「アリエルとカレナセンセ」第一話「悪夢からの脱出」

あらすじ

二日酔い教師は実験室で眠っていた。気づく
と右手には銃、教え娘の生徒が倒れていた。
目覚めると死んだ筈の生徒は元気で、あれは
夢魔の夢だと知る。生徒は夢魔で「お願い私
と組んで兄の夢魔を倒して欲しい」とお願い
された。最初断るが兄のターゲットは自分の
妹だと知る。妹は「体育祭優勝したらデート
してもいい」と約束したらしい。体育祭で優
勝する。妹のデートは阻止された。妹の好き
な先生は代数幾何学教師。彼は、一度、 異世
界で魔王を倒した帰還勇者だった。勇者は夢
魔兄を倒してしまう。仇討ちの為に夢魔妹と
教師が再結成し勇者を倒す。兄も復活しハッ
ピーエンド。

以上10話分あらすじ

キャラ紹介

カレナセンセ(理科教師)(A組担任)

 妹のくるみにぞっこんである。ベタベタし過ぎで、くっつき禁止を言い渡された。
 華麗なセンセと言うと喜ぶ。彼氏なしセンセと言うと怒る。

アリエル・後藤:サキュバスの女生徒(A組生徒)

 サキュバスの能力で男子がホイホイ寄ってくるが興味なし。男は燃料位にしか思っていない。
 ウラ設定:カレナセンセに密かに想いを寄せている。サキュバスの能力は女性には効かないので、悶々としている。試しにカレナセンセの妹にサキュバスの能力をかけてみるとメロメロになる。コレを利用して嫌いな兄に罠を仕掛けるが?

カーズ・後藤:インキュバスの男性先生(現国教師)(B組担任)

 生徒であるくるみにぞっこんラブ。プロポーズするがことごとく断れている。今回初めて、体育祭で優勝すれば、1日デートしてくれる約束を取り付けた。インキュバスの能力で、他の女の先生・生徒はメロメロであるが、くるみには効かない。

くるみ:カレナセンセの妹(B組生徒)

 カレナを小さくしてセーラー服を着せた容姿。
 男性的な性格のため、インキュバスの能力が効かない。現国の後藤先生に言い寄られているが、全く興味なし。どちらかといえば、代数幾何の斎藤先生が好み。男性的な性格のため、サキュバスの能力が有効。これをアリエルに利用される。

斎藤先生(代数・幾何教師)

 いわゆる帰還勇者。異世界で魔王を倒し現実世界に帰還した。なのでとても強い。勇者の剣:Xキャリバー(重力操作機能つき剣)で現実世界も無双する。

過護保子かごのほし先生

 保険の先生。カレナやアリエルに信頼されている保険の先生。

森ノ泉もりのイズミ

 容姿は黒髪ショートカットに黒縁メガネ。
図書委員の委員長。B組の生徒。

濱野彼方はまのカナタ

 容姿は、黒髪ロングのおさげさん。
B組のクラスの委員長。

以上キャラ紹介でした。

〈本文〉


 わたしは女子校の女教師をしている。生徒たちには、カレナセンセと呼ばれている。今日も、理科実験クラブの顧問として、放課後、部活に勤しんでいる。部員は目下1名。高校一年生のアリエルさんだ。普段はふたりで軽い会話を交えながら理科実験を行っている。

「教師の憩いの場はどこにあると思う?」
「さぁ?」
「教師の憩いの場は、ベッドのある保健室? 生徒の全く来ない教員用トイレ? いいえ、わたしは理科実験室にこそ安らぎを感じる──と思っている」
「はぁ」

 後藤アリエルさん。わたしの担当クラスの生徒で理科実験クラブ員。漢字名は「後藤泡姫」いわゆるキラキラネームだ。黒髪、黒縁メガネの女子。瞳を前髪で隠しているので、一見するとネクラちゃん? わたしとの会話は、小声であるが小気良いレスポンスで返してくれる。

