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第九十三景

ついさっき、三浦しをんの「風が強く吹いている」を読み終えた。文庫版が売り出された当時は、書店でよく見かけたが、興味が湧かずにスルーしていた。最近、マッチングアプリでやりとりしている人が教えてくれたので、読んでみようと思い、Amazonで購入した。

漠然と駅伝の話ということは知っていたが、全くの素人が箱根駅伝を目指す話だとは知らなった。とはいっても陸上経験者は数人いた。話は天賦の才能をもっているが、高校時代に人間関係が上手くいかなかった走と高校時代のスパルタが原因で膝に故障を抱えているハイジを中心に進んでいく。ただ僕は、竹青荘(通称アオタケ)に住んでいる全員が主人公だと思った。

内容的にはほとんどファンタジーで、実際に競技をしている人からするとむむむ?と思われるような話だったのかもしれない。実際に素人が箱根で走るなんてと憤る走の高校時代の同級生が出てきた。遊び半分で箱根を目指すなんてとんでもないと、とにかく気に食わないという姿勢で突っかかっていた。

でもこの話の中で一貫して言っていたことは、自分の弱さを認めたうえで先に進もうよということだと思う。確かにリアリティがないと言われればそれまでだけど、小説にそんなことを求めていないのも確かだと思う。

長い距離を走ったことのない登場人物(王子というのだが)もいて、約一年で箱根駅伝を走れるまでの走力を身に付けることができるのかとか、途中で挫折するのではとも思ったけど、彼はしっかり走りきったのだ。自分が同じような環境に置かれたら、そう出来る自信がない。

今後の選手生命をなげうってでも、膝が壊れても走り切ったり、風邪を引いて、朦朧としながらも仲間のためにたすきを繋ぐ姿には心を打たれた。他人からやれと言われて、素直に出来ることだろうか?自分の意志がないとそこまでやりきることは出来ない。どんなに辛くても、仲間のためを思うことでそこまでの力を発揮出来るのだろうか?

そういった気持ちは久しく忘れていたことで、ちょっと心が震えた。いつも自分の中の自分には負けないようにしているけど、誰かのためにということが抜け落ちていたから、余計に震えた。

アオタケに住んでいるメンバーを羨ましく思った。出来れば僕も仲間に入れて欲しい。ときには近すぎると自分以外の存在が煩わしいと感じることもあるけれど、たまには誰かと喜びを分かち合うこともいいことだなあと、ちょっと思った。

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