いたたまれない
この世にはいたたまれないことがある…。
私が学び舎のサロン(学校)の帰りのことの話でございます。
本と筆と硯を風呂敷にまとめて、牛車(バス)に乗って帰ろうとしました。
牛車には私以外、2人の男女が後ろ側に座っていました。
そこまでは良かったのですが、このあといたたまれない空気にさらされるなんて、私は夢にも思いませんでした。
あろうことかその男女はイチャイチャし始めたのです。
別に良いのですよ?好きな方と傍にいて楽しむのは、とても幸せなことだとは思っているのですよ。
でも、頼むから私や人のいない所でイチャイチャして愛を育んでくれ。
イチャイチャしている声は当然耳に入り、後ろを振り向いてはならぬ、知らぬふりをせよと恋愛の神様に言いつけられているような気分でした。
私は扇で顔を隠し、下唇を噛んでこう我慢するのです。
『私だって、帰ってから紫の君の胸に飛び込んでイチャイチャしたいわ!口惜しや~!』と心の中で叫んでいました。
頭の中では白塗りで扇を持って舞子の格好している人物が『チャンチャカチャンチャンチャチャンチャチャンチャン』と出てきて、『後ろでイチャついているカップル見てたら~現実逃避したくなった~チクショー!!」とインパクトある顔で言ってました。
【注意】※現実逃避するための妄想です。
そして、『紫の君、私がちゃんと文句言うことなく我慢できるためにお力をお貸しください』と祈るばかりでした。
牛車ですし詰めされている中でやられているといたたまれなさが増すばかりでした。
牛車から男女が降りて、私は安心した一方で、ドッと疲れが一気に津波のように押し寄せて、開花した花が萎れたような気分でした。
屋敷(家)に帰ってから、紫の君にことの次第を話しました。
私は「幸せなのはわかったから、頼むから余所でしてと思った」と話すと紫の君は「あー」と独り身でいた時の話をしてくれました。
「俺も宮中(仕事場)へ向かっている時にな、満員牛車(電車)でカップルがイチャイチャしているやつを見せつけられたが…あれは地獄だったな」
紫の君は何処向いているのかと思うくらい遠い目しておりました。
「男はモヤシ、女はパッとしない、まさに拷問だったな、誰がこんな男女のイチャイチャ見たいんだ、下手な巻物(スプラッター映画)を見ていた方がましだと思った」
そんなに?とツッコミました。
その後、紫の君から沢山「よしよし」してもらい、気落ちしている私を必死に笑わそうとし、ちゃんと可愛がってもらいました。
父君に話すと「まぁまぁ、そういう人たちはどこでもするんだよ」と苦笑いされ、それもそうだと思いました。
かといって虫よけなのかと思ったけれど…。
母上も「私も満員牛車で見たことある、女は目を潤ませて『早くどこかへ連れていって』と男に目で訴えていたんだけど、男の方が勘弁してよという顔していたわ、気の毒だと思った」と言っていた。
それでも、いたたまれなかったのは事実で、私も人がいないところでしようと思いました。
これはあくまで、私の主観なのですが、やはり、イチャイチャするなら二人きりが一番で、何も見せつければ良いというわけでなく、大切な人を護るためにも密かにするのも一つだと思っています。
物騒な世の中のため、何がきっかけになって、自分だけでなく、それこそパートナーにまで魔の手が迫り、恐ろしいだけでなく、終った後では、悔しさと腹が立ち、虚しく悲しくなるのです。
幸せな時間をどうか不幸せにせず、恋人がいる人たちは日頃の行動を振り返って愛の育み方を見直してみてください。
今現在パートナーがいる人たち、今はいないけれどいずれは出会う人たちに、幸せであるように・・・。
肩を寄せ 微笑みあって 花咲かせ 車に揺られ 夜の夢路へ
【2つ目の話】
8年後に私に出会う|道成寺 夜香 (note.com)
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