くさかはる@五十音(ごじゅうおん)

創作家(小説家/塗り絵師/ハンドメイド作家)くさかはるの文字作品の展示場です。

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最近の記事

【みじかい小説No.14】セイタカアワダチソウの思い出

「セイタカアワダチソウって、知ってる? 土手とかに生えててね、背が高くてね、てっぺんに黄色い花をたくさんつけるんだよ」 僕が皿を洗っていると、キッカがそんなことを言い出した。 「へぇ、知らなかった」 本当に知らなかったので、僕はその通りに答える。 会話はそこで終了、僕は引き続き無言で皿を洗い始める。 僕らの間にそれ以上の会話は生まれない。 それは僕らがこれ以上の関係を望んでいないから、なのだろうか。 僕とキッカは、二人とも同じ雑貨屋でアルバイトをしている。 半年前にどちらか

    • 【みじかい小説No.13】北風と太陽のコートの死

      「ねぇねぇ、北風と太陽のさ、上着っていうか、コートがあるじゃない?  俺はユウコにとってのコートになりたいんだよ。」 昨夜の寝入りばな、シンジはそんなことを言った。 言われてすぐは、どういう意味か分からなかったけれど、一晩たって、ユウコはシンジに返事をした。 「シンジはコートになりたいって言ったけどさ、考えてみれば北風が吹く時には大事にされて、太陽が照れば捨てられる、コートってかわいそうなやつなんじゃない。  シンジはそんなかわいそうなやつになりたいの?」 温め直したパンケー

      • 【みじかい小説No.12】無限の雨だれ

        今日は朝から雨がしとしと降っている。 屋根から落ちてくる雨だれを数えることができたなら、今朝の最初の一滴から数えて、いったい現在その数はいくつになるんだろうなんて、どうでもいいことを考えたりする。 生暖かい喫茶店の店内から、急に肌寒い屋外へと出て、ミキは一度鼻をすする。 季節は11月、街は既にクリスマス一色となっており、喫茶店の入口にも腰の高さを越えるツリーが飾られている。 ツリーに飾られているボール状の飾りの数はいくつかしら? ミキは思う。 けれど思うだけで、もちろん数え

        • 【みじかい小説No.11】片翼の子供

          「いってらっしゃい」 母は今日も玄関まで見送りに出る。 「いいよ、いちいち見送りなんて」 俺はそんな母をうっとうしく思う。 子供じゃねえんだから、と思う。 俺に父はいない。 俺が小学校低学年の頃に離婚して、以来ぱったりと音信不通になっている。 「養育費」を払ってもらえない母は、女手ひとつで俺を育てている。 今日も母は、俺を送り出した後、派遣の仕事に出かけているはずだ。 泣ける話だ。 ちなみに、俺の学校での成績は悪くはない。 このままいけば、文系だが国公立の大学進学も普通に考

        【みじかい小説No.14】セイタカアワダチソウの思い出

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        • 「みじかい小説」シリーズ
          14本
        • エッセイ
          2本
        • 小説
          1本
        • 3本

        記事

          【みじかい小説No.10】失われた花

          手の内でガラス細工がきらりと光る。 手のひら大のボール状の中に、虹色に光る花が一輪、丸ごと閉じ込められている。 ミコはベッドにうずくまって、そっとそのガラス細工に頬を寄せた。 冷たい――。 次いでゆっくりと唇を寄せて、口づけをする。 やはり冷たい――。 ミコは両手でそのガラス玉を抱えて、祈るように目をつむり、おでこにあてた。 神様、どうか、この苦しみからお救いください――。 フィアンセのユージが、スピードを出しすぎた車に衝突され死んだのは、先週のことであった。 ユージはただ

          【みじかい小説No.10】失われた花

          柿食えば

          柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺 と、友人はうたう。 私の友人は稀有な人物で、まだ三十代だというのに、寺社仏閣をこよなく愛し、休日となれば近隣のそれに足しげく通うという趣味を持っている。 その友人が、この秋、結婚をするという。 私と友人の歴史は長く、知り合ってかれこれ10年はなろうかという。 私は女、友人は男、知り合ってすぐに恋に落ち、一年も経たないうちに別れ、それ以来、暇を見つけてはしゃべる間柄となっていた。 その友人が、この秋、結婚をするという。 友人は言う。 結婚をした

          迫る両親の死

          ぶっそうなタイトルでごめんなさい。 ただ、最近の悩みを打ち明けたくて今回のnoteを書きます。 悩みというのは他でもありません。 両親が私より先に死んでしまうであろう、という事実に耐えられない、というものです。 きっかけは分かりません。 ただ、一ヶ月ほど前から、いつか両親が目の前からいなくなるんだよな、といった思いがありありと浮かび上がってくるようになったんですね。 それから毎日のように絶望的な気分になり、何をする気も起きないといった、心ここにあらずの状態が続いています。

          【みじかい小説No.9】女の手

          今夜もまた、あの手が現れる――。 俺の体をなでさする、みだらな手――。 俺は今日も、その手を待ちわびている――。 その手が現れたのは、ちょうど一ヶ月ほど前の、まだ蒸し暑さの残る夏日のことであった。 俺は仕事を終え自宅に戻り、いつものように晩酌と洒落込んだ。 一杯、二杯と盃をあけてゆく。 五杯目まできたところで気持ちよく酔いが回り、それを確認してから布団に入った。 俺はこんこんと眠った。 こんこんと眠る俺のつま先に、何かが触れた気がしたのは深夜もせまった頃だったように思う。

