになった。

ある日さよが、住んでいる団地の給水塔の下で自主練に励んでいると、クラスメイトの仄田くんが「口ぶえ上手いね」とやってきた。
どうしてそんなに上手なのかと問われた。
本当は教えるつもりはなかったけど、あまりにもすがるような口ぶりを聞いて、思わず口ぶえ部のことをさよは話してしまった。
そして羨ましそうに呟く仄田くんの姿をみて、会わせてあげようと高校に連れていくのだが・・・。

試験期間中なのか、高校は施錠され入れない。しかし、抜け穴を見つけて入っていってしまう。

夕方になる前の暗い校舎を進んでいると、急に背の高い一匹の不思議なねずみと出会う。
この出会いからさよと仄田くんの冒険がスタートするのだ。

冒険を通じての二人の心の成長に涙


冒険はこの不思議なねずみとの一回きりの出会いだけじゃなく、そこから色々不思議な夜の世界に巻き込まれていく。
その冒険を通じて、さよと仄田くんは成長していくのだ。

幼いときこの本に出会っていたら、二人と一緒にドキドキしながら冒険していたことだろうか。

大人になって読むと、冒険前と冒険後でふたりが成長していく姿をみて感動する。年齢を重ねるごとに、若い子たちが頑張る姿を見ると感動してしまうのは何故なんだろう。

*こちらの上の文章、上巻を読み終わったときに書いたのだが、下巻を読むとさらに二人の成長に涙で目の前が見えなくなるほどだ。
この二人に出会えてよかったと思う。

◇2

私の好きな冒険エピソード


第三章「次の夜」で、私はこの本の虜となった。
冒険を重ねて自分たちが夜の世界にいく理由が、だんだんと分かってきた二人。
色々と危ない目にもあった二人だけど、最初の頃よりもしっかりとしてきたようにみえる。

この章の冒険は、危険じゃない。
むしろ快適だ。ずっと、ずっと、ここにいたくなるくらいに。

◎戻らなくていいよ、苦しみのないこの場所でずっとここにいたらいいよと誘ってくる世界


だって、現実世界は嫌なことがいっぱいあるでしょう。大変だし、泣きたくなることも多いし、時には泣いちゃうこともあるでしょう。
だったら、ずっとここにいたらいいんだよ。ここで守られて眠っていたらいいんだよ。

そんな世界に迷い込んださよと仄田くん。 

眠ったらリセットで、自分からこの世界から抜け出そうとしない限り、戻ってくることができなくなってしまう。
何度も眠気に抗おうとするが、快適なこの空間の眠気に何度も負けてしまう二人。

もう、ハラハラドキドキが止まらない!
さよ達と同じ小学四年生のときに読んでいると、苦しくてたまらなかっただろう。

でも大人としてこの章が伝えたいことを考えてみると、深いなぁと関心する。

つらいことから逃げたらだめだよという単純なメッセージではないと思う。
撤退が必要なときもある。

けれど、
自分がしたいと思ってることや目標を投げ出して、つい楽な方へ逃げるのはいいことなのか。
いいというのは世間的な評価ではなくて、自分にとっていいことかどうか。

夢に向かって進もうとするとき、当然つらいことや大変なこともあるけど、頑張ってみよう。つらいことと同じくらい、ワクワクすることも嬉しいこともあるよ。

というメッセージなんだと、私は受け取った。
ちょうど、ある資格の試験勉強をしてない私にとっては耳が痛かった(笑)

◇3

私たちにも、かつてあったかもしれない、冒険の物語


もう忘れているだけで、かつては私も夜の世界を冒険していたかもしれない。
そう思うと覚えていないことが、悲しい。

しかしこの本を読むと、心の引き出しから、冒険の記憶をそっと取り出してきてくれる。
すると私の心は軽やかになり、自由になる。

夜の世界での、さよと仄田くんの姿勢からは様々なメッセージが伝わってくる。
勇気がでるし、頑張ろうという気持ちにもなる。
それに、大人になってから読むからこそ、気が引き締まるメッセージもある。

「そうだね。全部のことを理解できるなんて、思っちゃいけないんだ。理解できると思いこむところから、間違いが始まるんだから」

P480「七夜物語(下)  第八章 夜明けより」


相手の気持ちが分かると思って、十分な話し合いもせずに決めつけちゃったり。
相手の話をちゃんと聞こうとしなかったり。
今までの経験からこうだろう、と思考停止で行動してしまったり。

昔なら何でこうなるんだろう?と考えて、知ろうとしていたことが、
今では分かった気になってしてしまっていることが、大人になってから多くなってきている気がする。

これが大人になるっていうことだと、私は思いたくない。
分かったふりして、見て見ぬふりはしたくない。
だけど、してしまってるんじゃないか?とこの言葉を読んで考えた。

こういう風に、振り返ることができるのが本を読む魅力だと思う。
そしてこの本は、その時々によって自分に必要なメッセージが心のなかに入ってくる。

なので、子どものときも、大人になっても、そのまたお婆ちゃんになっても、
いつ読んでも何回読んでも味わい深い本だ。

いつになっても私の道標になってくれる。
そんな本と出会えて幸せ者だと思った。








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