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ゲームセンターの兄ちゃんと、キャンディー屋の姉ちゃん

「胸の高鳴りのままに街に出向く」
何と素晴らしく人間的な行為であろう。

僕は機械人間。
出生の秘密も、複雑な家庭事情もありゃしない。
時間の経過とか他人からの好意とかとは完全に切り離されて、珍しい骨董品としてショーウィンドウに飾られていた。

右はゲームセンター、左はキャンディー屋。
強面の兄ちゃんと、口の横のほくろを気にしている姉ちゃん。
やる気がなくて煙草ばかり吸ってる兄ちゃんと、いつかは自分の店を持つ事を夢見る姉ちゃん。
客と喧嘩ばかりする兄ちゃんと、丁寧にプレゼント用のキャンディーにリボンをつける姉ちゃん。
他人にあまり興味がない兄ちゃんと、そんな兄ちゃんに少し興味がある姉ちゃん。
12月25日にも働いている兄ちゃんと、姉ちゃん。
僕の右耳と左耳が、ちょうどイヤホンから聴こえるのと同じようにジュディマリの「クリスマス」をキャッチした。
2人が同時に口ずさんでいた。

僕に感情が生まれた瞬間だ。
それに名前をつけるのはあまりに無粋で、
以降僕はディスプレイとしてそこにいることをやめた。
色んな“はじまり”に立ち会ってみたくなったんだ。

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