「ところでアリエル。君は何しているの?」
葉脈標本スケルトンリーフ、本に挟むシオリを作ってるよ?」
「んん君はナニか? 昨日、旧友の結婚式で二日酔いに苦しんでいるわたしを放置して、わたしの注文した酔いドメも作らずに、シオリを作っていたというのかい?」
「昨日センセが、理科実験クラブの新入部員の説明会用に、葉脈標本スケルトンリーフのシオリを作れとおっしゃったじゃないですか?」
「それは昨日のわたしの話だ。今日のわたしは酔いドメ薬が最優先だ!」
「うっわー」

 アリエルは嫌そうな顔をすると、わたしの酔いドメ薬を探しに保健室へ立ち去った。実験室で調合してくれないようだ。アレの方が効くのだが……。

 さて──将来、理科実験クラブの入部希望者の君の為に葉脈標本スケルトンリーフについて少し説明してあげよう。

 葉脈標本スケルトンリーフは、わたしの初めての理科実験の課題だ。小学生3年の時だった。わたしも理科実験クラブに所属しており、上級生と一緒に最初の実験で葉脈標本スケルトンリーフを作ることになった。思えば、わたしが理科教師を目指すきっかけだったかもしれない。

 葉脈標本スケルトンリーフを太陽の光にかざすと、まるで木漏れ日のミニチュアを再現しているようで萌える。
 今も、当時作った葉脈標本スケルトンリーフのシオリが愛読書に挟まれている。

 作り方は簡単。

 お湯にパイプ洗浄剤。または、漂白剤を入れて暫く煮込み、流水で薬剤を洗い流す。わたしはブ○ーチを愛用していたな。衣類につくと色が白く抜けてしまう。母にいつも怒られていた。
 次に、歯ブラシで葉肉をトントンたたく。ゴシゴシこすると葉脈が破れてしまうので気をつけて……。破れてもわたしはセロテープでとめていたなぁ。どうせシオリとして使っているうちに破けてしまうから──。

 しばらく続けると硬い葉脈の部分だけが残る。それだけでもわたしは好きなのだが、絵の具で色を付けて乾かして完成。

 アリエルは、それを一杯作っていたが、別の用途で使うようだ。
 以前、何に使うのか聞いてみたことがある。

「シオリ以外何に使っているんだ?」
「んーんーんーナイショー」

 アリエルが保健室からもらってきた酔いドメを飲んだ。愛用のビーカーに水を入れた。薬を喉に流し込む。

「以前にも聞いたが、葉脈標本スケルトンリーフを大量に作って、一体何に使うつもりなんだ?」
「秘密だよ」
「10や20じゃないだろう? 100や200も何に使うんだ?」
「んーそうだねぇ。夢に、使うんだー」
「夢?」
葉脈標本スケルトンリーフは、元々、木の葉でしょ? 木の葉には魔力ゆめが宿りやすいの。集めると様々な魔法が使えるの」
「……」
「ぶっちゃけ、私ってば夢魔サキュバスでしょ? 夢のかけらを集めると魔力が潤うのよ。魔力がいっぱい集まれば大きな魔法が使えるわ」
「zzz……」
「センセー、カレナセンセー? フフフ。やっと眠った」

 わたしは、アリエルに揺すられた。もうすっかり熟睡していた。

「ハーアー。やっと寝た。睡眠薬、つぎは、もっと濃いのにしなきゃ!」

 わたしは、生徒に怪しい薬を飲まされた。アリエルは、口をむにゅむにゅさせながら、そして、手をもみもみさせながら、寝ているわたしの顔をつついていた。しつこく顔を火照らせながらつついていた……しばらくそれは続いていた。

 次にわたしが目覚めるまで続いていた。

 さて君に質問だ。

 人は、いちどの眠りで、夢を2、3個観るという。君は目覚めたとき夢を幾つ覚えているだろうか?

