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連載小説【正義屋グティ】   第14話・4年ぶり

14.四年ぶり

「きゃーーー!」
「ママ、どこいったの?!」
「ねぇ、どうなってるの?なんでヒーローXは助けに来ないの?」
五階のフロアでは、先ほどまで大人しく座席に腰かけていた子供たちが、気が狂ったかのように暴れだしている。ただひたすらに泣き叫び続けている女の子に、別フロアで買い物をしている母親を探し出そうと走り出す少年、極めつけにはヒーローショーのド派手な演出だと信じ込み拳を天高く突き上げている者まで現れた。
「とりあえず、カザマ達のいるステージ付近に向かおう」
パターソンは緊張感に満ちたキリっとした顔でグティに指示を出し、二人はとっさにエスカレータホールに背を向け、カザマ達のいる方向へと勢いよく走り始めた。
「おーい!みんなー」
グティが大声で手を振るとカザマ達は二人に気づき、手に持っていたペンライトを乱暴に放り投げ、一つの観覧座席を囲むような形で集合した。
「一体、何があったんだよ!」
ガタイの良いデンたんは、子供のように辺りを見回すそぶりを見せる。
「そんなこと知るかよ!てかなんでこのフロアには大人が全然いねぇんだよ?」
「カザマ、たぶんだけど、さっきの爆発で下のフロアから5階に上る手段が途絶えたんだよ。6階からのフロアは夕方で閉鎖されるみたいだし」
パターソンは荒い息を交えながら、途切れ途切れに自分の推測を説明した。
その直後、先ほどまでグティ達がいたエスカレーターホールのシャッターが ブーブー と鳴き声をあげながらゆっくりと下がり始めた。
「まずいよ。どうするの、パターソン?」
チュイはシャッターの奥の景色が少しずつ白色の塗料に侵された鉄に変わっていく様を眺めながら、パターソンに主導権を投げつけた。
「とにかく、全員行くのは危険だから、僕とグリルで行くよ。グリル、急ぐよ!」
「おう!遅刻魔の脚力、ナメんなよ!」
いつもならグリルのつまらないボケに一人くらいは付き合ってあげるところだが、今はグティも他の三人も無反応で、ただ二人が小さくなっていくのを固唾をのんで見守った。

「パターソン!あとちょっと!早く来て!」
パターソンは先についたグリルに手を引っ張られ、何とかギリギリの所でエスカレーターホールへと移動できた。これにより今五階の閉鎖されたフロアには、正義屋養成所生のグティ、カザマ、デンたん、チュイと数名の大人に、100人を軽く超える小さな子供達が閉じ込められることになってしまった。

「皆さんー!落ち着いて下さい。すぐに助けが来るはずですから」
奥の方から青いコートを羽織ったスタッフらしきの男性が声を上げた。だが、その男にはこの混沌とした状況を打破することはできなかった。
「あの人の言うとおりだ。僕らも協力して呼びかけをしよう」
危機感を覚えたチュイは、グティの肩を軽くたたくとスタッフのもとに走り出した。その瞬間 バンッ と聞きたくない音がグティ達の耳に届いてしまった。その音は、明かに拳銃から発せられたものだった。
「たす…け…て」
その餌食となったのは、ついさっきまで威勢よくアナウンスを行っていたスタッフだった。スタッフの男性は右足から生々しい血を流し、滑らかな石のタイルに横たわっていた。
「大丈夫ですか?!」
その場から子供たちが離れていく中、チュイだけはスタッフの元に寄り添った。
「意識がない。グティ!みんな!応援を頼む!」
チュイの懸命な叫びは小さな子供たちの悲鳴によって完璧にシャットアウトされ、すぐ傍にいたある人物を除き、誰にも届くことはなかった。
「ほぉ、少年。さっき『グティ』って言ったかな?」
「あなたは…誰?」
チュイに突然声をかけたのは、黒いスーツに赤いサングラスを付けた『いかにも』という感じの屈強な男だった。
「俺は、さっきこのおっさんを撃ち殺した悪~いお兄さんだよ」
「まだ彼は死んでいません!冗談を言っている暇があったら、救命活動にご協力を…」
バンッ
まだチュイがスタッフの男性を見つめながら語っているときに、サングラス男はあろうことか、ハンドガンを片手に握りしめスタッフの男性の頭に向けて引き金を引いた。
「冗談ねえ。俺からしたら、四年前にデパートの屋上から落とした少年の名前を君が呼んでいることの方が、よっぽど冗談に聞こえるけどね」
嘘だろ…。チュイは昨年の事件の後にパターソンから聞いた話を思い出し、背筋が凍った。そしてついには、地蔵のようにその場に固まってしまった。
「君には、少し着火剤になってもらう必要があるかもしれない」
すると、サングラス男はチュイの右腕に向けて一発、弾丸を打ち込んだ。
「うああああああ」
チュイの右腕から噴き出した血液で、鮮やかな紺碧の洋服がたちまち真っ赤に染まっていった。
「お、おい!見ろよあれ!」
その異変にようやく気付いたカザマが、叫び声を上げるとともに、グティ達に惨状の先を指し示した。
「あいつは…」
グティは唖然とした。四年前、当時の自分からすべてを奪い、心をえぐり、嘲笑ったあのサングラスの男だ。あいつとこんなにも早くに再会なんて、夢にも思っていなかった。右腕をぶらぶらとさせたチュイを見ているうちに、当時の感情が蘇ってきた。恐怖や悲しみといった感傷は一切なく、あるのは煮えたぎる憎悪だけだった。

   To be conteniud...   第15話・溶暗
 悪魔の再来。グティ達はどうする... 2022年7月17日(日)午後8時投稿予定!
        お楽しみに!!


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