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連載小説【正義屋グティ】   第17話・赤レンガの刺客

17.赤レンガの刺客

6階 電気室前
プルルルル
暗黒の中に不気味に燃え盛る真っ赤な炎。パターソンは今もなお、それに立ち向かおうと身構える。そんな矢先、突然パターソンの携帯が細長い音色を奏でた。
「どうしたの!こっちは今、消火活動で手がいっぱいで…」
「それどころじゃねぇよ!こっちは、デンたんがやられてめっちゃ息苦しそうだし、グティは奴らにさらわれたんだ!もう、どうすれば…」
迷惑そうに電話に出たパターソンだったが、電話先のカザマの報告を聞き、声色が一瞬にして凍り付く。
「え?冗談だろ?! だってあの作戦に抜かりはないはずなのに」
「冗談だって願いたいさ。でも俺たちは負けたんだ。それもこんなに多くの仲間を失ってな!」
崩れるように地面に座り込んだカザマは、拳を地面に何回も打ち付けた。すると暗闇の奥で、ガチャ とカギの開く音をカザマの耳がとらえた。こんな精神状態の中でも周囲の気配に全神経を研ぎ澄ますことは、体が覚えているようだった。
「どこか開いた」
「本当?じゃあまだ壊されていない脱出口があるんだ。そこにグティはいる可能性が高いから追ってみて!」
「任せろ」
カザマのその言葉と共に通話が切れ、祈るような気持ちでパターソンは再び消火器を握り始めた。

非常階段
「お前の降参は正解だったはずだぞ、グティレス。なんせお前のせいで罪のない子供たちが死ぬことはなくなったんだからな」
「黙れよ、マジで」
久しぶりの仕事だと言わんばかりの鉄製の非常階段は、錆びて茶色になっており、ギシギシと音を立てながらグティとサングラス男を見守っていた。
サングラス男はグティの頭に拳銃を突きつけた状態で前を歩かせていたが、その視界にふと【1階】という文字が入り、再び口を開いた。
「止まれ」
その言葉に反応したグティは大人しく足を止める。
「なんだよ」
「別になんもねぇよ。この先の地下1階が今、唯一外につながっている地下駐車場だから、俺の仲間が来るまで待機してるだけだ。」
サングラス男がそう答えたところで、グティは四年間忘れるどころか膨らまし続けてきた疑問を、男にぶつけた。
「もう僕の降参だから教えてほしいんだけどさ、なんで僕の家族をあんたらは狙うんだ?」
少し間が空き、その間もグティはいろいろな可能性を自分なりに考えていた。少し間をおいてから、ようやくサングラス男が話を始めた。
「ため口なのは気に障るが、まぁいい教えてやるよ。俺には子供がいるんだよ。ちょうどグティレス、お前くらいの年齢のな。俺は自分の子供を守るためにやってるんだよ。」
思いもよらないストーリーの幕開けにグティは固唾をのんだ。そして再び耳をサングラス男の方に傾ける。
「詳しくは言えないが、俺は四年前にお前らを海辺のデパートで襲った時の三人組で活動している。そして俺らはある大きな組織…、みたいなもんの大きな秘密を知ってしまい、俺と俺の家族が助かるためにその組織に雇われた。なんでお前の祖父やお前を狙わなくちゃいけないかなんて、知ったこっちゃねぇよ。俺はただ、この先に始まるであろう絶望的な計画の餌食になりたくないだけなんだよ」
サングラス男が話し終わり、グティは拳を強く握った。そして目の前に燃え盛っている怒りという感情を忘れるために、目を閉じた。
「あんたらに痛む心は無いのか?僕と同じ年齢の子供がいるなら、なおさらだろうが!」
肩を震わせ苦しんでいるグティを後ろから眺めていたサングラス男は、何を思ったか、グティを力いっぱい階段から踊り場にけり落した。
「うわぁあああああー!」
非常階段中にグティの叫び声がこだました。そして蹴り落したサングラス男はゆっくりとグティに向かって歩き始めた。
「心なんて痛まないさ。俺にとっての正義はお前の正義とは全然違う。でもそんなのどうだっていい。俺さえ良ければ、俺の家族さえ良ければ!どんなことでもする覚悟はできている。」
そしてサングラス男はうずくまったグティの胸ぐらを無理やりつかみ、グティの口に拳銃をくわえさせた。
「俺の正義のためだったら人だって殺してやるよ!お前の母さんのようにな!」
グティはその怒号を聞くと全身の力が抜け、擦りむき血だらけになった自分の両手を見つめた。そして四年前のことを思い出した。

どんなに心配させても強く抱きしめてくれた母
あの担架に揺れた海辺の上で見た母
自分の意見と対立しても、否定はせず受け止めてくれたエレベーターの中の母
最後の最後まで自分のことを心配してくれた、屋上での母
そして謎の海辺で出会った、赤に染まった狼
そしてその狼がくれた『正義を全うしろ』、という言葉。

気づいたらグティに残された感情は単純な『怒り』ではなく、色々な感情が入り乱れた混沌としたものだった。こんな得も言われぬ感情は、後にも先にも経験することはないだろうとグティは強く感じた。
「本当にママを…」
「厳密に言えば、上に身柄を渡しただけだからその後はどうなってるか知らないが、あのバカげたことを考える奴らのことだ。想像はつく」
サングラス男はそう言うと、グティの口から拳銃を抜いた。その一瞬の隙を突き、グティはサングラス男の顔面に思いっきりパンチを食らわせ、拳銃を今度こそ奪い取り階段の途中に転げ落ちたサングラス男に銃口を向けた。

「お、俺は、俺の大切なものを守りたかっただけなんだ…頼む!」
そう言って必死の形相で懇願する男にさらに近づくと、さっき自分がされたように、グティは銃を男の口に押し込んだ。
「ンガガ‥ムガ…」
何かを言っているらしいが、全く聞き取れない。気づいたらグティの体はほんのり青い毛皮に包まれ、長くて鋭い牙が口から少し飛び出してきていた。グティの姿は狼に近くなり始めていた。そしてグティは恐ろしい眼をサングラス男に投げつけ、
「俺はお前らみたいな『間違った人間』を許さない!!!」
と叫び、引き金に少しばかり伸びた爪の生えた指を掛けた。
バーーーン
「ウグ…ウガガ…」
サングラス男の断末魔と共に、一発の鉛玉が男の体を貫通した。だが、返り血はグティにそれほどかからなかった。ふと見ると、地下駐車場のドアを開け、荒い呼吸の中、拳銃を握りしめているアレグロの姿があった。それが理由であった。発砲したのはグティではなく、グティのクラスメイトであるデューン・アレグロだったのだ。
「アレグロ、何でここに?!」
その光景に驚いたグティからは狼の面影がなくなり、いつものグティに戻っていた。
「汚れていいのは俺の手だけだ」
拳銃を下したデューンの元にグティが向かうと、サングラス男のポケットに入っていた携帯が鳴り出した。その直後に地下一階の踊り場に仕掛けられていた爆弾が爆発し、踊り場は瓦礫の山と化した。
「また爆発?」
「まずい、俺らの位置がばれた。備えろグティ!」
デューンが地下駐車場の入り口のドアに慣れた手つきで拳銃を構えている横で、グティは瓦礫の破片に埋もれたサングラス男の右手をまじまじと見つめていた。

   To be continued... 第18話・紫電
 逃げ道がなくなったグティ達、どうする?... 2022年8月21日(日)午後9時ごろまでには!投稿予定!   お楽しみに!!


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