 わたしは目覚める最後の夢のひとつだけだ。ソレがとてつもなく悪夢だったりすると、1日ずっと不機嫌になる。

 夢魔サキュバスであるアリエルに関わってしまった──わたしは、しばらく不機嫌な日々を過ごすことになる。つまりそういう物語はなしだ。

 ▽◇▽ ▽◇▽ ▽◇▽

 わたしは悪夢の中で目覚めた。悪夢と断定するにはまだ早いのだが……。

 わたしが目覚めたのは、人のいない学校の保健室だった。わたしが学校のなかで心地よいと思っている第2位の場所だ。保険の過護保子先生が良い先生で、何時間でもベッドを使わせてくれる。

 まだこの段階では、夢とも悪夢とも気づいていなかった。

 スピーカーから、あの声が流れてきた。脳天気な学生の声。放課後いつも聞いている声。いつもなら、ボソボソ呟くように話すのだが、スピーカーから流れてきた声は、今まで聞いた事の無いほど浮かれていた。

「おはよう、カレナセンセ。夢の中で目覚めた場合は、お休みなさいかしら?」

 これでここが夢だと知った。

「この声は、アリエルか? お前、わたしを睡眠薬で眠らせたのか?」

「そうでーす! あぁー現実のカレナセンセの身体は、私が大切にツンツクしてますから、安心……」

「ツンツクってなんだー!! お前はわたしの身体にナニをしてるんだー!!」
「……エヘヘ。恥ずかしいから、言わないっ」
「恥ずかしい事かー! 恥ずかしいことを、わたしにしているのかー!!」

 ちょっと不思議な夢は、とても嫌な夢に変わった。

「さてココは、夢の中のダンジョンです。様々なモンスターがあなたを襲いますが。最終的には、ダンジョン主の私を倒してください。ダンジョン主を失ったダンジョンは消え去り、あなたは夢の中から目覚めるでしょう」

 嫌な夢は、悪夢へ確定した。

「まずはセンセの白衣を探してください。そこに私からのプレゼントがあります。保健室はアイテムの宝庫。じっくり探してくださいね?」

「白衣など無くても大丈夫!」

「絶対必要ですよー。例え全裸に白衣だけのカレナセンセは認められても。白衣なしの普段着のカレナセンセは認められません。白衣に防御力+10つけちゃいます」

「さっきからわたしとの会話が成立しているが、近くで聞いているのか? 近くにいるなら出てきてじっくり話し合おう!」

「私の居場所ですか? それはこのゲームの攻略に関わる問題ですのでノーコメントです。私はこのゲームのラスボスですから、ラスボスはどこ? なんて答えられません」

 そんな会話の間に、保健室の衣類カゴに白衣が見つかった。白衣のポケットを弄ると固くて黒いモノがあった。

「銃?」

「テッレレー。アイテム発見! リボルバーです!」

「マシンガンとかショットガンはないのか?」

「センセはいったい何と戦うんですか? 相手は、か弱い女生徒ですよ。夢の中だって、撃たれればキッチリ痛いんですからね? それはリボルバーのチーフスペシャル。女性の護身用銃です。マグナム弾も撃てるタイプだよ。でも今、入っているのは普通の弾5発。モンスターなら、一発で倒せちゃいますが。ラスボスの私は3発で死にます。銃の弾の数は節約してくださいね。理数系のセンセですから、この点は心配していませんが……」

 これだけ会話が成り立つなら、説得することも容易かと期待したが1時間説得しても無理だった。

「アリエル、これからわたしはどうすればいいか説明してくれ」
「よく聞いてくれました。ここは実際にある私たちの学校の教室を模したダンジョンです。センセには教室を巡って、アイテムを集めてもらいます。教室にはアイテム。リボルバーの弾とかですね。置いておきました。地図はっと、だいたい埋めたよね? 埋めた埋めた。えっと埋めていないところからは、モンスターが出ます。あっそうかーここモンスター出過ぎだ!! 修正っと……。弾の数よりモンスターが多く出現することもあります。私も現実世界で宿題があるのでずっと監視できないんですよねー。次はモンスターを倒してからお会いしましょう。では──」

「あ、おいっ!!」

 ひとりになってしまった。

 しんと静まる保健室。保険室内を探索する。弾は見つからなかった。わたしはいつもの白衣姿で保健室を出た。廊下があった。違和感がある。保健室の窓からは青空が覗いていたのに、廊下の窓の外は真っ赤だった。夕焼けよりも赤かった。

「警戒色といった感じか?」

 保健室は休憩所だから青。廊下は要警戒場所だから赤なのか?

