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生きていく悲しみ

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生きるのって、悲しみを孕んでいるように思うんですね。 そりゃ嬉しいことの方が、僕は多いのだけれど、あまりに苦しい生き方をしている人が、なんと多いことか。 映画は、そんな世界を切り…
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2021年5月の記事一覧

一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(36)#秋刀魚の味/小津の遺作

一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(36)#秋刀魚の味/小津の遺作

【映画のプロット】
▶︎平山家
工場の煙、たなびく。平山周平(笠智衆)の執務室。ドアが、ノックされる。
"はい。"
秘書が、書状を届ける。
"あ、後でいいからね、これ、常務さんの所へ、持ってっといて。"
"はい。"
"済まんね。"
"いいえ。"
"田口君、どうしたのかねえ。昨日も今日も、お休みだね。"
"何ですか、あの人、結婚するんだとか。"
"ほお、じゃあよすのかい?"
"さあ?"
"それは、お

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一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(35)#小早川家の秋/受け継がれるもの

一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(35)#小早川家の秋/受け継がれるもの

【映画のプロット】
▶︎造り酒屋
けばけばしいネオンサイン。バーに、ホステスと男。
"偉い念入りに叩くやないか。ちょい、貸してみ。"
"これ?"
男は、コンパクトを受け取る。
"僕のこっちの目、細く見えへん?"
"さあ?いつもと変わりないけど。"
"偉いええの、買うてもうたな。"
"自分で買うたんよ。あ、来はった。"
"いらっしゃいませ。"
"ああ、どうも。"
"何や?君一人か?"
"もうすぐ、来

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一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(34)#秋日和/時の流れ

一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(34)#秋日和/時の流れ

【映画のプロット】
▶︎7回忌
青空に東京タワー。寺院で法要が営まれる。
"へえ、そうですか?そりゃあ、美味そうだな。"
"何?"
"ビフテキだよ。美味いうちなんだってさ。どこです?"
"上野の本牧亭ご存知ですか?あそこの横丁なんですがね、爺さんと婆さんとだけで、やってましてね。"
"そうですか?そりゃあ、一度行ってみましょう。松坂屋の裏のトンカツ屋には、よく行くんですがね。お前もな。"
"ああ、

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一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(33)#浮草/浮草物語のセルフリメイク

一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(33)#浮草/浮草物語のセルフリメイク

【映画のプロット】
▶︎旅の一座の到着
小さな港。白い灯台。港を出る小舟。蝉がうるさい。船着場の待合室。
"暑いのお。"
"やあ、こんちわ。"
"敵わんのお、こう暑うちゃ。"
"今度、何かかるんぞ?相生座。"
"これや、歌舞伎や。"
"ああ、チャンバラか。この前、かかったストリップは、面白かったのう。桃色の猿股履いた大きなケツの女のう。"
"今度のは、あんなもんや、あらへんで。大歌舞伎や。"
"そ

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一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(32)#お早う/テレビが来た

一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(32)#お早う/テレビが来た

【映画のプロット】
▶︎子どもの遊び
土手の下に並ぶ平家群。土手の上を、歌いながら中学生が歩く。
"おい、ちょいと、押してみな。"
実が、眉間を押させると、おならが出る。
"僕も。"
小学校低学年の勇が言う。勇に押させると、また放屁する。
"どうだい。"
実が、幸造の眉間を押すが、おならは出ない。
"ダメじゃないか。"
"おい、どうしたんだい?おいでよ。"
"どうしたんだい?来いよ。"
どうも

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一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(31)#彼岸花/嫁に行くこと

一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(31)#彼岸花/嫁に行くこと

【映画のプロット】
▶︎平山家
東京駅のホーム。婚礼衣装のカップルと家族たち。
駅員が話す。
"今日は、日がいいのかな?"
"何?"
"大安かなあ?新婚、随分、見るじゃないか。"
"でも、綺麗な嫁さんっていないもんだな。"
"お前、さっきの見たかい?15分の熱海行きの。"
"ああ、ぽっちゃりした。あれは、良かった。今日のうちじゃ、あれが一番だな。"
"うん。"
"これで、天気崩れるのかなあ?警報出

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一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(30)#東京暮色/母を探して

一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(30)#東京暮色/母を探して

【映画のプロット】
▶︎杉山家
東京の商店街。夜。杉山周吉(笠智衆)は、飲み屋に寄る。
"まあ、お珍しい。いらっしゃい。"
"やあ、暫くだね。"
"お寒くなりましたね。"
"ああ、冷えるね。"
"本地は、こちらの方へ?"
"ああ。時々ね。"
"今度の支店長さんも、皆さんと、時々いらしてくださいます。"
"そうかい。岡部君も好きだからね。"
"あ、ちょうど良かった。今日、国から、このわたが、届きまし

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一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(29)#早春/夫婦の愛

一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(29)#早春/夫婦の愛

【映画のプロット】
▶︎正二夫妻
東京の場末。遠くに工場の煙突。電車が、走る。
目覚ましのベルに、正二(池辺良)は、耳をふさぐ。隣に寝ている昌子(淡島千景)は、起きる。
"お早う。"
"お早うございます。"
"ゴミは来なくて、困るわね。"
"本当にねえ。"
"区役所、何してんだろう。"
たま子の家。
"ちょっと。今日、あんた、帰り、忘れないでよ。"
"何?"
"夕べ、そう言ったじゃありませんか。し

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一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(27)#お茶漬けの味/よく出来た寓話

一人勝手に回顧シリーズ#小津安二郎編(27)#お茶漬けの味/よく出来た寓話

【映画のプロット】
▶︎佐竹夫婦
佐竹妙子と姪の節子が、車に揺られ、東京の街を行く。
"だあれ、出てんの?その映画。"
"ジャン・マレー。とても素敵なんですって、叔母さまもどう?"
"今日は、嫌。"
"いらっしゃいよ。いいわよ。ねえ。"
"いいから、一人で行ってらっしゃい。"
"あ、のんちゃん。"
"どこ行くのかしら?のんちゃん。のんびり歩いているわ。"
"あの人、いつもああよ。のんちゃん、雲に乗

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