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低FODMAP(フォドマップ)食の歴史と食事療法として普及した理由

米国登録栄養士の宮﨑です。今回は、欧米で過敏性腸症候群(IBS)や潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)などの消化器疾患の食事療法としてすっかり定着してきた低FODMAP食についてその歴史を振り返るとともに、なぜここ10数年で食事療法として一気に普及するに至ったのかについて私なりに考察してみたいと思います。

低FODMAP食とは?

低FODMAP食とは、糖鎖の短い炭水化物の総称です。このFODMAPは一部の過敏性腸症候群(IBS)や潰瘍性大腸炎やクローン病(IBD)患者さんにおいて十分に消化・吸収されないことで、下痢や腹痛の原因になることがわかっています。

そしてこれらをFODMAPの中からトリガーとなる消化器症状を探し、消化器症状を避けながらもバランスの良い食事を目指すのが低FODMAP食です。

詳細はこちらをご覧ください。

低FODMAP食の歴史

低FODMAP食は、オーストラリアのMonash Unievrsityのリサーチチームによって2005年によって提唱されました。(1)

それまで、低FODMAP食が対象とするIBSやIBDではこれまで食事が症状に影響を与えると感じる患者が多かったものの、どのような食事が良いかについては明確に解明されていませんでした。

そのような状況の中で、低FODMAPが徐々に研究者の注目を集めるようになりました。

その後、さまざまな基礎研究・臨床研究がMonash Universityを中心に行われていきました。

低FODMAP食が広く認知されるきっかけになったのは、アメリカミシガン大学のDr. William Cheyのグループが実施した低FODMAP食に関する大規模臨床試験の結果の2016年の公表と考えられます。(2)

その後、低FODMAP食の長期的な効果や安全性などについての研究結果も発表されています。

低FODMAP食が普及した要因は?

私見ですが、低FODMAP食が世界で急速に普及した要因は大きく2つあると考えています。

1点目は、Monash Uvniersityが厳密なFODMAPの解析手法を確立しFODMAPがどの食事に含まれるのか、含まれないのかに関する膨大なデータベースを構築したことです。(3)

データベースができたことにより、どの食事にどのFODMAPが含まれているのか、またどの程度の量を超えると高FODMAPとなるのかなどが明確化されました。

これにより、明確な基準を持って、医療従事者が患者さんに低FODMAPの食事指導を行うことや、患者さんが低FODMAP食を実施できるようになりました。

2点目は、この分析結果をアプリで公開したことです。現在Monash Universityの食事の分析結果は全てアプリで公開されています。

日本でもこのアプリをベースにさまざまな書籍が出版され、それにより低FODMAP食が普及しました。

世界中の患者さんや医療従事者がアクセスできるアプリで分析結果にアクセスできるようしたことが、誰でも低FODMAP食を実践できる環境づくりにつながったと思います。

実際は低FODMAP食そのものが複雑なため、アプリだけでは実行できない方も多いのですが、誰でもデータにアクセスできるようにした価値は非常に大きいと考えます。

まとめ

以上、低FODMAP食の歴史と普及した要因について解説しました。

低FODMAP食はMonash Universityによって提唱され、その後アメリカでの大規模臨床試験を経てその地位が確立されていきました。

またその背景には、Monash Universityが厳密な分析手法を確立したことと、その分析結果にアプリでアクセスできるようにしたことがあり、その結果、低FODMAP食が世界中に普及していきました。

他方、低FODMAP食は日本では多くの患者さんが関心を持っているものの、研究などはまだ十分に行われていません。

今後の日本における低FODMAP食の研究の発展が期待されます。

執筆者プロフィール
宮﨑拓郎 (米国登録栄養士、公衆衛士学修士)
Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)終了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で低FODMAP食の研究に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎とクローン病の栄養管理 IBDにおける栄養学の科学的根拠と実践法」「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」を共著にて出版。
ツイッター: https://twitter.com/TakuroMIY 
インスタグラム:https://www.instagram.com/takuromiy/

直近ではMakuakeにて、低FODMAPプロテインのクラウドファンディングにもチャレンジしてます。応援いただけましたら幸いです。

参考文献

  1. PR Gibson, SJ Shepherd. "Personal view: food for thought--western lifestyle and susceptibility to Crohn's disease. The FODMAP hypothesis". Alimentary Pharmacology & Therapeutics. 21 (12): 1399–409.

  2. SL Eswaran, et al. A Randomized Controlled Trial Comparing the Low FODMAP Diet vs. Modified NICE Guidelines in US Adults with IBS-D. Am J Gastroenterol. 2016 Dec;111(12):1824-1832.

  3. JG Muir, et al. Measurement of short-chain carbohydrates in common Australian vegetables and fruits by high-performance liquid chromatography (HPLC). Journal of Agricultural and Food Chemistry. 57 (2): 554–65.