 保健室から最も近い教室は、1年生の教室だ。わたしの担当のA組も近い。隣のB組は後藤先生の教室だ。後藤先生はアリエルの兄。わたしは安易にB組の教室に入った。

 キキッ!!

 わたしの頭を風が飛んだ。頭皮が裂け血が流れる。モンスターが現れた。教室内は真っ暗。暗闇に黒い羽のようなものが見えた。天井に目線を向ける。気配は辿れない。リボルバーを構えるが、モンスターを見つけられない。できるだけ姿勢を低く抑える。頭の血が目に入って染みる。心臓の音がドクドクドクと高い音を立てる。教室の窓がピカッと光った。B組の教室の窓は雷雨のようだ。

「コウモリの羽?」

 それは羽が1mもあるコウモリだった。天井の電気の切れた蛍光灯に逆さまになってぶら下がっている。雷の度にモンスターの全容が現れる。人のような顔。血走った目。曲がった左右2つの角。コウモリの悪魔だった。銃口を向けると、バッと羽ばたく。

 わたしの右脇から痛みが走る。コウモリの悪魔が、わたしの脇の肋骨に爪を引っ掛けて、空へ放り投げたのだ。教室の机や椅子をなぎ倒して、床に引きづられた。

 左上と思えば右下から攻撃され。右上と思えば左下から攻撃された。だからといって、下を向けば頭をやられる。弾は5発。ラスボスのアリエル用に3発は残したい。だから雑魚モンスターには2発しか使えない。教室を漁ると弾が手に入るらしいが、この教室はハズレだろう。もう一度、ハズレを引けば、そこでもモンスターを退治しなければならなくなる。イッパツ一発は大切だ。

 わたしは教室の片隅に身を潜めた。こうすれば後ろを気にしなくて良くなる。リボルバーを構え正面にだけに集中する。

「一撃必中っ!!」

 パン。安っぽいクラッカーの様な音がした。

 弾は見事にコウモリの頭に命中した。

「パンパカパーン。カレナセンセは、モンスターを倒しました。レベルアップー!! レベル20です。おめでとう」

「それはナニ基準だ?」

「ごめんなさい。当ダンジョンには、レベルアップシステムは導入されておりません。ちょっと言ってみたかっただけです。テヘェ」

「……宿題は終わったか?」

「あっ忘れてた。次のモンスターを倒したらまたお話ししましょ。ではー」

「しまった。宿題の話題はまずかったか……」

 わたしの今の姿を見つめる。頭から血がたれて視界を塞ぐ。腹部から血がにじみ、思い切り息を吸うと肺からヒューヒュー音がする。ストッキングは破れ血が滲んでいた。みため派手なのは、額の傷と膝のスリ傷だが、圧倒的に肺がヤバイ。

「こんなの、あと2、3回すると死ぬな?」

 手当が必要だ。保健室へ戻ろう。双六でふりだしに戻る、みたいで嫌だが仕方ない。

「あれ、開かない」

 保健室には、傷薬や、痛み止めや、包帯がある。

「ブブー。保健室はもう攻略済です」

「アリエルちょっと……」

 保健室の扉を開けようとすると同じセリフが聞こえる。これは自動音声のようだ。

「ちきしょー、もう詰んだ」

 百回ぐらい嫌というほど、この音声を聞いた。

 なるほど、きっちり計画を立ててから攻略しないといけないのか? 次は、わたしの教室。理科室。理科実験室。の順番に回っていこう。

 わたしはA組の前に立った。わたしの担当の教室だ。アリエルのクラスでもある。ここになら、何かしらアイテムが隠されているだろう。さもないと意地悪だ。リボルバーの残弾は4発。わたしは教室に入った。

 教室内は暗闇だった。まだ成功か失敗かわからない。暗闇の中手探りで机やロッカーを探る。途中から警戒を解いて探索に力を入れる。9割方探索に費やした頃、そいつは現れた。

