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【凡人が自伝を書いたら 93.直談判】

「え〜、お前それ、ぜっったい喧嘩するやつや〜ん。」

上司は、非常に不安げな様子で、僕が上司のさらに上、「地区長」に電話することを渋っていた。


「大丈夫です。安心してください。あくまで質問ですからね、質問。」

「いやいや、それ一番危ないやつや〜ん。質問と言いながら、正論で詰めようとしてるパターンやろ?」(さすがは我が上司。)

「何言ってんスか笑、質問ですよ、質問。さっきの話じゃちょっと理由がよく分かりませんでしたからね。スタッフに説明しないといけないので、ちゃんと事情を理解しておきたいんです。」

「うーん、まぁ、それはそうやけども。いや、でもなんか嫌な予感しかせえへんのよなぁ〜。(不安)」


「いや、ホントに大丈夫ですから。質問ですから。聞くだけですから。」

上司は、納得がいかないのか、「ん〜〜」と唸っている。


「いや〜、でもお前、前科あるからなぁ〜。」

「ん?」

「お前、東京で前の社長と喧嘩して、千葉に飛ばされたんやろ〜?」

「ははっ、そんなこともありましたねぇ。知ってたんですか。」

「あったりまえやん!そんなん全員知っとるわ!」

「まあ、でも良いじゃないですか。別にそん時のエリアマネジャーも処分はされてないはずです。今もきちんと昇進してるでしょう?」

「いや、お前が飛ばされるや〜ん。。それがやばいって言うてんのよ。」

この上司は、どうやら自分が上から怒られるというより、僕が飛ばされることを危惧しているようだった。そう考えると、上司が何だかイケてる人に思えてきた。


何とか上司を説得し、「ほんまに質問だけやな?喧嘩は無しやで?」ということで話がついた。

ただ、上司はどうしても心配だったのだろう。電話は「スピーカーフォン」で、隣で上司も会話の内容を聞いているという、監視された状況で行われることになった。

「ったく、小さいこと言いやがって。電話で質問されたのが気に食わなくて、店長飛ばすなんて会社がありますかい。」

上司の心配が僕のためだとは分かりつつも、そんなことを思っていた。

なぜか緊張感の漂う事務所で、僕は地区長の携帯に電話をかけた。

「はい、〇〇です。」

「あ、初めまして。」

初めまして!!(目玉)

そう、実はコロナ禍の間に人事異動があり、地区長が新しく変わっていた。

通常なら、新任の地区長は、挨拶がてら店舗を回ることが通例となっていたが、当時コロナ禍であったため、それがはばかられており、着任時は簡単なメールでの挨拶のみになっていた。

直接話すのは初めてのことだった。

電話越しだが、初対面が「質問という名の抗議」という、サイテーの滑り出しであった。

あれこれ聞いたが、返答の方は、エリアマネジャーから聞いていた話と全く変わらなかった。結局、納得する返答は得られなかった。

目の前でエリアマネジャーが聞き耳を立てていることもあり、あまり深い話に突っ込むことはできなかった。物分かりがいい方ではないが、流石に上司の前で、さらにその上の上司と喧嘩するほど、頭は狂っていなかった。

ただ、その中でも僕の「俺は納得してねえぞ」感は十分に伝わったのか、地区長から、直接店で話をしたい。という申し出を受けた。

地区長の曰く、

「部下には納得した形で働いてほしい。」

「地区内の店舗を見ても、飛び抜けて好成績を収めている店を、現場・現物で見てみたかった。」

「西のエース、若手(ギリ)のエース、将来の幹部候補と言われながらも、反省文が多い、いろんな噂も聞く(社長と喧嘩)、評価も人によって違う。一体どんな人間なのか知りたかった。」

それらの理由からだった。

最後は若干の「ディスリ」にも聞こえたが、まあそこまで馬鹿にされているわけでも無かったので、「そうですか。」と聞き流しておいた。(単純)

何がともあれ、後日、僕の店で、僕と地区長の2人で話をすることが決まった。

電話が終わった後の、エリアマネジャーの、安堵と不安が入り混じったかのような、何ともいえない表情は今でも忘れられない。

「それは一体、どういう顔ですか?」

そう聞きたくもなったが、もとはといえば僕のせいなので、何だか怒られそうだからやめておいた。

つづく

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