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箱詰めの記憶

マイア×アリス。魔女との戦いの後も悪夢に苦しめられるアリスと彼女を本当の意味で救うことは出来ないと思い知らされるマイア。結構思い切りネタバレかつプレイしていないと意味が分からないかと思います。
※多少出だしがグロいかもしれません。


『手足ガナイ…目ガ見エナイ…何モ聞コエナイ…。汚水ニ浸サレテ、既ニ身体ガ腐ッテイル…。』
『身体ノ中ヲ、蟲ガ這イズリ回ッテイル…。頭蓋ヲ小突カレル、四肢ガバラケテイク…。』

アリスは中空に吊るされたまま、眼下に広がる地獄を見下ろしていた。見えない糸で身体を縛られているようで、目を覆うことも耳を塞ぐことも許されない。

『熱イ!痛イ!怖イ!痒イ!気持チ悪イ!死ニタクナイ!モウ死ニタイ!』

人の形を失った肉塊の山から声が聞こえる。早く死ねた者は幸運だったかもしれない。捕虜の身に落ちた者は敵兵たちの手で肉や臓器を削ぎ落されたり、生き埋めにされたまま髪の毛を炙られたり、筆舌に尽くしがたい拷問を受けていた。
廃墟と化した屋敷の中から黒髪を長く伸ばした男がよろめきながら出てきた。右手と左腕の肩から下を失っている。2,3歩歩いたところで糸の切れた操り人形のようにドスンと倒れた。左脚はあり得ない方向に曲がり、右脚はほぼ外れてしまっていたのだ。男は傷だらけになった美しい顔に憎悪を滲ませ、鋭い目でアリスを睨みつける。

『全テヲ忘レ仇国ノ味方ニ付イタ裏切者ノ王女。オ前モ同罪。ソノ者タチトトモニ、焼ケ死ネ……!』

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「アリス、アリス……!」
「っ……。」

身体を揺さぶられる感覚と、切羽詰まったような呼び声にアリスは目を開ける。またやってしまった。あの戦いを終えてからずっとこの調子だ。胸の動悸が早くなり、頬が濡れているのに気が付く。

「マイア……。ごめんなさい。また起こしてしまって。」
「いいよいいよ、気にしないで。」

そう言うとマイアはアリスをしっかりと抱きしめた。旅を通じてマイアは強くなり体格がよくなった。背も伸びてきた。すっぽりと包まれる感触にアリスは安堵する。

「またあの怖い夢を見たの?」
「えっと……ええ、そうよ。やっぱりどうしても忘れられないみたい。」

いつかマイアに打ち明けた夢の話。暗く冷たい箱に閉じ込められ、孤独に耐え続けた頃の記憶。
だが、いま本当に苦しめられている夢のことは伝えていない。アンフェルの王女でありながら、しかもどれほど民が苦しんだかを理解していながら。あろうことか敵国クラルテの人間に手を貸し、再び滅びをもたらした。
過酷ながらも仲間とともに駆け抜けた旅路を少しでも後悔しているだなんて。そんなことを言えるわけがなかった。

「そういえばさ、アリスも少しだけ大きくなったよね。」
「そうかな…?」
「うん。顔も大人っぽくなってきてるし。成長が始まったのかもしれないね。」

アリスは母である王妃シルヴィアにより成長が遅くなる魔法をかけられていた。彼女の死によりその効果が弱まったのかもしれない。

「このままずっと幼い姿なのかと思ってた。マイアと一緒に大人になれるなら嬉しい。」
「やっぱり気にしてたんだ?」
「周りのみんなが変わっていくのに私だけ時間が止まったまま。思った以上に辛いものなのよ。」

アリスがエスパスヴェルに来てから12年以上が過ぎた。まだまだ小さなままの手足、膨らみの乏しい胸。
確かにマイアの言う通り成長は始まった。しかし、姉妹のように育ったベロニカがみるみる女性らしい肢体になっていくものだから、それと比較してアリスが寂しく思うのも無理はなかった。
俯いていると胸とお尻に暖かな感触があり、アリスは驚いて顔を上げる。すると視界ににへらとしたマイアの顔が大映しになった。

「この辺りもぷくっとしてきたもんねぇ。」
「!? ちょっと、どこ触ってるのよマイアのばか!」

次の瞬間、パチンという音と同時にマイアの頬には見事なもみじマークがついていた。ヒリヒリ痛む頬を抑えつつもマイアはご満悦のようだ。恋人の可愛い手で平手打ちされるなんて、彼女にとってはご褒美以外の何者でもない。

「ふへへ。こうしてアリスにぶってもらえるのも毎日添い寝できるのも凄い幸せなことなんだと思うよ。」
「もう、また変なこと言って…。」
「誰がなんと言おうとあたしにとってアリス達との出会いは宝物なの。」
「……。」

またこの人はとぼけた顔で心を読んだかのようなことを言う。返す言葉を探しあぐねるアリスの頭の下にマイアのほっそりとした腕が差し入れられる。

「今夜のアリス、甘えたいみたいだからさ。特別に腕枕してあげるね!」
「…マイアの腕じゃ細すぎて枕にならないと思うけど。」
「そうだけど、恋人っぽい雰囲気は出せるでしょ。」

暖かくてすべすべの腕。枕の機能を果たしているかは別として、彼女の身体はどこもかしこも心地よかった。いつしか恐怖も薄れ、眠気が押し寄せてきた。

「お休み、マイア…。」
「うん、お休み。」

その日はとても幸せな夢を見られた。

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(良かった…ちゃんと眠れたね…。)

現の世界に残されたマイアはアリスの穏やかな寝顔を見詰める。
一緒に暮らすようになって、恋人…いや配偶者同然となってそれなりに経つけれど、アリスはまだ何かを隠していた。打ち明けられないまま一人で抱え込んでいる。

(せめて半分だけでも背負ってあげたいのに…。)

それができないことくらいマイアにも分かる。心に巣食う闇は本人だけのもので、他人がすべてを理解するなんて不可能なのだ。

(分かってるけど…でも……。)

どんな夢を見ているのだろう。腕の中でうっとりと頬を染めて眠る恋人を見詰めマイアは思う。この笑顔を奪おうとする全てから、自分が彼女を守るのだと。

END

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