 保護色のやつだ。暗闇に雷の音がこだまする。やつのシルエットが浮かび上がった。長い舌をぺろりと出して、わたしを攻撃してきた。

「カメレオンの悪魔か?!」

 わたしのリボルバーがやつのぐるぐる回る瞳を撃ち抜いた。汗ばむ手のひら。心臓の音が早くなる。顔が暑い。銃を撃った腕が震えた。動揺が後からやってきた。人間大のカメレオンの死体を見つめ、やっと落ち着いてきた。モンスターが居た。ここにもアイテムはなかった。

「パンパカパーン。おめでとう!! おや? 大変っ怪我したの? 次の教室に回復アイテムを隠しておくね。まあなんて親切な運営かしら?」

「だったら保健室を開放してくれ。あそこには、救急用具が揃っている」

「ごめんなさい。そういう細かなプログラムは兄の夢魔インキュバス位にならないと出来ないので……。次の教室には必ず回復アイテムを置いておくね」

 どうやら保健室を閉鎖したのは、アリエルの意地悪ではなかったようだ。この夢の中のダンジョンは、もともと、アリエルの兄、後藤カーズのプログラムだった。「兄に無理言って作ってもらったの──」だそうだ。現実の学校で先生をしているはずだろ? 今から修正してもらえば? 「今は仲が悪いからね──ダメ」

「ああそうかい」

 C組の教室に入って回復アイテムを飲む。体の傷が最初からなかったように消えた。一気にRPGっぽくなってきたな。まあ白衣に防御力+10付加されている段階で、すでにゲームなのだが。

「私が自由にできるなら、ダメージを受けると脱衣する仕様にしたかったんだけどね──」
「いやぜひ止めてほしい!! そんなゲームは絶対嫌だ!」
「ここで、ヒントです。アイテムがひとつとは限りません」
「なんと」
「私が回復アイテムを無理やり置いたので本来のアイテムが別にあります。探してみてくださいね。あと仕様のため、教室から出ると閉鎖されます」

 田中くんのロッカーの中から銃弾が見つかった。

「コレは大変。学級崩壊だ!!」
「お前が置いたんだろ!!」
「その弾は、マグナム弾です。ラスボスの私も一発で死にます。雑魚モンスターも一発ですが、もったいないです。ここらへんを考えて攻略してね──それでは宿題のつづき」

 教室から廊下にでた。

「ジャジャーン。ラスボスが現れた!! 言い忘れてましたが。マグナム弾を見つけたので、私が出現するようになりました」

「ええっ。ちょちょっと……」

 わたしは、慌ててマグナム弾を取り落としてしまった。普通の弾も廊下に散らばる。要はリボルバー残弾ゼロの状態だ。

 いつもの陰キャラのアリエルが、セーラー服はそのままに、頭に羊角の生えた悪魔っ子バージョンに変身していた。アリエルの攻撃、キックがわたしに炸裂。廊下の端まで飛ばされた。せっかく無傷だったのに、またすり傷ボロボロになった。

「ヒヒヒヒ……死ねっ!!」

 残弾ゼロのリボルバーを手に、わたしは頭を抱えた。マグナム弾はほかの弾より大きい。すぐに見つかった。ただ、場所が悪魔アリエルの後方。コウモリのように超音波でわたしの耳を錯乱させる。

「フフフ、どれが本物でしょう?」

 幻覚でアリエルが3人に増えた。わたしは近くの教室へ逃げ込んだ。そして扉を閉める。

「ジャジャーン。ついにラスボスが登場ですね」
「アリエル。アレはナニ? あなた? とても凶暴だけど」
「このダンジョンでの私の分体です。兄からみた私ですって。私ってあんななの? 兄ってM?」
「弾丸も落とした。もう廊下に戻れないぞ!!」
「仕様書によると、ボスは、教室以外でもランダムに現れます。魔力もランダムで、強バージョンの私の時は全力で逃げてください。マグナム弾を拾うと出現します。今、マグナム弾を落としたので、廊下から消えてると思いますよ」
「面倒な仕様だな」
「だから兄と喧嘩中なの。私に夢魔サキュバスとして男を魅了しろってしつこく言ってくるし。男なんかより──」

