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新人のアイデアを即採用!社内カルチャーとコロナ禍が生んだヤッホーブルーイングの”実践的研修”

【企業・団体名】

株式会社ヤッホーブルーイング

【取り組みの概要】

日本のクラフトビール市場を牽引する株式会社ヤッホーブルーイング。同社では新入社員に対して、新人研修と並行する形で、チームごとに課題を与えて何らかの形で成果を提示してもらうという「新人PJ(プロジェクト)」を行っている。

この新人PJで2022年入社のあるチームに出された課題から生まれた「RGIO(ルジオ)研修」は、自社製品のプロモーション資料を使いやすくツールマップ化した「インプット」と、商品と自身が“偏愛”するものとをかけ合わせてプレゼンする「アウトプット」の2段階があり、すでに新人研修の一環として採用されている。


よなよなエール、水曜日のネコ、インドの青鬼……。量販店やコンビニでもよく見かける製品ラインアップで知られるヤッホーブルーイング。チームビルディングに重きを置く社風でユニークな施策を様々な行っている同社に、新たな研修制度「RGIO研修」が採用され稼働している。この研修は、昨年入社したばかりの新入社員たちのアイデアから生まれたものだった。

●新入社員が課題解決を図る「新人PJ」

クラフトビールが人気だ。小規模なビール醸造所で職人が造る、味・香り・製法に特徴をもったクラフトビールは、専門のバーがあったり、日本各地で特産品となったりと、以前よりも格段に身近な存在となっている。その中でも積極的に販路を開拓し、コンビニやスーパーでも気軽に買えるようにしたヤッホーブルーイングは国内クラフトビール市場を牽引する存在である。代表製品である「よなよなエール」をはじめ、味・風味はもちろん、ネーミングやパッケージにもこだわったヤッホーの製品は、クラフトビールの定番として定着している。
 
製品同様に社内カルチャーも非常にユニーク。スタッフ一人ひとりの力と自発的な努力を原動力に、一人では成し遂げられないことをチームとして目指すという「ガッホー文化」を旗印に、「上下関係がなく社員同士ニックネームで呼び合う」「お題をもとに仕事に関係のない話をする雑談朝礼」など、独特なチームビルディング手法を実践。オープンかつ積極的なディスカッションが交わされるにぎやかな職場環境を実現している。

▲ガッホー文化とは

同社では、新入社員に対して企業理念や社内カルチャー、そして自分たちが販売する製品のつくられる過程を学ぶなどの新人研修を行っているが、それと並行する形で行われているのが「新人PJ」だ。新入社員を何名かずつのチームに分け、それぞれにあるお題を与えて終了時に何らかの形で成果を提示してもらうというものだ。
 
一例を上げれば、2019年の新人PJでは、「ヤッホーブルーイングの魅力を伝える動画を作成してください」というお題に対して、新入社員たちが社歌の作詞作曲とミュージックビデオの制作を行った(これは現在も観ることができる。https://youtu.be/JqLUeDTSdmI)
 
2022年、新人PJで、チームとなったナール、サム、てる、がんこちゃん、わかめ(それぞれ同社の公式ニックネーム)の5人が生み出したのが新入社員向けの研修制度「RGIO研修」である。

▲新人PJ担当のポスポスも加わり、6名でインタビューに応じてくれた。

(写真の左から順に)
●ポスポス(小野寺裕香):新人研修・新人PJを担当、人事採用育成ユニット「モチベーションブルワーズ」所属
●わかめ(長尾若音):法人受注ユニット「あんかけ」所属
●ナール(前田育香):広域営業ユニット大阪営業所「ダイキチ」所属
●がんこちゃん(中島唯):佐久醸造所の醸造部門「北奉行」所属
●サム(田中隼人):軽井沢及び長野全域の営業部隊「軽井沢Cheers!」所属
●てる(野島輝):公式通販の受注・顧客対応「おもいやり隊 」所属

●造り手と同じ熱量で製品を語れるようになるための施策

5人に与えられたお題は、難題と思えるものだった。

がんこちゃん「【対外的に自社製品を語る機会を持てなかったスタッフが、つくり手と同じ熱量で自社製品を人に語れるようになるための施策を考えてください】というものでした。これは難しいなと」
 
各々が配属先で様々な部門での業務を経験しながら、夕方に新人PJのメンバーが日々集まった。施策の形を問わない難解な課題の上、新入社員が無作為にグループ分けされただけのため、最初はなかなか議論も進まなかったという。
 
ナール「出来立てのグループが答えのない挑戦的なお題に取り組むのは、お互いを知らない中で大変でしたが、気を遣っているとシナジーも生まれないし良いアウトプットも出てこないので、まずはメンバー同士のコミュニケーションを最優先に考えました。言いたいことを言える関係になってからは早かったですし、全員が同じ方向を向いて進められました」

▲新人PJを通して絆が生まれたメンバーたち。
インタビュー中も笑顔が絶えない。

まず、【対外的に自社製品を語る機会を持てなかったスタッフが、つくり手と同じ熱量で自社製品を人に語れるようになるための施策を考えてください】というお題の意味を考え、話し合った。
 
がんこちゃん「先輩社員の皆さんは自社の製品を愛していて、イベントもたくさんやっていたことで、自社製品を語る機会がありましたが、コロナ禍以降、そういった機会がどんどん少なくなっていました。そのため入社3年以内の社員は自社製品を先輩たちのようには熱く語れていないのではないか? そういう課題感があるのでは、というところからスタートしました。その課題に対して一ヶ月かけてアイデアを出し合って、社内アンケートなども行った上で、最終的に研修、『RGIO研修』という形になりました」
 
自社製品について熱く語るということについて、議論し、社内の声を集める中で、明らかになったのは知識を入れる「インプット」と、自分の言葉で語る「アウトプット」両面の課題だった。
 
