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「散逸構造」独自文化の醸成はグローバリズムよりも閉ざされた世界で起きる

私の大好きな料理人の一人にHAJIMEの米田シェフがいます。

ミシュラン史上、世界最短で三ツ星を獲得した国内外問わず超絶すごい料理人です。

米田シェフはこのコロナ禍での飲食業界の窮状を国に訴えるアクションをされていて、今や三ツ星シェフとしてだけではなく日本の飲食業界のリーダーとして、なくてはならない存在。

そんな米田シェフとお会いして話せる機会があり、その時に散逸構造の話を聞かせてもらいました。僕が頭の中で考えていたことを見事に言語化されていたその話に感動しました。


なぜなら今、このコロナ禍で我々がやるべきこと、飲食業界(に限らずですが)の発展に必要な答えが散逸構造にあったからです。


散逸構造とはなんぞや?

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よく混ぜられた味噌汁。その味噌汁をお椀に入れて、しばらく放っておくと、味噌がうろこ雲のように変化していきます。

これが散逸構造と呼ばれるものです。

一定のエネルギーの入力があるときにだけ、自己組織化され、維持されるのが散逸構造で、それ自体だけで安定した構造を保つことはできません。

社会学や経済学でも新しいシステムとして研究されているそうで、例えばグローバリズムの広まりからのナショナリズムの発生なんかがまさに散逸構造そのものじゃないかなと私は思います。


そして、このコロナ禍によって置かれた我々の状況も散逸構造と呼べるのではないでしょうか。

人によってはそれを「分断」と呼び、

「イシューからはじめよ」の安宅さんは「開疎」と呼び、

江戸時代では「鎖国」と呼んだ。


この散逸構造がなぜ独自文化を醸成し、飲食業界を発展させるのか?グローバリズムと鎖国を例に説明します。


グローバリズムは均一化を生む

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グローバリズムとは、経済や政治、文化などを世界統一していこうよ~みたいなもんです。(詳しく知りたい人はググってください)

グローバリズムを進めていく人たちをグローバリストなんて呼んで、多国籍企業なんかがその中心ですね。

グローバリズムによって、世界中のものが世界中で利用できるようになっています。

食品も工業製品もインターネットサービスも。あれもこれもどれもそうでしょう。

グローバルな世の中のおかげで、とても便利な世の中になったわけです。

人の動きもそうです。世界中に色んな国の人が住み、働いています。なので、宗教や文化が違う人とも交流ができて、今まで経験できなかったことが経験できるようになりました。

僕も19歳の時にカナダのバンクーバーに留学しました。カナダは移民国家なので様々な人種の人が暮らしていて、日本人だけではない人たちとの出会いはとてつもない刺激になったことを覚えています。


ただ、グローバリズムは良いか悪いかは別として、経済・政治・文化・宗教など、その土地ごとの特徴を消して、世界中で均一化してしまう特徴もあると思います。

グローバリズムは国際的な話ですが、これを国際的視点だけではなくて、国内外問わずの合理化・統一化と考えてみたいと思います。


グローバリズムで失われる美意識

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大阪の街並みを見て、「美しい」と感じる人は何人いるでしょうか。

僕は醜いと感じます。米田シェフもそう話されていて、昔にエハン・デラヴィ(おもろい外国人のおっちゃん)も同じことを言ってたな~と思いだしたんです。


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ヨーロッパの街並みなんかと比べるとその違いを感じられますね。