(私はカレナセンセが好きなのに……)

 とりあえず今はラスボスアリエルの攻略を考えないといけない。懸念材料は、マグナム弾を拾ってしまい、ランダムボスと雑魚モンスターが同時に出現した場合だ。弾の入れ替えなんて瞬時にできる訳がない。もし、雑魚モンスターの方にマグナム弾を使ったら、弾が足らなくなる。後藤カーズの仕様だというならば、雑魚モンスターの数もきっちり決まっている。ずばり5匹だ。2匹倒し。廊下に落とした普通弾は3発。雑魚モンスターは残り3匹。教室で普通弾の追加を見つけたらこの限りではないが……。

 廊下に出た。悪魔っ子アリエルはいない。廊下に落ちた普通弾を拾い集める。
 残弾は3発。コレは雑魚モンスター用だ。マグナム弾を拾うと、悪魔っ子アリエルが出現するなら、マグナム弾を拾うのは、雑魚モンスターを倒した後だ。アリエルに一応聞いてみる。

「アリエル。雑魚モンスターは何匹いるの?」

「……」

「コラーだんまりかいっ!!」

 アリエルは宿題に集中しているようだ。

 理科教室へ向かう途中、おトイレに向かうことにした。なんで? なんて言わないで! 乙女の危機とだけ言っておこう。
 そういえば教員用トイレは、わたしの憩いの場、第3位だった。

「わたしの憩いの場は、ちゃんとセーフハウス(敵の出現しない場所)に設定してくれてるでしょうね?」

 個室を開けるとモンスターが現れた。

「ぎゃー!!」

 パンッ

 モンスターは倒された。

 個室の扉が壊れた。

 わたしはイグアナモンスターの死骸を眺めながら用を足した。とほほ……。

「きゃー。カレナセンセのハレンチ」

 最もハレンチなやつが現れた。

「お前は。わたしの現実の肉体からだにナニかしただろう?」
ボソ(おしっこしたくなるようなこと……)
「してないよ?」
ボソ(……ッただけだもの)

「XXXXったのか!!」
「PPPPっただけだもん!!」
「OOOOったのか!!」
「TTTTったけど。仕方ないじゃん!!」
「ああもうNNNN」

 残弾数2発。わたしは理科室へ向かう。

「宿題終わった!!」
「お前、このシリアスな雰囲気を台無しにするな!」
「ねえねえ。なんだか私たちって、とっても仲良しの相棒ペアって感じじゃない? このままペア組んじゃおっか?」
「お断りだ!!」
「ええ。私サキュバスだし──イケメン紹介するよ?」
「イランおせっかいだ!!」
ボソ(カレシナシセンセ)
「彼氏なしって言うな!!」
「じゃあ、私が慰める──」
「お前を殺してから目覚める! 覚めたらお前を──!!」
「キャー」

 しばらく先生と生徒で有るまじき会話がつづいた。

 アリエルと喧嘩してしまった。貴重な情報源だったのに……仕方ない。

 ここからはひとりで攻略だ。

 まずは理科室からだ。中は暗闇、電気はつかない。セーフハウスなら電気はついているはずだ。そうでないということは。モンスターがいる可能が高い。だが、いきなり攻撃されることはなかった。闇に銃口を向け、目線だけでアタリを見回す。コウモリのように空からの攻撃はなかった。
イグアナのように壁からの攻撃もなかった。カメレオンのようにステルスで……いやコレはまだわからない。

 闇の先から紙のガサガサいう音がする。ヤギの悪魔か? 理科室はわたしのホームグランドなので懐中電灯の場所も把握済みだ。机の前までたどり着くと手探りで懐中電灯を点けた。

 巨大な肉の壁だった。今までより長い角。凶暴な顔。人の3倍の体格。ゴリラの悪魔だった。両腕を振ってわたしに攻撃を仕掛けてきた。
 わたしは銃を2発撃った。撃ってしまった。二発ともゴリラの腕に命中した。だが悪魔は倒れない。

