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37.娘への愛③

『じゃあ また・・・。』

その言葉しかお互いに 
思いつかなくて
とにかく その日は帰ることにした。

娘からは連絡はない。

次の日の朝 電話で

『部屋を見に行ってきてよ』
『俺も朝から治療に入るから 無理だよ』

そんなやりとり。
娘と連絡がつかず
心配の中 仕事に行くことにする。

静かな数日が過ぎた。


電話が鳴る。

あまりかかってこない時間に 
主人から電話。


”こんな時間に?”


まず 主人の様態を心配した。
嫌な予感の中 電話にでる。


『いたよ!いたよ!!!〇〇(娘の名前)がいたよ!!!
電話変わるから 話せよ!!』

主人の興奮した声が聞こえた。

娘の声が聞こえてきた。
涙が自然とあふれる。
『よかった!よかった!話せてよかった!!』
無事でまた話せたことが 
どんなに嬉しかったか。

主人は 
『行けないよ』
と 私には 言っていたのに


毎日 毎日
時間をみつけて
部屋を見に行っていたのだった。


主人が 一人で 娘の部屋を
見上げているところを想像した。

真冬に
抗がん剤の投与を 
受けている中で
タクシーに乗り 
毎日 どれくらい 
娘の部屋の前で待っていたのだろう。



“見に行ってる”
ということを 
私に言うのを格好悪く感じたのか?
そんなことは しらん。
言えばいいのに・・・。
変なところ格好つけるよねと思った。

娘は 何かがあったわけでもなかった。
ただ 主人と私と関わりたくなかったらしい。

会ったり 話したりすると
今 ある現実が 本当だと認識しなければならなくなるから
と言っていた。

この際 良い悪いは 別にする。

これ言われたら 怒る気力なんて
失せて 無事でいてくれたことに感謝しかなかった。

まだ19歳
キャパ以上の現実を受け止めて
生活するには
いろんなところに無理がいったのだと思う。


娘を責められますか?


何も助けてあげることができない。
何か変えることもできない。
代わってあげることもできない。
娘自身が 消化していくしかなくて
もがいている最中だとしたら?

どんな言葉をかけたら 
いいのだろうと
考えても

ただ 
『無事でよかった』
としか言葉がでなかった。
思いつかなかった。

ごめんなさい。
親でも、大人でも 私もキャパオーバーでした。

もっと 頭の良い人だったら?
なにか うまい言葉が伝えられていたのかな・・・。

『あなたまで 何かあったら!』
という言葉が 
思わず口に出そうになったけど
言わない冷静さは 
ギリギリ残っていたようだ。




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