母のそばで♡おちゃめ篇
95歳で旅立った母はかなりおちゃめだった。
肺ガンの末期で苦しいこともあったけど、かなり笑わせてくれた。
人生に笑いは必要!
私も笑って生きていきたい。
握力強し
母が静かに眠っている。
起こさないように、そっとベッドのふちに座って手を握る。
昔は大きかった手が、細く小さくなっている。
そっと、そっと手の甲や細い腕をさする。
ずいぶん年をとったなぁ・・・。
感慨にふけっていると!!
ギュッ!と握り返され、飛び上がるくらいビックリした!!!
「なに?起きてるの?」
母は目を開け、フフッと笑う。
「握力、強いね」と言うと「昔は30あったよ!!」。
勝利宣言のように高らかに言う。
握力30って女性ではかなり強いと思う。私は23くらいあったかな?
驚かせるなあ!笑わせるなあ!
すっくと立つ
孫がケーキを持って母に会いに来た。
母はベッドに静かに横たわり、目をつむっている。
孫は心配そうに覗き、声をかける。
「ばあちゃーん、具合はどう?」
「また会いに来るときも元気にしててね!」
話しながら涙が出ている様子。
母も手を取り合って一緒に泣いている。
いつどうなるか、わからないからなあ!
2人でしみじみしている。
その様子を私の妹がウルウルしながら見ていた。
そこに「ケーキあるからみんなで食べよう!」と私がリビングから声をかけた。母は「はーい」と言ってすっくと立ちあがった。リビングまで一人で歩く、ケーキを食べに。
孫は「ばあちゃん、歩けるの!?」。涙も乾かない目をまんまるに見開いて心底驚いている。
その様子を見ていた妹が涙が出るほど笑って報告する。
驚かせるなあ! 笑わせるなあ!
ネコもビックリ!
ネコをリビングに入れる。
大きなあくびをして背を伸ばし、椅子に座っている母の横を歩いて行く。
母はネコの頭から体を撫でる。
そしてなぜか、長い尻尾をグッと握る。
ネコはビックリして母を見ると、振りほどくように逃げていく。
よくまあ、引っ掻かれないもんだ!
「お母さん、ダメよ。ビックリしてるじゃない!!」
母はネコと遊びたいのだろう。
母が子どもの頃は必ず家に猫が居た、という。
基本的に動物が好きみたい。
でも、嫌がることはしないでネ。
名誉の負傷
母の調子が良いので、久しぶりに外食に出た。
母の好きなレストランに行くことにする。
久しぶりに妹が泊まりに来た晩に。
少しばかりおしゃれして外に出る、酸素ボンベのキャリーバッグを引いて。
着席したら、まずは飲み物注文。
私は運転するからウーロン茶、他の人はビール。
「お母さんは何にする?」「ビール!」
生ビールは大・中・小ジョッキがある。
「小、かな?」「中!!」
おぉ! 妹と顔を見合わせて笑った。
すごいな。
好きなものを注文して、どんどん食べた。
病気はどこかに飛んで行ったに違いない、と思わせる食べっぷりだ。
楽しいひと時を過ごして、お会計。
「お母さんに出させて!!」といってきかない。
甘えることにする。ありがとう♡ごちそうさまでした♡
家に帰りついた。
夫は一足先に車を降りて門やカギを開けてみんながスムーズに入れるようにしている。妹は母のキャリーを押している。私は車のドアを閉めている。母は行きも普通に歩いたから何も考えていなかった。
妹の叫び声がした!!母が倒れている!!
みんなで助け起こすと、頭から血が出ている、大変だ!!
ベッドに運んで怪我の手当てをしながら、訪問看護師さんに連絡した。
すぐに来てくれて、「念のために病院に行きましょう」と言う。運よくその日の当直は母の担当医だ。
母は「ごめんね、心配かけて」としっかりしている。具合が悪くて倒れたわけではなさそうだ。
病院で事の顛末を説明。念のためにCT検査をしたけど、異常なし。骨も異常なし、でひとまずホッとした。
先生は外食に出た、その意欲をホメてくださった。
「美味しかったんですね」「楽しかったんですね」とやさしい笑顔だ。
帰ってから私は母にひたすら謝った。
「ごめんなさい(涙)、気配りが足りなかった。一人で歩かないで、待ってて、と言えば良かったんだ。痛い思いをさせてごめん!!」
母は痛くて顔をしかめながらも「お母さんがドジだから悪いとよ」と健気だ。
おでこの恐ろしいほど大きなこぶは、先生が言った通りに移動していった。
翌日はまぶたが腫れ、その次の日は目の下が膨らんだ。溜まった血が下がっていくらしい。徐々に小さくなって、色も変わって、もとに戻るという。
母は毎朝、洗面所で顔をチェック。
驚く風でもなく「ねえ、人間の顔じゃないよ」「今日は少し人間に近づいた」などと平気な風で言う。
その度胸というか、開き直りというか、見上げたものだと思う。傷パットを張り替える時に少し痛そうに顔をしかめたが、それだけだ。
この出来事は、思い出の笑い話となった。
お母さん、生きてるね!?
朝、そろそろ起こそうかと母のそばに行く。ベッドのふちにそっと座って母を見る。気配を感じたのか、母は目を開けた。
私の顔を見て、驚いている!!
何? どうした?
「お母さん、生きてるね!?」と驚いたように言う。その言葉にこっちが驚く。「怖い夢でも見た?」と聞いても「う・・・ん・・・」と不思議そうに周りを見回している。「あ・・・生きてる・・・」。
「やだ、しっかり生きてるよ。それより、ごはん食べようよ」と私は笑ったが、本当は笑えない話かもしれない。母は毎日を「今日が最後かもしれない」「明日は無いかもしれない」と覚悟して生きていたのだろうか。
「明日死ぬかもしれない」と思って生きたら後悔しない生き方ができる、と本で読んだことがある。そうねえ、そうかもしれない。しかし頭では理解できても実践は難しい。
しかし、世のなかの様々なできごとを聞くにつけ、ある程度はそのような覚悟を持った方が良いのかもしれない、と思う。母がそれを実践していたとしたらスゴイことだ。
母の言葉を「おちゃめだな」と思ったけど、母の哲学だったかもしれない。
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