「雑魚モンスターは弾1発で倒せるんじゃなかったの? それとも急所外したせい?」

 長い腕を振り回して、書棚を破壊していく。遂に理科室の壁が崩壊した。わたしは、廊下へ放り出された。体中擦り傷だらけ。致命傷が無いのは白衣の防御力+10が効いているからだろう。

 残弾数ゼロのリボルバー。廊下に探していた弾が──有った。弾を拾い上げると、銃に装填した。

 ゴリラの悪魔とは数メートル。ゴリラの心臓を狙い撃った。

バーン

 今までの弾とストッピンパワーがまるで違う。ゴリラはその場で立ち止まると膝を折ってうずくっまった。

「中級ボス悪魔を倒しました。ドロップアイテムをゲットしました。アイテムは、マグナム弾『持っているとラスボスと必ず会える効果つき』です」

 アリエルの声だがアナウンス音声だろう。証拠に……。

「ラスボスが現れました」

「ヒヒヒヒ……死ねっ!!」

 ラスボスアリエルの音声も何度も聞いた無機質な音声だったから。

「ラスボスの下僕しもべが現れました。犬のモンスターです。なお雑魚モンスターはコレが最後となります」

 これも無機質なアナウンス音。これが最後なら血の通ったアリエルの肉声を聞いておけばよかったよ。
 廊下で悪魔に挟まれ逃げ場がない。一番危惧した場面だった。
 前面には、ラスボスアリエル。背後には悪魔犬。リボルバーには、中ボスを倒したドロップアイテム、マグナム弾が一発。ラスボスを倒せるほどの威力のある弾だ。だが一体は撃ち漏らす。

「どっちを倒せばいい? どっちに食われればいい? ねえ──アリエル?」

わたしは、プロゲーマー(誤)じゃなくて教師(正)なの。教師だから生徒は撃てないよ。

「だから……」

 銃口を悪魔犬に向けて発泡した。

 パン

 飛びついてきた悪魔犬が最後の力で、わたしの首にガブリッと噛み付いた。

「いったぁー」

「……なんだつまらない……」そう言ってラスボスアリエルが去っていく。おそらくプログラムを組んだ、後藤カーズの理想とするシナリオから反れたのだろう。戦いは盛り上がることなく収束した。

 わたしがラスボスに発泡し、後ろから悪魔犬に噛まれる。それが理想的ラストだったのだろう。

「すまんな。つまらない選択で……」

 かくして、わたしは雑魚モンスターにかみ殺されゲームオーバーだ。

 いつの間にか悪魔犬が伏せ状態で、主が来るのを待つ。
 倒れたわたしに足音が近づいてくる。

「ここで相棒のアリエルが駆けつけた」喧嘩してた生アリエルの声だ。

「……ん? ラスボス?」
「イイエ」
「だったらダンジョン主?」
「正解」
「じゃあラスボス倒しても、ゲームは終わらなかった?」
「うん。兄は意地悪なんだ……」
「ダンジョン主を倒せば、この夢から出られるんだったかな?」
「仕様書ではそうなってるねぇ?」

 わたしはリボルバーの空のシリンダーを見せた。

「弾はないゾー」
「ハイ弾っ」

 アリエルは、空のシリンダーに弾を挿入する。リボルバーを自らアリエルのこめかみに当てる。ふたりでリボルバーのトリガーを引いた。

「勝利」

 無機質なアリエルの声が空に響いた。

 △◇△ △◇△ △◇△ 

 赤みがかったピンクの夢世界から、白いブルーの現実世界へ

 現実世界にもアリエルは居て、

 こんな非常識なことを提案した。

「ねえ、私と世界を救ってみない?」

 つづく

第二話「夢から覚めたら……
第三話「裏体育祭はダンジョンだった。
第四話「体育祭本番」
第五話「理科実験室」
第六話「現代国語」
第七話「代数幾何学」
第八話「帰還勇者」
第九話「転生耐性」
第十話「夢魔復活」(完)

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#イラストストーリー部門

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