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常世の君の物語No.1:安部一色

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平安時代を舞台にしたファンタジー活劇譚です。
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記事一覧

終章 それから

それから一か月が経った。 柳場の一件があって後、陰陽寮では上から下まで事後処理に追われて…

第十二章 大穴

夢弦は気が急いていた。 「ええい、まだかえ」 待っているのは、平貞盛の代理を名乗る男である…

第十一章 狐と天狗と大なまず

薄暗い院の奥に、二、三のあかりが灯る。 たれこめた御簾の内では、先ほどから上皇がうなって…

第十章 源氏と平氏

大広間に面する縁側から庭に向けて、先ほどからいくつもの椀が投げ込まれていた。 怒りをあら…

第九章 白河上皇と夢弦

真中と玄奈は、陰陽寮のとある一室にいた。 二人の前には、腕組みをした直属の上司が一人、机…

第八章 源義彬

狐の祠から峠を三つ越えた個所に、果たして大きな滝があった。 お香の兄、源 義彬は、この近…

第七章 逃走

一色たち四名が、平貞盛一党に囚われの身となり三日が過ぎた。 この日、辺り一帯の役人である貞盛は、用があると言って朝早くから寺を留守にしていた。 残された者たちはそれまで通りに過ごすこととなり、四名も午前中は書庫にこもっていた。 見張りはうまい具合にいない。 「これは好機ではなかろうか。」 雅之がぼそりとつぶやいた。 「いかにも。」 同調を示したのは一色である。 「好機とは?」 玄奈が尋ねる。 「逃げ出すってこと?」 真中が息をひそめて書棚の間から顔をのぞかせる。 「やっかいな

第六章 お香

翌朝は、鍋を金物で叩くけたたましい音で起こされた。 言われるがまま顔を洗い、食事の支度を…

第五章 平貞盛

一羽の紋黄蝶が、ひらひらと舞っている。 蝶はしばらく逡巡した後、今しがたこしらえたばかり…

第四章 襲撃

里山をゆく水干姿が二つ。 一色と雅之は、一応の土産話を携え、一路、村の道を辿っている。 社…

第三章 稲荷神社

「こりゃあ、後始末が大変ですねぇ。」 夜半の女の声でも目覚めず、一人熟睡していた鈴が起き…

第二章 呪われた土地

鈍い鈴の音が鳴る。 その後に間を置いて、二度、手を叩く音が鳴る。 ここは柳場《やなぎば》近…

第一章 依頼

一筋の涙が、頬をついと流れた。 その感覚を感じ取って、涙の主はぬっと起き上がる。 「おっ、…