見出し画像

なぜ実弟の発達障害に気付かなかったか

私は発達弟と仕事をともにし、カサンドラになりました。結果、心を病み事業撤退、療養に三年以上もの歳月を費やしました。

カサンドラまでの経緯詳細は「発達障害とカサンドラのヤバい関係」をご覧ください。

当時、弟は実家に引きこもっている状態でしたので、「そんならうちで頑張ってみる?」と打診したのがすべての始まりです。この頃はもちろん、弟が発達障害だと知る由もありませんでした。

一緒に働き始め、三ヶ月が経過するころに早くも私は彼に違和感を覚え、この頃からようやく弟の発達障害を疑い始めました。半年が経過する頃にはほとんど確信しており、発達障害について勉強しながらさまざまなデータを蓄積し始めました。この頃にはもうどっぷりカサンドラ。この年の出来事は、私の人生においてもっともひどい体験でした。二度と体験したくありません。

さて、実の弟なのに実際に働くまでなぜ彼が発達障害だと気づかなかったか?

第一に、私に発達障害に関する知識が足りなかったことがあげられます。発達障害という言葉は知っていましたし、知識ベースでどのような障害なのかも少しは知っていました。しかしそれでは弟の障害に気付くのにあまりに知見が足りなかったのです。今ならおそらく、一週間もあれば何となくわかると思います。状況に応じた対応や身の守り方もできるでしょう。発達問題当事者になる以前に、そんな知見がある人間はそういないはずです。

次に、発達弟の特性が、一般的な生活や活動においてさほど問題でなかったこともあげられます。彼の特性の主な問題は「責任を遂行できない」ことであり、日常生活で大きな責任が問われる機会はあまり多くありません。

たとえば友人との約束をすっぽかそうが、失言や不適切な行動をしようが「なんだこいつ」と思われ、最悪人が離れていくだけです。私は彼のことを「どんくさい奴」「だらしない奴」「どうしようもない奴」くらいには感じていましたし、今思えば過去の言動にも特性の片鱗がたくさんありましたが、障害を疑うには至りませんでした。

しかしこれが結婚や上司・部下など、いわゆる社会的責任を共有する関係になると致命的なハンデになります。責任を果たさないので、周囲が全責任を負うことになるからです。おまけに責任を代行するだけでなく、彼がやらかしたムダな失敗の対応にまで追われるという、本当に不毛なストレスと付き合っていかなければなりません。そんなわけで、オフィスでは彼の行動軌跡を辿って私が片付けをしたり、彼のすべての業務の尻ぬぐいをしたり……。時には彼の代わりに私が業務を遂行しなければなりませんでした。言うまでもなく私のパフォーマンスは大きく落ちます。このストレスたるや。

発達との結婚生活における苦労も想像に難くありません。もし彼に育児を任せようものなら、子供がケガをしたり事故に遭ったりする可能性が決して低くないのです。実際に私もそういった経緯で息子にケガをさせてしまい、それ以来「絶対に息子を委ねない。任せない。頼らない」の“3ない”を徹底しました。本当に悔しかった。

これがもし夫婦関係だったら、パートナーの負担や心労、ストレスは計り知れないでしょう。

「カサンドラママは、パートナーが発達障害だと結婚前に気付かなかったの?」

「どうして結婚したの?」

「相手を選んだ自分にも責任がある」

確かに自分の口に合わない加工食品を購入して、後から「これは自分の口に合わない!責任をとれ!」と難癖をつけるなら、それはただのクレーマーです。

でも、買った食品を食べて病気になっても同じことを言いますか?

弟と血のつながった実の家族である私でさえ、責任をシェアするまで彼が発達障害だと気づきませんでした。赤の他人が相手であればなおさら判断しようがないと思います。

呑み込んでしまった食べ物は吐き出せません。結婚してしまったカサンドラも、そう簡単には離婚できない事情があると思います。

なかなか理解されないカサンドラの苦しみが、少しでも想像してもらいやすい社会になることを願っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?