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【読書感想】柳瀬一樹『宣伝は差異が全て』弱者であると自覚せよ #邪神ちゃんマーケティング

『宣伝は差異が全て  邪神ちゃんドロップキックからマーケティングを学ぶ』柳瀬一樹、太田出版、2024年9月12日発行

神保町 書泉グランデで他の覇権IPと共に購入

目次

頭のいい人が書いたと分かる目次
チャプター分けが細かく
分かりやすい構成も特徴
目次を見るだけでも
普通じゃないことが書いてあり面白いです
声優さんから社会学者まで、幅広い寄稿コラム


アニメ宣伝でマーケティングを語る珍しい本

宣伝は差異が全て』は、TVアニメの宣伝プロデューサーが書いたマーケティング本です。世の中にはアニメ関連書籍は山ほど出版されています。しかし、宣伝/マーケティングについて書かれた本はあまりありません。

この本では、アニメオタクは知ってるがそれ以外の人の知名度ゼロの、比較的マイナーなギャグマンガ原作アニメの宣伝担当に、ノウハウ無しでなってしまった著者による、7年以上の試行錯誤。そして、東大の大学院に入るほど猛勉強をして得た知見が書かれています。

現在、新作TVアニメは年に300作品以上が放送/配信されています。

特に、深夜アニメが一般的になって以降は、コナンやポケモンといった最上位作品を除くと、1クール12話前後で完結、そのまま忘れられる。もしくは、作品数がありすぎて、そもそも誰も話題にしないまま消える。という作品が大半になりました。

そんな戦国時代の中、著者が宣伝を担当したアニメ『邪神ちゃんドロップキック』は、「ドタバタギャグまんが」。例えば『オバケのQ太郎』(1965-67)のような、TVアニメ初期からある古いジャンル。流行りのジャンルでは全くありません。

異世界転生しない。少年ジャンプ原作でもない。5人の花嫁候補もいない。メインキャストに有名声優がいない(2018年当時)など、ないない尽くし。

それにもかかわらず、2018年から現在(2024年)まで、新作が継続して作られ、謎のイベントも各地で開催。ファンの人数が着実に増え続けている、という持続可能性を見せつけています。

一見ふざけまくっている

その宣伝ノウハウと哲学を一言でまとめたのがタイトル『宣伝は差異が全て』になります。

無数に存在するアニメの大海の中で普通の宣伝をすると、予算を多く持っている大手作品(強者)が勝つ。

ならばまず、自らを弱者であると認識し、他がやっていないことをすぐやるべき。というのがこの本の主張です。

本の中で紹介されている、他がやっていない宣伝を抜粋するだけで大変面白いです。

・YouTube違法動画より早く切り抜きをアップ
・違法アップロードの合法化
・製作委員会のWEB会議(業務)を配信
・二次創作の推奨と人材の登用
・MAD動画コンテスト
・プロレスの試合で生アフレコ
・ファンをATMと呼ぶ(原作再現)
・競馬のレース名で各話タイトルを発表
・メルカリに転売ヤーより安く出品
・アニメに出ない錦糸町を聖地化する

全てふざけているように見えますが、このような「差異」は誰もやったことがないので話題性があり、何度もバズり、ニュース記事にも取り上げられました。

そう思えば私も、『邪神ちゃん』よりも好きなアニメ作品は沢山ありますが、いつも何か面白いことを言っている公式Twitterを、いつからか無意識のうちにフォローしていました。一番好きな『ガンダム』の公式Twitterはフォローしてないのに、です。


「漂白される社会」で、やりたいことを続ける

この本はマーケティング本として売られていますが、中盤のコラムでは、著者の先生である社会学者の開沼博なども登場。後半になるにつれ、著者のメッセージが明らかになっていきます。

単に、とにかくバズれ!と煽る炎上マーケティング本ではなく、例えば、社会学者の宮台真司が言うところの「荒廃したクソ社会を仲間と楽しく生きろ」とでもいうような、社会学の本になっていく。という凄い構成です。

私は、巻末掲載のニッポン放送の名物アナウンサー 吉田尚記さんとの対談における、以下のメッセージが好きです。

読者と共有したいゴール

吉田:(中略)柳瀬さんが「ずっと邪神ちゃんを続ける」というチャレンジを通して読者に届けたいメッセージは「やりたいことを続けられるようになろう」ですよね。

柳瀬:そうです。やりたいことを仕事にしようではないです。そこに至るためのステップ論です。

243ページ

このメッセージは、最近話題の本。坂口恭平『継続するコツ』(2022、祥伝社)。『生きのびるための事務』(漫画:道草晴子、2024、マガジンハウス)とも、共通する部分があります。

全く違う立場の著者が、似たメッセージに辿り着いていることに、何かシンクロニシティを感じました。

宣伝は差異が全て』は、宣伝を勉強したい人はもちろんですが、自分の人生を少しでも豊かにしたい方、万人にお勧めの良い本です。

本の宣伝も凄かった

ちなみにこの本の宣伝自体も、タイトルを体現して面白かったので少し紹介します。

無断転載キャンペーン』という、9月中に限定して、Twitterに全ページ写真撮って掲載OK!という大技を繰り出しました。↓

キャンペーン自体は9月で終わりですが、
Twitterで 
#邪神ちゃんマーケティング
で検索すれば、多くのページを立ち読みできます。

読むとたぶん買いたくなります。

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