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連載小説【正義屋グティ】   第18話・紫電

18.紫電

面白みのない鉄の塊の中に閉じ込められたグティとアレグロは、今だにヒンヤリとした気味の悪い空気を肌で感じていた。
「なぁ、アレグロ…」
「しっ!喋るな」
グティが雰囲気を和ませようとアレグロの肩に手を置くと、アレグロは若干迷惑そうに手を振り払い銃をドアに向けて体を固定させる。グティはそのアレグロの後ろ髪に視点をずらすと、大雨に襲われたかのようにぐっしょりと汗で濡れていた。
「アレグロ、怖いのか?」
グティはアレグロの構えている手が小刻みに震えていることに気づき、つい尋ねてしまった。
「俺だってお前のために命張ってんだ。これくらい許せよ」
「お、おう」
先ほどの様に怒られると思っていたグティにとって、この返答は意外なものだった。そしてついにアレグロの銃先のドアが ドンッ と大きな音を立てて勢いよく開いた。
「…なに?」
デューンは顔をしかめる。ドアの先から人影が一切現れなかったのが解せないのだ。何が起きているのかさっぱりわからなかったグティは頭を抱え、細めた目でその光景を見つめていた。次の瞬間、ドアの外から黒く丸い物体が投げ込まれ、咄嗟にアレグロは引き金を引いた。
バンッ
アレグロの放った弾丸はその謎の物体に命中し、それは大きな破裂音を立てながら白い煙をまき散らし始めた。
「睡眠ガスだ!」
何を根拠にそう分かったのか、アレグロはグティを壁に押し付け手で口を覆う。続いて勢いよくドアが閉まった。その音で、二人は地下駐車場へとつながる一本の希望の道筋が閉ざされてしまったことを悟った。グティはただひたすら慌てふためいていたが、アレグロは少し違うようだ。彼は口を覆っていない方の手を使い、ズボンのポケットから緑色の丸い物体を取り出してグティに囁いた。
「これは手榴弾と言って、ここにある黒いピンを抜き、少ししたら小規模な爆発が起こる。まぁ、あの瓦礫くらいは簡単に吹っ飛ばせるだろうな」
グティは少し感づいてはいたものの、まさかそんなはずはないと思いアレグロに念のために聞いてみた。
「だから何だよ、こんな物騒なもの僕にどうしろって?」
するとアレグロは頬を緩ませた後、手に持った手榴弾のピンを抜くとグティに押しつけた。
「あと三秒!」
銃に集中しているデューンに怒鳴られ、グティは今自分が置かれている状況をようやく理解した。グティは目を血走らせながら全力投球で手榴弾を瓦礫の中へと投げ込んだ。
ドーーーーン
グティの手から放たれた球は、数秒しないうちに破裂し、強烈な爆風と熱波がグティ達を襲った。それと同時に瓦礫が崩れ、グティは死に物狂いで階段を上り後ろを振り向いた。
「アレグロ!」
グティの先に映ったのはガスマスクの男に引きずられているアレグロの姿だった。煙の中でよく見えなかったのか、ガスマスク男はアレグロをグティだと勘違いして連れて行こうとしているのだ。
「誰だ!」
ガスのせいで意識が遠のいていく中、低く曇ったガスマスク男の声がグティの耳に届き、グティはよろめきながら遠くへ行こうとさらに階段を上る。だが、煙の中シルエットでそのことを見抜いたガスマスク男はグティに向けて銃を向け、何発も何発も鉛玉を打ち込んだ。
「ぐぁあああああ!」
その中の数弾がグティの左腕に命中したが、それ以上の被害は確認されなかった。その理由は、密かに後ろを付けていたカザマがグティを担いで死角に避難させたからだった。
「グティ!痛いのは分かるが、少し我慢してくれ」
「おう、ありがと。カザマ」
カザマはカバンから花柄の可愛らしいハンカチを出し、グティの傷口を必死に押さえた。やがてグティの止血が完了する頃には煙も引き、いつもの非常階段へと戻った。
「もう10分くらい経つな。カザマ、少しアレグロの様子を見に行かない?」
「何?アレグロが来てたのかよ。早く言えバカ!」
カザマは目を丸くして、さっきまで自分が手当てしていたグティの頭を思いっきりひっぱたき、地下駐車場へとつながるドアをくぐった。グティもその後に続き地下駐車場に到着すると、暗闇の中で右の瞳を緑色に輝かせ、遠くを見据える男がずっしりと腕を組んで立っていた。
「ラスさん…?ですよね!」
グティは開いた傷口のことをすっかり忘れ、猛ダッシュしてラスのもとに向かった。
「ヒカル君じゃん。なんでここに?」
「ちょっといろいろありまして…そういえば、さっきガスマスク男と僕らくらいの男の子を見ませんでした?」
グティが目を見開いてそう尋ねると、ラスは気味悪く鼻でふふっと静かに笑い、奥の暗闇を見据えて、
「見たよ。あいつらのことでしょ」
と言った。するとその方向から何やらエンジン音が少しずつ大きく聞こえてきた。
「車?!」
カザマが声をあげると、奥の暗闇からライトを付けた黒い車がすごいスピードでこちらに向かい、ラスの目の前で、 キキーーー と、凄まじいブレーキ音を出し動きを止めた。
「どきな、兄ちゃん!こっちは今忙しいんだ」
車の中からガスマスクを付けた先ほどの男が機嫌の悪そうな声で、そう怒鳴った。
「こっちだって忙しいよ。なんてったって、後輩が連れ去られそうになっているのを助ける仕事が急遽できたからね」
「妙に度胸ある野郎だと思ったら、赤髪だな。正義屋ならとっとと下手くそな銃を使って俺を制圧して見ろよ!全部避けてやるからさ」
ラスの静かな挑発はガスマスク男にしっかりと響いたようだ。明かにキレているガスマスク男をあざ笑うかのように、ラスは高笑いを始める。
「はっはっはっ! 残念だけどもう銃はつまらないことに使っちゃって、没収されたんだよね。それに、君一人に銃など不要だし」
「舐めやがって!小僧のくせに!」
そうガスマスク男が発した瞬間グティとカザマは危険を感じ、ラスたちに背を向けて走り出す。そしてついにガスマスク男はアクセルを踏み込み、車が勢いよく前進した。
「ラスさん! 危ない!」
グティの叫び声が地下駐車場全体にこだました。ラスは急発進する車を右の光る緑眼で睨みつけるやその場で飛び上がり、車が自分の真下を通る瞬間を狙って鋭い武器を仕込んだかかとで一撃し、天井に穴をあけた。
「うわッ!」
車中のガスマスク男は突然の衝撃に声を上げ、地上へと逃げ去った。
「ラスさん!大丈夫ですか?」
コンクリートに軽く尻もちをついたラスにグティとカザマが走り寄ると、ラスは優しく微笑んでグティの顔を見た。
「こっから先はカルム国の優秀な正義屋に任せておくことにしよう。でも一応、俺も本部に戻って応援に行くから、またねヒカル君」
そう言ってグティの頭をくしゃくしゃと撫で、地上に向かって走り去っていった。     

To be continued...   第19話・ロボバリエンテ
ガスマスク男とデューンは、どうなってしまうのか?!2022年8月27日or30日午後8時公開予定!!     お楽しみに!!!

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