わかめ「インプットに関して、知識を入れるツールはヤッホー社内に大量にありましたが、それを探すのが難しいという課題がありました。それをわかりやすく整理し、ヤッホーブルーイングの『ツールマップ』として一元化しました。マップ上の製品などをクリックすると、社内のグーグルドライブに保管されている、その製品の資料が取り出せる仕組みになっています」

▲インプットに使える「ツールマップ」

ツールマップは、個人の知を社内全体で共有し、しかもビジュアル的にもわかりやすいものに仕上がった。
 
わかめ「アウトプットについては、自社製品とそれぞれの社員が持っている『偏愛』を組み合わせて、どういう楽しみ方ができるのかを語ってもらう場を設けました。偏愛は個々人の嗜好で、たとえばM-1グランプリが好きだ、競馬が好きだなど何でもOKです。自分の好きなものと組み合わせることで、より自信を持って語ることができるのではないかと考えました。そのことで自信をつけてもらう目的もあります」
 
サム「RGIOはRookies become Greatest showman Input Outputの略称です。この研修を経験することで、グレイテストショーマン、簡単に言えばエンターテイナーになれるという思いでネーミングしました。これについては、何でも言い合える関係になっていたこともあって決定するまでなかなか意見がまとまらず、ずっと仮称で進んでいました(笑)」

●新人研修で実際に採用、文化として醸成したい

RGIO研修は昨年の8月、12月の中途入社の新人研修で採用され、今年度からはすべての新人研修で実施される予定だ。実際、研修でどんなアウトプットがあったのだろうか。

▲アウトプット例1

がんこちゃん「ヤッホー広め隊(広報)のはまじ(濵島瞳)のプレゼンでは、柚子と塩の爽やかさが売りの『前略 好みなんて聞いてないぜ SORRY 其ノ四セッション柚子エール~あら塩仕立て~』と偏愛としての『ラテアート』をかけ合わせたプレゼンが行われました」
 
ラテアートは味とともに見た目も楽しめる。ただアートを描くには技術が必要で、熟練の腕が問われる。『前略 好みなんて聞いてないぜ SORRY 其ノ四セッション柚子エール~あら塩仕立て~』は、柚子とあら塩で夏をイメージした特徴ある製品だが、調合はすべて手作業で行うため手間と労力、そして技術が必要になる。その点をかけ合わせたプレゼンだった。
 
がんこちゃん「つくり手側として、製法の大変さも紹介してくれて、うれしかったです」
 
よりつくる工程にフォーカスしたものとしてプレゼンされたのはこちら(よなよな編集部(WEBコンテンツ)ザック(鳳崎創))。

▲アウトプット例2

スタンダードなよなよなエールと、趣味としての麺打ちをかけ合わせたもので、できた麺を食べるときに飲む、ということではなく、麺を打つ過程をビールとともに楽しむというものだった。「偏愛」と掛け合わせたからこその着眼点と言えるだろう。
 
RGIO研修を生み出したメンバーは研修の成果をどう見ているのか。
 
てる「これからヤッホーのカルチャーのひとつとして醸成していければと思っています。自分ごととして語るということは、職種問わず肝になると思います」
 
ナール「同業他社との勉強会で、RGIO研修と同様の内容をやりました。セールストークは売り上げ実績や伸長率など数字に寄ってしまいがちですが、「クラフトビールの魅力を自分らしく語る」という着眼点が新鮮だととても好評でした」

●フラットな風土が若手を活躍させる

同時期の新人PJでは、「渡すことで共感を生み、パートナーを目指すユニークな名刺『きびだんご』」や「部署・ニックネーム・クリフトンストレングスによる資質などを記載して、お互いのことがすぐわかる社員証『Donata』」などが発表され、実際に使用されている。新しいものを貪欲に取り入れていく姿勢がヤッホーブルーイングで徹底されている。「てんちょ」のニックネームで呼ばれる井手直行代表取締役社長が取り組んできたチームビルディングが完全に社内に行き渡っている。RGIO研修を生んだ新人メンバーから見て、ヤッホーブルーイングはどんな会社だろうか。

▲2020年9月、新たにヤッホーの拠点として誕生した、醸造所とオフィスからなる御代田醸造所。
▲オフィスエリアで働くスタッフ。到着時には鐘を鳴らし拍手で向かい入れてくれた。

てる「ニックネームで呼び合うことをはじめ、はじめは変な会社だなあという印象でした。ただ、ニックネームも雑談朝礼なども、年齢や先輩後輩の壁を取り壊してフラットな関係をつくる大事な要素になっているなと思います」

サム「コミュニケーションが濃密で、僕自身はどちらかといえば寡黙の部類に入るかなと思うのですが、部署を問わず声をかけてもらって、スキーに一緒に行ったり、縁もゆかりもない長野での生活ですが楽しく過ごせています」
 
ナール「社としてもキーワードにしていますが、『知的な変わり者』が多いですね。みんなの趣味嗜好が面白いし、多種多様な才能が垣間見えるたびに刺激をもらえます。また、それぞれの異なった能力、凸凹力を活かしてチームで仕事をする組織なので、自分の強みを活かし、弱みはカバーしてもらえているなと感じます。」
 
昨年は31名の新入社員を迎え、社員数は現在200名を超えた。「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションを掲げ、「クラフトビールを通じてささやかな幸せをお届けしたい!」 という思いも共有するヤッホーブルーイング。社員全員が活躍できるフラットで活発なコミュニケーションを可能にした社内カルチャーのもと、その歩みを止めることはなさそうだ。
 
 
(WRITING:斯波 戌)
※ 本ページの情報は2023年3月時点の情報となります。

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