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おじいちゃんの唐揚げ

今回の僕の仮面は人気芸人のなんとかさんに似ているらしい。
町に出てすぐに何人かの若者に声をかけられた。
衣裳部屋の仮面は博士が用意してくれている、はずだけど、
博士はわかっているのだろうか。目立ってしょうがない。

博士は時々、ちょっとしたポカをする。
致命傷になるようなことは勿論ない。
おじいちゃんおばあちゃんの日常生活をほんの少し楽にしてあげようといつも考えて、素敵なものを作るけれど、
時々、ほんの少し首を傾げたくなることがある。

それでも、評判を気にするくらいには自覚があるらしいから、僕もあまり気にしないように努力している。

でも、今回の商品「素敵な箸」はちょっと不安な気がする。足が重い。

博士曰く、
「この箸を必要としているおばあちゃんは歯が弱って固いものが食べられなくなって寂しい思いをしています。でも、この箸で食べ物と認識したものを摘まむと、柔らかく食べることができます」

僕はいつもそうだけど、博士の優しさに、まず感激してしまう。
「その箸があったらおばあちゃんはどんなに喜ぶだろう」とワクワクした。

いそいそと出かけてきたものの、
ふと、僕は気づいてしまった。博士の言葉に迷いがあったのではないかと。
「食べ物と認識したものって?」

僕は公園のベンチに座ったままに、考え込んでしまった。

そのうち、コンビニの袋をもったおじいちゃんがベンチの反対側に座った。
その姿を見た途端、僕はあらぬことを考えてしまった。
足元に転がっている手ごろな石を拾って、リュックから素敵な箸を取り出して、おじいちゃんに話しかけた。
「おじいちゃん、この石をこの箸でつまめますか」
「お、ゲームかい?」
突然の問いかけなのに、おじいちゃんは笑いながら付き合ってくれた。
僕に言われるままに、器用に親指ほどの小石をつまんで見せた。
「うまいですね。どうですか? 固いですか?」
「そりゃ、石ころだからな」
そうでした。
おじいちゃんなら、同じ効果があるかなと考えたけれど、食べ物と認識しないと柔らかくはならないんだった。

「ありがとうございます」
「これはどういうゲームなんだ?」
「この箸で石をつまめるかどうかっていうゲームです」「そうか」

おじいちゃんは手に持っていた袋から小さなコンビニ弁当を出してその箸で食べ始めた。
「あ」
返してください、と言えないままに食べ終わるのを待つことにした。

二人が並んで座っているベンチの前を子供が自転車に乗って通り過ぎた時に、小石が跳ねておじいちゃんのお弁当の中の唐揚げの隣に見事に入った。
僕はその石ころの行方を見ていたけれど、おじいちゃんは気づいていなかったと思う。

親指ほどの石ころは、無理すれば小ぶりの唐揚げに見えなくもないかもしれないけれど、
なんということか。
おじいちゃんはその石ころをあの素敵な箸でつまみ、ヒョイと口の中に入れて、そのままもぐもぐと食べてしまった。

僕はおじいちゃんの一連のしぐさをただ目で追うだけで、止めることも出来なかった。

「お、美味しいですか」
思わず、聞いてしまったけれど、
おじいちゃんはニコニコと
「石ころかと思ったら、乙な味の唐揚げじゃった」
「あ、えっ」

やっぱり、これはまずい気がする。


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