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連載小説【正義屋グティ】   第13話・デパートの惨劇

13.デパートの惨劇

闇夜がデパートを包み豪華な黄色の光が美しい赤レンガの建物から溢れ出る。陽気な音楽が繰り返し流れている屋上駐車場の入り口もその例外ではなかった。だが、ほかの場所とはどこか異なり、青く着色された冷たい空気がその場で漂っていた。
「なんだ。その口の利き方は。俺はお客様だぞ!出来損ないの正義屋とは違う!」
先ほどから駐車場の入り口で怒鳴り散らしている小太りのおじさんがその原因であろう。おじさんは今だに『緑眼の正義屋』にヤジを飛ばしていた。
「いい年してみっともないよおじさん。だから独身なんだよ」
「たわけ!俺は独身じゃないねえ!」
おじさんの今日一番の怒号が茂みに隠れているグティ達の耳に入ると、二人は思わず吹き出してしまった。それと同時におじさんの顔が真っ赤に膨れ上がり今にも弾けそうになると、おじさんは手に持っていたミルクティーを緑眼の足元にぶちまけ、車が呻きを上げるほど勢いよくアクセルを踏んだ。
「おい、あれやばくね?」
グティがパターソンにそう呟き、駐車場の入り口に向けて走り出すと。緑眼は腰からグティ達が見たこともない恐ろし気な拳銃を取り出し両腕を伸ばして標準を合わせると、一切の迷いもなく引き金を引いた。
バンッ
空気中へ放り出された鉛玉は意外にも短い音を上げ、そのままおじさんの乗っている車の左後輪に当たった。
「うあああああ」
おじさんは情けない叫び声をあげながら、愛車とともに薄汚れた赤レンガの壁に激突した。
小さな煙が車から立ち上るのを緑眼は眺めながら、胸ポケットに入っている無線機を口元に持っていき、
「こちら、ラス・バリトンです。デパートでの代行業務の際に出現した暴走車を、やむを得ず銃を使いパンクさせました。至急、首都・カタルシス中央デパートに車の撤去などの応援を求めます。どうぞ」
と、話した。隠れて見ていたつもりのグティ達も、今では緑眼を目の前にしてただ茫然としていた。
「久しぶり。ヒカル君。元気にしてた?」
「あ、はい」
突然の問いかけに動揺したグティは緑眼の目を見ることができなかった。グティからものすごい緊張を感じたパターソンは、気を利かせようと緑眼に話しかけた。
「はじめまして。ゴージーン・パターソンと申します。先輩のお名前は?」
「もう学生じゃないんだから先輩って言わないでいいよ。僕の名前はラス・バリトン。見たらわかると思うけど正義屋をやってるよ」
ラスはそう言うと、正義屋特有の赤く染まった髪の毛を左手で掻き上げた。その瞬間、パターソンはハッとした。新人の中でも養成所を優秀な成績で卒業した者だけが拳銃の常時携帯を許可されることを思い出したのだ。そしてグティと同じように緊張してしまった。無言の時間が少し続いた後、その気まずさを埋めるかのようにポツポツと雨が降り始め、次第に人々の雑踏の音が小さくかすんでいった。正義屋の応援の車が放つ赤い光を見つけたラスは、微笑んで小さく手をふるとどこかに歩き出そうとした。その時、今まで黙っていたグティがラスを見つめて質問を投げかけた。
「ラスさん!なんでラスさんの目は緑色なんですか?」
すぐには返事が返って来ない。ざあっと強まっていく夏の雨が、その空気の重苦しさを物語った。
「言いたくない。ごめんな」
ラスは後ろを向いたまま雨でかき消されそうな小さい声で答え、再びゆっくりと歩きだしてしまった。グティは悪意のない失言に思わず口を手で覆い、パターソンと見つめ合った。

数十分後

グティとパターソンは本来の目的であるデパートに入り、ガラス張りの大きいエレベーターで五階へ向かった。いつもならこのデパートの名物である屋内屋台が密集しているが、今日はそれらが一軒も見当たらず、その代わりに大きなステージと大量の観客席が用意されていた。
「何やるんだろうな?」
「さあ」
グティ達はステージ上に置いてある巨大な看板に目を移した。そこにはでかでかと、【スーパーヒーローX達のワクワクパフォーマンスショー】と書かれていた。
「あぁ、あの戦隊モノね。小さい頃よく見てたかも。グティは知ってる?」
「知らない~。僕そういうのあんまり好きじゃなかったし、こんなの小さい子しか見ないだろ。恥ずかしいし早く移動しようぜ」
「それもそうだね」
二人は子供たちが独占した観客席を横目に休んでいると、最前列に座っている大きな男たちの声が聞こえてきた。
「ヒーローX!早く登場してほしいな。俺、大ファンなんだよ」
「デンたん。恥ずかしいから少し大人しくしてくれよ」
「何言ってんだよ?ヒーローXに会えるんだぜ!」
「チュイ、こいつら何とかしてくれよ」
どれも聞き覚えのある声ばかりだ。にわかには信じられないが、声の方向に恐る恐る視線を移すと、図星だ。デンたん、チュイ、カザマ、グリル。同期の四人がペンライトを天に掲げてハチマキを頭に巻いていた。その中には嫌がっている者もいるらしいが、グティとパターソンは巻き込まれないように、痛々しい光景に背を向けてその場を去ろうとした。と、次の瞬間、一階の複数個の出入口付近で、ドーーーーン!と激しい爆発音が響き渡った。揺れにおびえる子供たちの叫び声の中、先ほどまでラスがいた駐車場の入口も例外ではないことを、グティは悟った。

   To be continued...    第14話・四年ぶり
  惨劇の始まり...グティ達はどうする。2022年7月10日(日)午後8時投稿予定!
   お楽しみに!!


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