【凡人が自伝を書いたら 90.唯一の道】
上司が下した決断、それは、
「ほぼ毎日、僕の店で営業に入る」というものだった。
傍目にみれば、これは「無意味なこと」に思われるのかもしれない。
それは半分正解だが、半分間違いである。
これはエリアマネジャー以上が使える「数字マジック」で、本来、自店他店問わず、「従業員が働いた分の人件費」は、「実際に働いたお店が負担」する。
店で働いている人の人件費は「営業部」が負担する。本部社員の人件費は「本部」が負担する。これが基本ルールである。
ただ、それは店長以下の人間に適用されるルールで、エリアマネジャー以上の人間は、「営業部」に属しているにも関わらず、人件費の負担は「本部」持ちだった。
給与体系が店長以下とは違い「年俸制」だったことも、何か関係あるのかもしれないが、詳しい事情は知らなかった。
ただ、それを悪用すると、営業部で人件費を負担せずに、売上だけを取るという「数字マジック」が可能になっていた。
極端に言えば、エリアマネジャーが1人で営業して売上をあげれば、それは人件費0円の「超高利益営業」になる。
もちろん、会社全体としては、人件費を払うことに違いはないので無意味である。ただ、営業部としては人件費が削減できる。そういうマジックだった。
僕は、そんなのは「その場凌ぎ」でしかないと思っていたので、気に食わないことだったが、全員とは言わないが、やっているエリアマネジャーは結構いた。
上司と他の店長の中で、どういうやりとりがあったのか、他店が具体的にどんな状況なのか、僕は知る由もなかったが、どうやら他店には改善の余地は無いと判断したようだ。(絶対そんなことはないはずだけれども。)
上司が僕の店に入りはじめる。「数字マジック」をやってでもなんとかするしかない。そうしたくなるような気持ちはわかったが、もちろん気に食わないことには間違いなかった。
「助走」
初めのうちはまだ良かった。
単に上司が「プラスワン」で店の営業に入るだけだったからだ。
おそらく、自分も営業に入ることで、店の回転を早め、お客の待ち時間を短縮することで、売上を上げようとしたのだろう。もしくはただ単に、いきなりスタッフを減らすことをためらっただけかもしれない。
ただ、当然のごとく今日の今日でいきなり売上が上がるわけがない。
それは、「人員不足で営業が全然回っていない店」でやることだ。うちはそうではない。一瞬、満席になり待ちが出ることはあるものの、そうでなければ、ほとんど待ち時間も無くスムーズな営業をできていた。
「くそ〜、やっぱ売上、上がらんかぁ。」
「おじさんひとり増えて、いきなり売上が上がるくらいなら、誰も苦労はしない。」(はいすいません。)
なんて思いながらも、その「もどかしい気持ち」を察していた。
「代替案」
「なんか、利益取る良い案ないんかなぁ〜。」
上司と2人でタバコをふかしながら、初めのうちは雑談程度に聞いていたが、どうやら、わりと「本気」で言っているようだ。
実は、僕には一つだけあった。
前々から、どこかのタイミング具申しようと狙っていたことであり、スタッフたちの間でもそれを期待する声が多かった内容。
「24時間営業を辞めること」である。
つづく
お金はエネルギーである。(うさんくさい)