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意外と知られていないカナダの医療崩壊の事実(2)

さて、今日は前回の続きで、カナダの健康医療の2番目の問題点についてお話しします。

2.医療スタッフの不足

ほとんどの職種が不足している様ですが、ここでは主として①医師の不足、②看護師の不足について取り上げます

2-① 医師の不足


医師や看護師が不足しているのは、日本でも同じです。でも、カナダの方が深刻です。

カナダでは2018年の論文によると、人口1,000人に対する医師の数では、OECD の統計を見る上では、2.8人と日本(2.6)やアメリカ(2.6)とほぼ同じです。また、人口当たりの家庭医はアメリカとほぼ同じと言われていますが、専門医となるとアメリカの半分になります。

しかし、日本と大きく異なるのはクリニックの収入の入り方です。

日本の場合には、病院と同じで、診療報酬にそって出来高払いです。つまり、検査や診察、治療に応じて細かく点数が決まっています。それらを全て計算して医師へ支払う額が決まります。この制度では、重症な人ほど一般には診察や治療に時間もお金もかかるので、それだけクリニックの医師にも収入が入ることになります。大変ですけど、それに見合った収入があるということです。

ところが、カナダの場合には、公的なクリニックで働く医師が診察・治療した場合に、一人の患者に対し、30〜40カナダドル(日本円にして、3000〜4000円、1カナダドル=100円とした場合)が支払われるだけです。つまり、重症な人に多くの検査をしたとしても、多くの時間を費やして治療を行ったとしても、その大変さに応じた収益は得られないということです。

つまり、日本の開業医ほどは稼ぐことができないのです。ですから、家庭医になりたいと思う医師は少なく、万年家庭医が不足しているという状態が続いています。このために、出来高払い制に類似するシステムを取り入れた州もあるみたいですが、焼石に水の状態です。現在カナダでは約600万人の人が家庭医を持っていないと言われています。カナダの人口は約3,900万人ですから、人口の15%に該当します。

カナダでは、日本と異なり、どこのクリニックでも見てもらえるかというとそうではなく、家庭医を登録し、そこで見てもらうことが原則です。どうしても家庭医のない人のために、Walkin clinicという飛び込みで見てもらえる場所がありますが、そこは設備が十分ではなく、また、継続して同じ医師が見るわけではなく、適切な診療や治療が受けられるかどうかは疑問です。

この前ネットで見ていたら、バンクーバーのある男性は、自分の難病を見てもらうために、家庭医を探しており、もし、見つけてくれたら50万円報酬を支払うと、広告を出している人がいました。:

このように、医師が不足しているために、診察をしてもらえず、結局悪化してから、救急車でERに運ばれることになります。結局、この方がお金がかかってしまうので、州としてもなんとかしたいと解決策を探っている様ですが、なかなかいい対策が見つからない様です。

2-② 看護師の不足

同様に看護師も不足しています。ただ、看護師の数だけで見るとその深刻さはさほど伝わってきません。例えば、人口1000人あたりの看護師の数は、日本で12人カナダで10人と、カナダの方が少ないのですが、極端に少ないというわけではありません。

2018年の分析によると、カナダでは2030には約12万人の看護師が不足すると言われています。日本でも、2025年には6~27万人が不足すると言われていますから、日本の看護師不足も深刻な状態とも言えます「。

しかし、カナダの看護師の疲弊の状態は、日本よりもずっと深刻であると思われます。2022年の国の調査では、なんと94%の看護師がバーンアウトの症状を呈しているそうです。45%はかなり進行なバーンアウトだそうです。これは、COVID19の性だと思われるかもしれませんが、 約30%の看護師はCOVID19の前から重症の燃え尽き症候群だった様です。

このために、看護師は辞めていく人が多く、看護師という職業そのものから離れる人もかなりの割合でいることが懸念されています。また、労働条件の良い、アメリカへ移り住む人も多いです。カナダとアメリカでは労働のための行き来は自由にできます。

なぜ、このようにカナダの看護師の精神が病むのか。

それは、労働環境の悪さと、それに見合った給与が支払われない、つまり労働条件の悪さです。

労働環境では、長時間労働・強制残業、医療設備の不十分さ、受け持ち患者数の増加、患者からの暴力などによるものです。長時間労働・強制残業は、看護スタッフが不足することから起きています。欠員補充がなされないために、残された看護師の業務に負担が大きくなっているということです。

また、医療設備が乏しいために、患者のケアを安全に行えないということがあリマス。また、患者の方も長い間待たされたこともあり、ストレスが溜まっており、看護師へ言葉の暴力や身体的な暴力をふるうことが頻繁に起こるそうです。

これらから、看護師は自分が何か大きなミスをしてしまい、免許が停止になるのではないかとヒヤヒヤしながら働くのだそうです。

この様な過酷な労働環境に見合った給与がもらえるのか。カナダの看護師の給与は日本と比べるとかなり高額になります。カナダで看護師の社会的地位は元々かなり高く、他の一般の就労者よりも最低賃金がかなり高く設定されているからです。

調べてみると、時給が日本円で3,500円から5,000円ほどになっています。ですから、年俸にすると1,000万近くもらう人もかなりの割合でいると思います。もちろん税込みですが。日本の看護師よりもずっと賃金が高いです。

かと言って、日本は世界で一番給料が上がっていない国ですから、日本と比較するのはナンセンスです。カナダの中で見ていくことが必要です。他の職業がどんどん給与が上昇する中、看護師の給与の上昇の割合は方で上限が決められているために、さほど上がっていません。

つまり、仕事の大変さに比例して、給与が上がらない。強制残業で、ワーク&ライフバランスが保てない。そして、カナダで働かなくても、アメリカへ行けば、労働条件がかなり良く、給与ももっと上がる。であれば、独身の若い看護師はカナダに残る必要はないですよね。

家庭を持っている人でも、看護師を辞めてパートでもいいから、自分の生活を大切にしたいと思う人もたくさんいるそうです。もう看護師として働くことを断念してしまう人もいます。

ということで、離職する看護師が多く、カナダでは万年看護師不足が続くということになります。

根本的な解決は、看護師の労働環境と条件の改善なのです。

ではでは




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