日本の都市はどこにいっても街並みは大して変わりませんよね。

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これは名古屋の街並み。大阪と大して変わりませんね。


均一化されていくと、その土地の特徴が失われていくんですよね。

これは街並みだけではなくて、その土地の作物や名産も同じです。別にわざわざ行かなくても日本全国どこでも買えます。

例えば、こないだ愛知県の土山で守口漬けを買ったんです。昔ながらの製法で作られた本物の漬物です。めちゃくちゃおいしかったです。


漬物を大量生産しようとすると、実際に長時間漬けてられないので、漬けたような味を出すために添加物を色々と足していくわけですね。

そういったものが安価でスーパーに出回り、消費されていく。伝統的な漬物はスーパーにそもそも並ばないし、並んでも高いから買ってもらえない。

そうして失われていくのは独自の文化や技術です。

日本酒の回でも書きましたが、大量にアルコール添加して作っていたがために純米酒を造る技術が失われつつあった。本物を造れないがために廃れていった日本酒業界。

合理化・均一化によって、独自の文化や技術が失われてしまうのです。


コロナ禍によって散逸構造が出現した

新型コロナウイルス感染拡大によって、海外との人の行き来は止まりました。欧米ではロックダウンによって、都市からも家からも出れないような状況。

欧米ではトランプ大統領がナショナリズムを大々的に謳い、イギリスがEUからの離脱を表明するなど、コロナ前でもグローバリズムからの脱却による散逸構造が見られるようになっていたんですよね。

日本でも在宅勤務が始まったりして、個人単位でも都市単位でも国単位でも散逸構造が起きてきたように思えます。

散逸構造は完全なる分断では存在することができず、外部からのエネルギーがないといけません。

人の行き来がなくなっても、インターネットもそうですし、物流もそうですが外部からエネルギーを取り込み続けているのが社会システムも経済システムも散逸構造と呼べるところではないでしょうか。


独自文化の醸成は「美意識」によって生まれる

都市の街並みにしても、飲食業界の発展にしても、どういったものを作っていくのか?がとても大切。

そして、どういったものを作っていくのか?と考えたときに、なにを選択していくのかは「美意識」次第なんだと米田シェフは言われました。


エハン・デラヴィは世界中を旅しているのですが、日本で「禅」に出会い、そこから日本に住み続けているそうです。

で、エハンは「なんで日本人はこんな素晴らしいものを忘れてしまったんでしょうね?」と不思議に思い、またそのことにとても憂いてもいました。

米田シェフの話を聞いて、エハンの話を思い出し、日本人は日本の独自の文化や宗教、技術などの「美意識」を失ってしまっているんだなと痛感しました。(僕も含め)


江戸時代は日本の独自の文化がとても発展した時代と言われています。

日本料理と呼ばれるものは、この頃に大阪で発展しましたし、ほかの食文化や工芸、芸能、農業などなど、多くの「日本の美意識」がこの頃に発展したと思います。

この頃の日本人がどんな美意識を持っていたのかはわかりませんが、この時に生まれたそういったものに触れることで感じることはできますよね。


歴史を振り返ってみると、味噌汁を混ぜて均一化する時期と散逸構造化する時期とを繰り返しているように思います。

イノベーションは今あるもの同士の新しい組み合わせによって起きるので、グローバリズム的に外部から様々なものを取り込んで、その様々なものをこれまでに無い組み合わせで全く新しいものにしてしまう。

その新しい組み合わせを作るには、一度外部からのインプット量を落とさないと起きないんですよね。


ここからスターが生まれる

なんかダラダラと書いてしまったので、とにかく結論。

コロナ禍で外との活発な交流だとか難しいんだし、そういうことであーだこーだとするよりも、今はこれまでよりも狭くなった範囲で物事を見つめなおし、深堀をしていくときなんでしょうね。

食料自給率の回復や、在来種・古来種・伝統野菜の再興や、街づくりをどうしていくか、日本をどうしていくかを考えていくとき。

飲食業界もそうだと思います。

コロナ禍では営業時間と席数が減らさざるを得ない状況。これまでよりも客数が減るんだから、単価を上げていくしかない。

日本酒の歴史が物語っているように、単価を上げるなら消費者の「本物志向」に応えないといけません。

そういった変化ができるのか?日本らしさのある文化を醸成していけるのか?

今その時に来ているのでしょう。

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