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連載小説【正義屋グティ】   第20話・標的

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20.標的

「おいおい。車のライトが消えたぞ!」
「うちもです。全く何が起こっているの」
「これはテロだ。カルム国は、この街は、どうなってしまうんだ!」
暗闇に飲み込まれた車の中から飛び出した人々は混乱に色づいた声をあげながら街中を駆け出している。この混沌とした世界に巻き込まれているのはあの二人も例外でなかった。

「灯りが消えた?!」
ガスマスク男の車を探すため土砂降りの夜の中、無我夢中に走っていたグティとカザマは足を止めた。さっきまで自分達を灯していたビルの光、そしてほとんどの車のライトが消えた今、グティ達はその場に立ち尽くすことしかできなかった。
「どうせ奴らの仕業だ。暗いせいでどれがガスマスク男の車かもわからないから空にいる正義屋もお手上げだ。また僕は奴らに負けるのか?」
グティは雨雲の中、不思議と姿を現した満月に無意識に尋ねてみた。
「負けねぇよ。見てみろよ、空を」
カザマはそう言うと、びしょ濡れのグティ背中をさすり空を指差した。
「はっ!」
グティは息をのんだ。さっきまで四方八方に飛び回っていたロボバリエンテが30機ほどずらっと一列に並びライトを照らし進み始めたのだ。

数分前 上空

「こちらハルタ。現在、地上のほとんどの明かりが消え、凶悪犯の車の捜索が困難となりました。どうぞ」
「こちら本部。暗闇の中むやみに捜索するのは危険だ。今すぐ、撤退を…」
ロボバリエンテ内の無線がそんな本部の男の声で埋め尽くされた。隊員のほとんどが、本部へと舵を切ろうとしたその時、初々しい青年の美声がそんな絶望の通信網を埋め尽くした。
「待て、撤退はするな。みんな俺の指示に従えばいい」
「こちら本部。ロボバリエンテ33号に乗った貴様、まず名を名乗らんか!それに今は重要な局面だ。変な口出しをするな!」
本部の男が口を酸っぱくし、無線のボタンから手を離すと再び無線のライトが赤く光り始めた。
「本部のおじさん、無線のボタンはしばらく借りるね。こちらはラス・バリトン。先ほど凶悪犯を相手にし、取り逃がした中央正義屋のDグループの者だ。奴の車の上には俺が交戦時にあけた比較的大きな穴がある。俺らはこの街の上空で一列になって地上を順に光らせ、穴の開いた黒い車を見つけたら一斉に攻撃する。いいな」
ラスが話終わると、独占された信憑性の低い無線に嫌気がさした数機が本部へ向かって飛んでいこうとする。だがそれに気づいたラスの機体は、撤退していく一機のロボバリエンテの横に周り込み、勢いよくジェット噴射を稼働させ、回転しながら細長い『それ』に向け体当たりをした。
バコーーーン
攻撃をもろに受けた機体は火花を散らしながら、灯りの消えた近くのビルの屋上に不時着した。
「今、最も情報を確保しているのは俺だ。俺の指示に背く奴は反逆者だとみなし、容赦はしないぞ。それに、この大きな獲物は逃したくないからね」
その痛々しい光景と、鬼のような言葉が無線から流れてきた頃には本部に戻るとするロボヴァリエンテは居なくなり、皆一斉にライトを灯し、捜索を始めた。それから10分ほど経過すると、正義屋に勝機の兆しが見えてきた。
「おい、穴の開いたホーク大国製の黒い車…あったぞ。ジョン、銃口を固定出来たら教えてくれ、俺も操縦かんから手を離す」
ロボヴァリエンテ12号は列から外れ動きを止めた。そして、その車に向け弾丸の雨を降らせ始めた。
「こちら、ラス。12号が恐らく標的を発見した模様。全員で囲め。でも奴は殺すな、死者が出ない限り、奴なりの正義を聞いてどうするかを決めるぞ。それが俺ら正義屋の役目だと思うんだ」
ラスのその言葉を後に無線のランプは消え、本部からの撤退命令を聞き流した30機ほどのロボバリエンテはガスマスク男の車を集中砲火をし始めた。

「ボス!まずいよ、俺のことがばれた。何とか手を打ってくれよ」
ガスマスク男は降り注ぐ弾丸から逃れるべく頭を抱え、電話越しにボスの助けを待った。が、何も返事はなく、電話の奥からの ピッ というボタンらしき音がガスマスク男の耳に届き、その直後すし詰め状態だった大通りに並ぶ数台の車が
ドーーーーン
という大きな音と、赤い炎を上げて爆発した。
「おい…ボス、お前がやったのか?」
ガスマスクの男は携帯に映る『通話中』という文字を見つめ茫然とした。
「この国の一般人を殺したのか? おいボス、なんとか言えよ!俺はそんなこと望んでなんか……!」
口を閉じたときに携帯に映し出されたのは、虚無で塗りつぶされた黒のみだった。すべてが嫌になったガスマスク男はドアを開け逃げ出した。
黒ずみになった車を中心に赤い炎が上がり、それを取り囲むように人々が泣き叫んでいる。そんな最悪ともいえる場面がこの一瞬でこの街に何個も何個も生成されたのだ。混乱が空にも届いたのか、上空のロボバリエンテも銃撃をやめた。運はすべてガスマスク男に傾いた。なのに、この男は涙を流していた。

同時刻 地上

ドーーーーン
「グティ危ない!」
突然目の前の車が爆発して、グティとカザマはその爆風に吹き飛ばされた。
「うっ!」
「大丈夫か?!」
「ダメだ動かねぇ。折れてるかもしんねぇな」
カザマはそう言うと足をさすり無情にも弱まっていく雨に勝ってしまう炎を眺め、寝ころんだ。そしてグティの方を向きにっと笑うと
「後は頼んだぜ。お前の正義をぶつけてやれ!」
と叫び手を振った。
「お、おう」
カザマに背を向け、グティは少し歩き始めた。この悲惨な一日を思い返し、目をつむった。そして、グティの中には自分のすべてを奪い、さらに故郷と仲間を傷つけた『奴ら』への怒りの感情だけが鮮明に残った。気づいたらグティは走り出し、そのフォームは段々と前かがみになり四足歩行へと変わる。爪は鋭く伸び、牙は曲線を描き、体からは鮮やかな青色の毛皮が生え始めていた。雨を切りながら猛スピードで走っているのはグティではない。怒りに満ちた目を光らせながら標的目掛け突き進んでいる一匹の狼だった。

     To be continued...   第21話・本当の
狼と変貌したグティ。ガスマスク男との決着は付くのか...? 2022年9月18日(日)午後8時投稿予定!  お楽しみに!!


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