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連載小説【正義屋グティ】第19話・ロボバリエンテ

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【総合案内所】・あらすじ・人物紹介・相関図
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19.ロボバリエンテ

地下駐車場はすっかり静まり返り、カルム国は最も更けた夜の時間帯に突入した。ラスが消えていった方向には、ギラギラとした都会の明かりが薄汚れた白のスロープを照らしていた。その光景をまじまじと見つめカザマは口を開いた。
「行っちゃったよ、あの人。なんだグティ、あの緑眼と知り合いなのか?」
「うんまぁ。てか、僕らが一年の時に五年生だった先輩だよ」
グティはそう答えると、雨で湿った空気の方へ足を進め始めた。ふと、先ほど自分たちがいたドアの方を見つめてみる。
「カザマ、あれ!」
グティがおどおどと指をさした先には、ドアの隣に並ぶ白壁の中に紅一点、血塗られた壁があった。
「おいおい、誰の血だよ?!」
カザマは驚いてその光景を凝視する。するとグティは、急に何かを悟ったように落ちついた声色で話し始めた。
「場面的に考えても、アレグロのって考えた方が自然だ」
「何言ってんだよ、アレグロがさっきのガスマスク野郎に殺されたって言うのかよ!」
カザマはグティの胸ぐらを勢いよく掴み、顔を近づけた。
「そうだ。僕らは正義屋を目指す以上、こういう事は仕方ないんだよ。別に初めてじゃないだろ」
「どうしたんだよ、グティ。急に薄情になったな。以前のお前はそんなんじゃなかった。イーダンの時だってナタリーの時だって、お前はずっと現実を受け入れようとしなかった。仲間の生存への希望を、最後まで捨てなかった」
カザマの目は怒りで赤く血走っていた。グティはカザマの腕を振り払い、冷たい目をして言う。
「現実を受けれるなって言うのかよ。いつまでガキのつもりだ? いい加減、総合分校は卒業したらどうだ?」
その言葉に感情はなく、まるでロボットが言葉を並べているようだった。そんなグティに殴り掛かりたい気持ちを抑え、カザマは少し声のトーンを下げて問うてみることにした。
「おいおい、どうしちゃったんだよ。この短時間でお前の中で何があったんだい?」
「別に… 何もないよ」
グティはサングラス男との会話を思い出した。自分の母親はもうこの世にいないのかもしれない。そう思うと何もかもどうでもよくなって、自分の正義さえも投げ捨てそうになっている自分がいた。俯瞰して自分を見ているうちに、気づいたらカザマに『当時の出来事』を語っていた。すると胸の奥の重たい塊が溶けて行く感覚とともに、少しずつ体が楽になっていた。
「そんなことがあったのか。話してくれてありがとう。じゃあ、行くか」
「ん? どこへ?」
突然のカザマの誘いにグティは首をかしげる。カザマは土砂降りの夜空を指差し、
「お前の『正義』を全うしにさ!」
と言うと、勢いよく外へ飛び出して行った。

「こちら、首都正義屋部隊のハルタです。現在約30機のロボバリエンテで、一連の事件の凶悪犯の乗った車を上空から捜索しています。車の詳しい情報などをお伝え願います。どうぞ」
デパート沿いの道路は大都市という事もあり、かなり広く入り組んでいる。そんな夜の街中を見上げると、大粒のしずくとカルム国の誇るロボバリエンテという戦闘機が空に居座っていた。ロボバリエンテ戦闘機はアンノーン星の国々の中でも珍しい羽根のない飛行機で、その容姿は全長約30メートルのペンのような見た目をしている。基本的に二人乗りだ。機体の先に鋭い銃口が付いており、前の操縦席から大量の弾丸を放つ。後ろの操縦席は戦闘機の舵取りが主な役割だ。ロボバリエンテの攻撃方法は発砲とは別に、羽根のない硬い機体を体当たりさせ敵の機体などを破壊することもある。この時中身はびくともしない。そのために後ろの操縦席に座る者は機体の全身に散りばめられたジェット噴射を上手く使いこなし操縦しなければならない。風圧を調節しつつ全方向からジェット噴射をすると、空中に留まることもできてしまう。
「こちら、本部。ちょうど今、接敵した隊員によって凶悪犯の車の特徴が伝えられた。車の特徴はホーク国産のエンブレムが付いている全身黒い車だ。急いで見つけ、確認が取れたら躊躇はするな。一斉に叩きのめせ!」
上空に浮かぶ30機のロボバリエンテは一斉に散らばり、散策を始めた。

「ボス! まずい、正義屋が本格的に動き始めた」
戦闘機を目にしたガスマスク男は、携帯電話越しに声を震わせた。すると電話の向こうから何やら黒い声が聞こえてきた。
「想定済みだ。あのサングラスがやられることも何となくわかっていたさ。こっちも全力は尽くすが、悪いけどお前の安全は保証できない。それはわかっていて欲しい。」
「…そんなこと今に分かったことじゃねぇ。俺はお前の国のためじゃなく、俺の正義のために戦っているんだ」
ガスマスク男は相手の男にそんな言葉をぶつけたが、携帯を見ると既に通話は終了していた。
「ふざけやがって…」
そうガスマスク男が吐き捨てると、
ドーーーン
という激しい爆音が鳴り響き、町中の明かりが消えた。
「始まったか」
ガスマスク男は自分の車のライトを消した。その直後、街にあふれ返った全ての車のライトも消え、辺り一帯は本当の暗闇へと変貌した。今宵、カルム国の首都であるカタルシスは史上最大級の恐怖と混乱の黒い世界に飲み込まれた。

   To be continued…   第20話・標的
 黒い世界に飲み込まれた街、カタルシス。その先に光はあるのか…2022年9月11日(日)午後9時投稿予定! 驚きの第20話をお楽しみに!!

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