          【みじかい小説No.8】十枚目の皿

          四谷怪談でよく知られた話に、皿を数える女の話がある。 主人の大事にしていた皿を一枚割ってしまい、それを夜な夜な数えて足りない足りないと嘆く女の話である。 女の名は、お岩。 彼女は今夜もまた、屋敷にしつらえられた井戸に立って皿を数える。 「一枚、二枚、三枚……」 両手に抱えた皿を大事そうに数えてゆく。 「五枚、六枚、七枚……」 皿は全部で十枚あるはずである。 「九枚……」 しかし、今夜も一枚、足りない。 お岩の顔が醜く歪む――。 その時であった。 井戸のそばに佇む影がひとつ。

          【みじかい小説No.8】十枚目の皿

          【みじかい小説No.7】おばあちゃんの押入れ

          居間で本を読んでいると、どこかから声がする。 「美代、美代――。」 美代は息を呑む。 美代、美代――。 声はまだ続いている。 読みかけの本を閉じ、美代は居間を出る。 声の主は、か細い声でまだ続けている。 廊下を抜け両親の寝室を抜けると、仏間のあるおばあちゃんの寝室にたどり着く。 「美代――。」 美代は戸と開けると、勝手知ったる風に押入れの戸に手をやった。 からり、とかわいた音をさせて襖を開く。 二段に別れたその下半分に、ちょこんと正座をした祖母が鎮座している。 「見つかっちゃ

          【みじかい小説No.7】おばあちゃんの押入れ

          【みじかい小説No.6】黒猫神のいざない

          ミツキは帰宅するなり洗面所へ駆け込んだ。 まだ心臓がバクバクいっている。 唇に触れる。 まだ、感触が残っているーー。 ミツキは夕方、共働きの両親のために夕飯を作るべく買い出しに出かける。 ミツキ自身は働いてはいない。 職場の人間関係がこじれて辞めてしまったのは、もう三ヶ月も前のことだ。 それ以来、思い出したように就職活動らしきものをしながら実家に寄生して生きている。 我ながら、宙ぶらりんの人生だと思う。 夏の終わりにふさわしくヒグラシの鳴く中、ミツキはスーパーの袋を片手に自

          【みじかい小説No.6】黒猫神のいざない

          【詩No.3】月夜のとんぼ

          今夜は満月である。 遥か彼方のまあるい月が、地球上の、ほんの僕の頭上のわずかな雲を、あかあかと白く染めている。 月をかこむように見えるそれら散り散りの白い雲たちは、僕に何をも語りかけることもなく、ただ浮かんでいる。 じっと雲を見るも、動いているようには見えない。 上空ではどんな風が吹いているのだろうか。 八月の生暖かい夜風に身をさらしながら、僕ははたと考える。 はたして、上空から僕はどんなふうに見えるのだろうか。 そんなことも考える。 月明かりを避けるようにして輝く星たちは、

          【みじかい小説No.5】丸の内カブトムシ

          私たちはカブトムシだ。 会えば互いに角を誇り合い、必要とあらば一戦も辞さないーー。 ここは丸の内。 言わずと知れた、日本でも有数のオフィス街だ。 ここが私たちの戦場だ。 朝、どこからともなくスーツ姿の男女が、てんでばらばらにこの街に集う。 彼ら、彼女らは決めている贔屓の喫茶店などに入り手帳やパソコンを広げる。 そうして会社が始まる一時間、二時間前から業務に取り掛かるのだ。 さながら働き蟻顔負けの勤勉さを見せる彼らの顔は、朝から輝いている。 ーーといった面々ばかりでもないが

          【みじかい小説No.5】丸の内カブトムシ

          【みじかい小説No.4】おばあちゃんのペンケース

          おばあちゃんの手先はくるくる動く。 料理をすればものの小一時間で五品くらい作ってしまうし、編み物をすれば数日でセーターを編んでしまう。 そんなおばあちゃんがペンケースを買った。 透明で、中にポケットが5つもついているやつだ。 それからおばあちゃんはペンもいくらか買った。 マジックと蛍光ペンを2本、それから3色ボールペンを2本。  それから消しゴムも忘れずに。 それからおばあちゃんは筆記用具以外の文房具も買った。 物差しとカッターナイフと携帯ハサミ、それから封筒を開封する時に

          【みじかい小説No.4】おばあちゃんのペンケース

          【みじかい小説No.3】目玉のビー玉ひところがり

          「おじいちゃん、ビー玉とって。」 新聞から顔をあげると、司が四つん這いになっているのが目に入ってきた。 見ると足元に、赤や黄色のビー玉が3、4個転がっている。 「どれどれ。」 私は新聞を一旦二つに折りテーブルに乗せると、体の向きを変えて腰を折り、足元のビー玉をつまみあげる。 ビー玉とは、懐かしい。 おおかたこのビー玉は、司が小学校の友達と遊ぶために母親に買ってもらったものだろうが、それにしても今時のビー玉は、私の子供の頃のものと違って中にキラキラしたものがたくさん入っていたり

          【みじかい小説No.3】目玉のビー玉ひところがり

          【みじかい小説No.2】星を探しに

          「星を探しに行こう。」 ユキが突然、そう言った。 ミズキは不思議そうに首をかたむける。 「どうしたの、急に。」 ポットでお茶を注ぎながら、ユキは答える。 「だってそうでしょ、こんな夜には決まってる!」 一方的なユキの提案はいつものことだ。 「いいさ、ユキが言うならどこへだって。」 ミズキがそれに二つ返事でのるのも、いつものことだ。 そんなわけで二人は、月のこうこうと照らす中、上着を軽く羽織って外に出た。 時計の針は夜の九時を指していた。 「まずはどこへ行こうか。」 ユキが言

          【みじかい小説No.2】星を探しに